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桜が咲く日には

二〇二一年 三月二十三日 火曜日 天気 晴れ
東京、中央区立日本橋中学校と隅田川を結ぶ歩道橋の学校側に、ソメイヨシノの木々が、桜を咲かせようとしている。
太陽は今日も相変わらず元気だ。
雀たちの鳴き声が聞こえる。
もしかしたら、彼らも我々人間と同じく、桜が満開になるのを心待ちにしているのかもしれない。

ユウマは、博多から東京に転勤する。
彼の家は、浅草の商業ビルの上階にある、浅草駅から徒歩すぐの場所に位置している。
彼の趣味はマラソン。
平日の夜、会社が終わると、日々のストレスから解放されるために、隅田川で音楽を聴きながら走る。
休日の朝、いつもより少しだけ遅く起きて、隅田川を走る。

ミキは、彼氏に振られてからおよそ二ヶ月が経過した。
彼女の家は、隅田川沿いにあり、スカイツリーを眺めることができる三階の部屋に位置している。
彼女は失恋の気分を紛らわせるため、平日の夜と休日の朝、隅田川を走る。

両国橋、この橋は、男女のランニングコースのゴール地点。
彼らはそれぞれ別のゴール地点で、息を整えて、家路へと向かう。


二〇二一年 四月五日 月曜日 天気 雨
朝から降っている雨が、ようやく止み始めてきた夜、男女は隅田川を走っていた。隅田川を挟み、彼らはそれぞれのランニングコースを、いつものように走る。
ユウマはゴール地点で、息を切らしている。
ふと両国橋の反対側を見ると、そこには遅れてミキがゴール地点に到着して、息を切らしている。
お互いの目線が合う。そして、それぞれの家路に向かう。
隅田川には、テラスの街灯が反射している。

翌日の夜、彼らはそれぞれのランニングコースを走っている。
ミキは昨日の男を思い出し、隅田川を挟み、ふと反対側を見ると、走っている男の姿がある。
ミキはゴール地点で、息を切らしている。両国橋の反対側を見ると、遅れて男がゴール地点に到着して、息を切らしている。
お互いの目線が合う。
二人は照れながら、はにかむ。それぞれの家路に向かう。


二〇二一年 四月十七日 土曜日 天気 曇り
朝、隅田川では、鳥が気持ちよさそうに泳いでいる。
彼らとは裏腹に、東京墨田区の天気は、重々しくどんよりとしていて、これから雨が降り始めそうな曇り空だ。
男女は隅田川を走っていた。
ユウマは先週の女を思い出し、川の反対側を見ると、走っている女の姿がある。
かすかではあるが、女も反対側、つまり彼を見ている。彼は、それを確かめたく思い、走りながら手を上げる。まるで挨拶を交わすかのように。すると、女も手を上げる。
二人はゴール地点に到着し、息を切らしている。
ユウマは手を上げる。すると女も手を上げる。
二人は微笑む。それぞれの家路に向かう。
両国橋は、車と人が行き交っている。
少しばかり、雨がポツポツと降り始めてきた。


二〇二一年 四月二十三日 金曜日 天気 晴れ
夜、隅田川のテラスにある街灯は、まるで夜の始まりを告げるかのように、優しく光が灯り始める。
男女は隅田川を走っていた。
強い風が、二人の頬を切る。
ミキは男を思い出し、川の反対側を見ると、走っている男の姿がある。
二人は走りながら、手を上げる。彼女はゴール地点で息を切らしている。男のことが気になり、両国橋の反対側を見る。
しかし、そこには男の姿は見当たらない。
彼女は息を整え終わるが、男はゴール地点に現れない。
彼女は男のことが心配になり、男のランニングコースを歩く。すると、遠くから男の姿が見える。男は右足を引きずっている。
彼女は男の元へ駆け寄る。男は途中で、捻挫をしていたことが分かる。
男よりも身長は低いが、彼女は肩を貸し、男のゴール地点まで歩く。
夜明け前、隅田川に反射するテラスの街灯は、まるで眠るように、静かに消えていく。

翌日、土曜日の朝、隅田川では観光客向けの水上バスが通っている。
ミキは隅田川を走っていた。
彼女は昨日の男の捻挫を思い出し、川の反対側を見るが、男の姿は見当たらない。
彼女は前を向き、ランニングを続ける。


二〇二一年 四月三十日 金曜日 天気 晴れ
夜、ミキは隅田川を走っていた。
彼女は再び、川の反対側を見る。しかし、男の姿は見当たらない。
彼女はいつもより、少しだけ速度を遅めて走る。
彼女はゴール地点で、息を整えず、家路に向かう。
彼女は窓辺から、グラスの赤ワインを飲みながら、隅田川を眺めている。
風が、いつもより彼女の頬を優しく撫でる。


二〇二一年 五月九日 日曜日 天気 曇りのち晴れ
朝、飛んてきた鳥が、隅田川で泳いでいる。
雲は厚いが、少しずつ、少しずつ、太陽が顔を表している。
ミキは隅田川を走っていた。
彼女はやはり、川の反対側を見る。
すると、そこには男の走っている姿が見える。彼女は手を振る。そして男も手を振り返す。しかし、男はいつもより走る速度が遅いことに、彼女は気づく。彼女は男の走る速度に合わせる。
ユウマは、女の走る速度が遅くなったことに気づく。
二人はゴール地点に到着し、少しだけ息を切らしている。
お互いの目線が合う。
彼はコーヒーを飲む仕草を、彼女に向けてする。彼女は笑いながらも、彼の誘いを受ける。

Bridgeというコーヒー屋は、京葉道路に面している、馬喰町では人気のコーヒーとアイスクリームを味わうことのできるお店。
両国橋からは歩いて5分程度。
メグミはユウマの捻挫を気遣い、少しだけ遅めの速度で歩く。
彼らは、そのお店でコーヒーとアイスクリームを注文する。
彼らは席に座り、コーヒーを飲み、会話をして、アイスクリームを食べ、連絡先を交換して、楽しいひと時を過ごし、それぞれの家路に向かう。

ミキは家に戻り、長袖のランニングウェアをハンガーにかけ、椅子に座るり、先ほどのひと時を思い出している。
ふとスマートフォンを見ると、ユウマからのメッセージ通知がある。彼女は彼からのメッセージに返信をする。
彼は半袖のランニングウェアをテーブルの椅子にかけ、ソファーに座り、彼女からのメッセージに返信をする。二人はしばらくメッセージのやり取りをする。
彼はソファーから立ち上がり、窓際で彼女に電話をかける。彼女は窓際で、グラスの白ワインを飲みながら、男からの電話に出る。二人は電話で楽しいひと時を過ごす。
隅田川のテラスにある街灯は、まるで仕事を終えたかのように消える。


二〇二一年 五月十九日 水曜日 天気 雨
今年は、梅雨入りが例年よりも早い。
夜、隅田川では多くの鳥が飛び立っている。
ミキは、雨に打たれながら、隅田川を走っていた。
彼女は、川の反対側を見る。しかし、ユウマの姿は見当たらない。彼女はいつもより、少しだけ速度を遅めて走る。
彼女はゴール地点に到着する。
彼女は軽く息を切らしながら、両国橋の反対側を見る。やはり、彼の姿は見当たらない。
彼女は息を整えず、家路に向かう。
両国橋は、いつも通り、車と人が行き交っている。

翌日、木曜日の夜、隅田川は穏やかで、テラスの街灯が反射している。
ユウマは隅田川を走っていた。彼の捻挫は完治した。
彼は川の反対側を見る。しかし、ミキの姿は見当たらない。
彼はゴール地点に到着する。
彼は息を切らしながら、両国橋の反対側を見る。やはり、彼女の姿は見当たらない。
彼は息を整えて、家路に向かう。
京葉道路には車が多く、渋滞している。

翌日、金曜日の夜、隅田川にあるテラスの街灯は、いつものように点く。
ユウマとミキは隅田川で走るための準備運動をしていた。
二人はいつも通り、走り出す。
彼女は、川の反対側を見る。そこには、彼の姿が見える。
彼も、川の反対側を見る。そこには、彼女の姿が見える。
彼女は、前を見て走る。彼も、前を見て走る。
彼らは、いつもより少しだけ、速度を速めて走る。
二人はゴール地点に到着して、いつもより息を切らしている。二人は、しばらく息を整える。

両国橋は、車と人が行き交う。

二人の目線が合う。

ユウマはミキに向かって、歩き出す。
ミキもユウマに向かって歩き出す。

橋の中央、二人は立ち止まる。

お互いの目線が合う。
彼は彼女を優しく抱きしめる。
彼女はそれに優しく応える。

両国橋は、まるで時が止まったかのように、車も人も通らなくなる。

二人の目線が合う。
彼は彼女に優しくキスをしようとする。
彼女はそれに優しく応える。

お互いの手が重なり合う。