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2021年2月の記事一覧

春の発見

春の発見

その子 二十歳 櫛にながるる 黒髪の おごりの花の うつくしきかな
みだれ髪
与謝野 晶子

歌集みだれ髪の名前の元になった短歌。

自分の中の官能を堂々と歌ったナルシズムが心地いい。

明治の大きな特徴は思春期の発見じゃないかと思っている。それまでは16歳ぐらいになると結婚と子育てが始まってしまっていた。高等教育がはじまって青春を楽しむようになったと思う。

夏目漱石なんか読んでると、娘義太夫に

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感じることの重さ軽さ

感じることの重さ軽さ

 山本周五郎の戦前の千葉県浦安の生活をえがいた「青べか物語」に貧しい女給にだまされるインテリ青年が出てくる。
原民喜も同じようなことをした。不幸な女性を助けることで自分を助けると錯覚した。そのことは恥ずかしくて一生黙っていたそうだ。小林多喜二も、似たようなことをしたらしいし、あの頃の青年のひとつの行動パターンなんだろうと思う。

それぐらい、立身出世する青年の幅は狭まっていて非人間的だったのだろう

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モノローグ 独白

モノローグ 独白

 モノローグという言葉で思い出すのが、萩尾望都のポーの一族だ。

新作も出て新しいファンを獲得しているのもあって、今、素晴らしい配役でのミュージカルが演じられている。

 何年か前、銀座でやっていた「ポーの一族展」に行った。子供のときに、ボロボロになるまで何度も読んだからか、全部セリフが入っていたのに驚いた。いまでも、ラスト「アラン。君もおいでよ。ひとりでは寂しすぎる」というセリフと、エドガーがア

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あまりっ子と芸術

あまりっ子と芸術

蛸壺(たこつぼ)や はかなき夢を 夏の月
松尾芭蕉

芭蕉がタコ漁の名所、明石を訪ねたとき作った俳句。

日持ちするタコは夏のごちそう。タコつぼに入ってのんびりと夏の月夜に寝ているけれど、朝には引き上げられて食べられてしまう。

弟子の杜国とともに明石に遊んだ時、吟じられた俳句。芭蕉門下の句集である「猿蓑」初出。死後、弟子によってまとめられた紀行文、「笈の小文」の最後をかざる句。

杜国は豪商の跡

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生活と歌

生活と歌

是がまあ ついの栖か 雪五尺

小林一茶

江戸時代の後半になると社会が豊かになった。特に江戸への人口と富の集積が大きいように思う。その中で印刷の普及が進んだ。どんな家でも浮世絵の美人画が一枚だけでも飾られたりする。それで絵描きはパトロンなしに食べていけるようになった。

源氏物語といった古典が普及したのも印刷文化のおかげだ。どんな境遇の人でも文学を勉強するチャンスができる。そうして裾野が広がった

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