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【翻訳メモ】INSIGHTS FOR THE JOURNEY

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■全体目次 https://note.com/enflow/n/n51b86f9d3e39 ■「ティール組織」の著者であるFrederic Laloux によるINSIGHTS… もっと読む
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【4.2.4】心理的オーナーシップのレベルを見極める(What's the level of psychological ownership?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/424.html ■翻訳メモ 今回のトピックである心理的オーナーシップのことは、信頼と自己修正を扱った以前の回でも話しました。このトピックは非常に重要なので、何度繰り返してもいいと思っています。なぜなら、それは、「セルフマネジメント」に向けて行動を開始すると、遅かれ早かれ、必ず遭遇する避けては通れない問題だからです。困難に直面した時、そこでのリスクに対する許容度は非常に重要になってきます。その許容度を決めるのは、ある1つの重要な変数にかかっています。それこそが、組織内に存在する心理的オーナーシップです。メンバーにとっては、何をするにしても、その事がいかに「自分事」になっているか問われることになります。それは「良い仕事」に対する基準値と言い換えてもいいでしょう。組織のメンバーがそれぞれに「良い仕事」に対して意識を持っていると、移行はスピーディーに進み、リスクへの許容度も高まってきます。もちろん、移行がすべて完璧にスムーズに進むなどということはありえません。しかし、皆の「良い仕事」をしたいという気持ちが強ければ強いほど、失敗への許容度も高まり、そこからの立ち直りも早いのです。「良い仕事」をしたいという気持ちのある人は、何事にも積極的に取り組みます。パーパスや顧客のためにその気持ちが発揮されやすくなります。 その逆に、心理的オーナーシップか低い人は、次のような特徴を持っています。まず、皮肉屋であること。そして、指摘ばかりして自分は動かないこと。仕事の目的は給与であると言い切る傾向があること。結果に対する責任はマネージャーとトップマネジメントにあると信じていること。そのため、与えられた仕事しかしないこと。組織がリスク取って、移行を早めようとし、彼らに自由を与えてしてしまうと、彼らは喜々としてそれを受け取ります。そうなると、それ以降は、驚くほど悪い方向に向かいます。そんなリスクは取ってはいけません。厳しい言い方をすると、彼らは自分の仕事にプライドを持っていないのです。その状態だと、システムが自己修正を起こすこともありません。これは、本当に知っておいてもらいたいことです。組織の持つ心理的オーナーシップにきちんと目を向けるようにしてください。 一つ、興味深いテーマを紹介しましょう。組織の心理的オーナーシップが高くもなく、低くもなくといった状況の時です。では、その状態から、どうやって心理的オーナーシップを上げていきますか?当然、「セルフマネジメント」は前に進めて行かねければなりません。そこで絶対にやってはいけないのは、「オレンジ」の視点を使ったテクニックに依存した方法です。つまり、アメとムチの使い分けといった方法です。これは絶対にいけません。科学的に、メリットよりもデメリットの方が大きいことが証明されています。人を大事にしているということをアピールしても、本質が伴っていなければ、簡単に見透かされてしまいます。では、仕事や組織を誇りに思ってもらうためには、どのようなことができるでしょうか? ここでは、私が実際にその効果を体験した4つの方法を紹介しましょう。1つ目は、組織のパーパスを明確にすることです。メンバーにとって、組織が重要なパーパスを果たしていると確信できていることは、組織にとっても彼らにとってもとても重要なことです。自分の仕事がどのように社会とかかわっているか、関心を持つきっかけになります。組織にとても魅力的なパーパスがあり、やるべきことが分かっている場合と、明確なパーパスがなく、何をやったらいいのか分からない場合とでは、そこに雲泥の差があります。 2つ目は、パーパスがあっても、それが浸透していない場合のやり方です。実に多くの組織がこれに当てはまります。病院など、人の命を救うというパーパスが明確な場合でも、そこで働いている人は、しばしばそれを忘れてしまっています。その一方で、日々の仕事のなかで起こる、ちょっとしたことでも、それをたたえ合う組織も存在します。そうやって、お互いを認め合うことによって、パーパスへの理解が深まります。(そして、まさにこれの逆が一方通行のトップダウン・コミュニケーションです。)人と人との関係性を使って、パーパスに対する理解を深めるには次の方法があります。組織のメンバーがハッシュタグをつけて、自分たちのちょっとしたことをビデオにして流したり、自分たちがしてきたちょっと誇りに思っていることを共有したりするのです。 3つ目は、以前のビデオでかなり詳細に説明した自動修正システムの活用がそれにあたります。そのシステムが力を発揮するには、仕事の結果を直接知ることができるかどうかにかかっています。それは、優れた仕事をしたときは、優越感を持つことができ、良くない仕事をした時には痛みを感じるといったことです。最近は、多くのチームが、あまりに自らの仕事の結果から遠いところに置かれてしまっています。彼らは自分の仕事だけをします。そして、クライアントが自社の営業担当や財務部門に不平を言ってきても、彼らは、自分は関係ないという態度を取ります。自分のした仕事が良い仕事だったのか、それともよくない仕事だったのか知るすべがなければ誰でもそうなってしまいます。もし、変えることができたなら、それは心理的オーナーシップを植え付けるための重要なステップとなり得ます。 最後の一つは、メンバーの、組織のトップに対する信頼の度合です。それによって、組織の持つ心理的オーナーシップは変わってきます。多くの組織では、メンバーは会社のトップのことを信用していません。そして多くの場合、これは間違いなく、トップは周りから信頼されていないという事実に気づいていません。以前のビデオで、ファヴィ社やAES社における組織内での信頼関係構築の仕組みを紹介しました。人と人が同じ場所で同じ時間を過ごすことは多くの人に気づきを与えます。そしてそこに会話があるだけで、メンバーはトップとの「きづな」を感じられるようになるのです。そして、それは、結果的に、組織の文化となっていきます。なぜ、ここでトップマネジメントのことを出したかというと、これまでは、トップマネジメントこそが、会社の顔であったはずです。もちろん、「セルフマネジメント」によって、それがそうでなくなってしまったのですが。しかし、それでも、トップマネジメントの存在は重要です。メンバーがトップマネジメントとの間に、強い信頼関係があると認識しているのであれば、心理的オーナーシップの向上には期待が持てます。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.2.3】仕事が少なくなる恐怖に向き合うこと(Addressing the fear that there will be less work)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/423.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」への移行を開始すると、ヒエラルキー型のシステム下で発生していた膨大な量の無駄が、白日の下にさらされます。ダラダラと予定の時間を過ぎても続く会議や、何かの調整を目的とした会議がそれらの典型です。以前、すべての人は、階層によって管理されてきました。そして、それが、自分のポジションが安全であるとの認識につながっていたのです。隣り合った上下の階層に情報を流すだけの目的で作られたExcelやPowerPointなどの資料は、「セルフマネジメント」の元では、それらのほとんどが役に立ちません。上司へ忖度しても機能しないでしょう。コンサルタントのゲイリー・ハメルは、ほとんどの人が2つの仕事をしていると言っています。すなわち、1つは本質的な仕事で、もう1つは他人の目を気にした、いわば、「うわべだけ」の仕事です。今までのシステムが崩壊したことによって、空き時間ができてくるのです。 「セルフマネジメント」への移行期には、そのような空き時間が突然現れます。時間を自由に使えることは素晴らしいことです。無駄な仕事に時間を費やすこともなく、パーパスに向かって働くことができるようになります。しかし、私が「自由な時間」と表現する、その空き時間は、一部の人にとっては無駄を意味するようです。私たちは、基本的に、時間に余裕のない人にたくさんの給料を払ってきました。中間管理職、トップ管理職、および人事部門に高給取りの多くが集中していると思います。もちろん、給料が良いこと自体は、けっこうなことです。しかし、「セルフマネジメント」に移行したら、時間に余裕ができてしまった彼らはどうなってしまうのでしょう?彼らは組織を去らねばならないのでしょうか?彼らは解雇されるのでしょうか?それとも、何か別の役割が与えられるのでしょうか? - いま言ったことは、従来のシステムの世界観です。組織図を広げ、その上で、人を駒のように扱う世界観なら、これらのことが起こるでしょう。 「セルフマネジメント」への移行期では、次のようなプロセスが発生します。基本的には、次の2つです。まず、どちらかというと、ごくごくまれだと思いますが、会社が生き残っていくために、資金繰りを維持を目的に、それ以上の流血を止めようとするパターンです。こちらを選択する場合は、財務面の逼迫を理由に、社員に対し、退職勧奨することになります。去ってもいいと思っている人に、より良い枠組みを提示します。まさに、早期退職プログラムが効果を発揮する場面です。それらの人は、「セルフマネジメント」に意味をまったく見出せないか、あるいは、自分の人生において、もっと別の経験をしたいと思っているなど、何らかの理由によって組織を去っていきます。 ただ、大多数はこちらのケースでしょう。つまり、フリーな時間にフリーな才能が当てはまっていくケースです。つまり、いままで、やろうとして、手を付けていなかったプロジェクトなどに人が加わることで、プロジェクト自体が活性化していきます。ほとんどの組織では、探せば、組織内に無限の取り組みやプロジェクトがあるはずです。なぜなら、組織はパーパスを追い始めたからです。しかし、新しい組織には、エネルギーも人材も不足している状態です。人によっては、ようやく自分本来の場所が見つかったというでしょう。また、別の人は、組織にとって価値がることができて、とてもワクワクしていると言うでしょう。 これは組織における安心感と安全性につながることなので、確実にやっていくことが重要です。かつて「セルフマネジメント」を始めようとした時、ポジションがなくなると思い、恐れが充満しかかったかもしれません。仕事がなくなるかもしれないと思うと、当然、人は不安になります。仕事を辞めないとしても、どこに飛ばされるか分からないという時も、すごく不安になるものです。それらが重なって、精神面で追い込まれると、今度は自己中心的な考えが跋扈します。最悪の場合、架空のポジションを勝手に作り、「これが私の新たな役職です」などと言って居座ってしまう場合もあり得ます。しかし、前もって、組織はうまくいっているから何も恐れる必要はないという告知が十分にできていると、メンバーは、自分の価値を高める方法を見つける時間を持つことができます。 時間が過ぎると、多くの人は、おそらく、突然、それまでとは全く違う何かを感じとることになります。安心感や安全が保障されたことが分かると、周りを見渡す余裕が出てくるようになるのです。そして、「私は前からこうありたいと思っていた。そして、いま、ようやくそれを手に入れた」などという声が起こり始めます。多くの組織で、このような好転が起こりました。自分はそんな仕事に就くことは絶対にないであろうと思っていた人も、その役割とともに成長が可能になったのです。そうすると、「私の仕事をちょっと体験してみない?」などという連携が起こり始めます。そうなると、今までとは世界が一変します。少し手伝ってみることで他人の仕事を理解するというのは、とても素晴らしいことです。 ある組織でのとても素晴らしいと感じた変容の話をご紹介したいと思います。それは数年前にベルギーの運輸省の中で起こったある変化のことです。最初、組織が「セルフマネジメント」を始めた時点で、メンバーは2週間ほど、自宅で仕事することになりました。すると、彼らから、「交通渋滞に巻き込まれず、家で仕事をして、家からデートに行くこともできるようになった」などの声が聞こえてきました。しかし、そういう状況を知って、窓口担当チームからは不平が出て来ました。「ちょっと待ってください。これでは不公平ではありませんか。家で仕事をしたいのはやまやまですが、私たちは市民の人たちと会話しなければなりません。窓口業務は放棄できませんから」、と。次に何が起こったのかというと、自宅で仕事をしていた人の中から、「ファイルを持ち帰って自宅で仕事することも重要ですが、週に1〜2日仕事内容を変更して、市民と直接対話する時間が持てるのなら、それはとても魅力的です」と言いだす人が出て来ました。この役割の交換は当然、人事部が仕掛けたものではありません。これがまさに、本質的な連帯が起こった瞬間だったのです。窓口業で週5日働いていた人は、ファイルを持ち帰って、週に1〜2日、自宅で働くことになりました。これが純粋な関心が素晴らし結果を引き起こした例です。そうしたら、その後、省の清掃担当者からも、やはり、週1日か2日は家で働きたいと言う人が出て来ました。しかし、これは問題でした。なぜなら、週に1回か2回、自分の家を掃除しても給料は支払われません。そういう理由で、清掃の担当者は、週の内、1日か2日、コールセンターで働くことになりました。そのため、彼らは、コールセンター業務のトレーニングを受けました。しかし、なぜコールセンターだったのか?それは、その時、1日か2日なら、スタッフが在宅勤務しても仕事が回るようなソフトウェアを導入したタイミングでもあったからです。 週に5日、オフィスを清掃していた人が、オフィス清掃は週に3〜4日、そして、週に1〜2日は自宅からコールセンターに行くようになりました。数年前、同省でこの変革を率いていた人物と会話したとき、彼は、この連帯が発生するメカニズムは心理的安全性にあると、特にその部分を強調して語ってくれました。人は、自分の仕事が守られていると感じることほど、安心して働けることはありません。職場に安心感が広がるとメンバーは周囲に心を開きます。同省では、この大変興味深い試みを実施したために、オフィススペースを、以前使っていた4万平方メートルから、その約半分の2万平方メートルに縮小することができました。理屈だけで言うと、通常は、週3日勤務が可能になったら清掃担当は人数を減らされます。しかし、彼らはコールセンターに行くことになったので、誰一人として人員削減の対象にはならなかったのです。 いま、私が話したこと以外にも、仕事が確保できる方法を考えてみてください。繰り返しになりますが、「安全」と「連帯」がよりどころとなって、事務職や、受付担当や、清掃担当といった職のラベルに囚われていた人たちも、その枠組みが架空のものであったことに気付くようになったのです。これは人事プログラムではあり得ないことです。彼らは、自らの内面に向き合い、組織のパーパスに沿った仕事を自ら見つけるという再発明を行いました。 突然降って湧いた自由を手にした時のことを、前もって考えておくことをお勧めします。人によっては、それは、即、失業を意味するでしょう。そうならないためには、いままでよりも、もっとハッピーな仕事について、周りを安心させる準備はしておかなければなりません。もちろん、次の仕事が本当にやりがいのあるものかどうかは、その本人にしかわからないことですが。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.2.1】目指すところを明確にする(How far will you go?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/421.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」への移行を始める際に、「どこに向かって行くか」という到達場所を決めておくことは非常に重要です。その際は、自分のやろうとしていることと、それが実現可能なのかという周りの状況との、それら2つをしっかり把握している必要があります。なぜなら、いったんあなたが「セルフマネジメント」や「ティール」といった、引っ込めることのできない言葉を使って会話を始めると、もう後戻りはできないからです。あなたが始めようとしていることを聞いて、組織のメンバーは騒ぎ出し、マネージャーは自分の仕事が消えてなくなると推測を始めます。その時点で、あなたは、その行為が持つ影響の大きさに気付くことになるでしょう。それに対し、あなたは説明できる「答え」を持っているべきです。それがないと、すべてが難航するのは目に見えています。言葉が与えるイメージは実際に起こることの先を行ってしまうため、時にはそこに経験しなくてもよい「痛み」が生じます。私はそういった例をいくつも見てきました。「セルフマネジメント」という言葉から考えを膨らませて、メンバーは、画一的なものを押し付けられると考える傾向があります。当然、「セルフマネジメント」は型にはめるような、そんなシンプルなものでもありません。あなたが「答え」を持っていないと、「セルフマネジメント」を浸透させるのに、とても長い時間がかかってしまうということです。 ところで、あなたにとって、「セルフマネジメント」とは、どこを目指したものですか?今から、大まかに、3つのカテゴリーに分けて、その場所について整理してみたいと思います。ひょっとしたら、あなたは本当の「セルフマネジメント」を望んでいない可能性さえあるのです。もっと、正確に言うと、あなたが望んでいるのは、「エンパワーメント」なのかもしれないということです。もし、「セルフマネジメント」の理想形はボトムアップだと思っているのだったら、あなたは階層の残存を望んでいるということです。階層があることによってあなたは安心を獲得できるということです。そういう人は、階層のない世界が想像できないはずです。これが、株主や経営メンバーが階層の解消を望まない理由です。少なくとも彼らにとって階層は必要なものだからです。 しかし、階層を維持していても、素晴らしいことができるというのも真実です。ボブ・ヒギンズの本、「発達指向型組織」(DDO = Deliberately Developmental Organization)が参考になります。それによると、そこに出てくるような組織も、最初は階層構造がありました。しかし、それでも素晴らしいことはできるのです。もし、あなたが本当にメンバーの成長を願っているのなら、どんな組織にいても、サーバントリーダーシップを試すことは可能なはずです。 ボブ・チャップマンの本では、階層があってもうまくいった、2つの素晴らしいストーリーが紹介されています。ペリー・ミラーの例として紹介されている、サーバントリーダーシップの発揮方法がまさにそれにあたります。 もう一つ挙げられているのは、どこにでもあるような通常の階層型組織の例です。つまり、組織形態にかかわらず、現場は「セルフマネジメント」で活動しているといった例はよくあります。会社全体は伝統的なピラミッド型の構造でも、工場などの現場は、チームリーダーの存在に関係なく、「セルフマネジメント」が浸透している場合があります。それの進化版と言ってよいと思いますが、アマゾンに買収されたことで有名になったホールフーズ社の場合、私の知り得る限り、各店舗は「セルフマネジメント」で運営されています。つまり、会社全体は伝統的なピラミッド型のマネジメントですが、店舗には、生鮮食品担当や食肉担当などのさまざまなセルフマネジメントチームが存在しています。 ご存じのように、そのような折衷型でなく、完全な「セルフマネジメント」に移行して、権限をもった階層を一切残さないやり方もあります。組織の規模に応じてかかる時間は違ってきますが、大規模な組織では2年かそれ以上はかかるはずです。ですので、最初に、何をしようとしているのか、明確化することは、とても重要です。つまり、あなたが、メンバーに対して、組織の将来像を明らかにし、特に彼らがどう振る舞えばよいのか想像できるようしてあげることは、「セルフマネジメント」に向かう際の義務と言ってもよいでしょう。 進化の余地を残しながら、権限移譲から始めていく方法もあります。そして、経営陣が、ほとんどすべてを手放す準備が整ったと分かった時点で、完全な「セルフマネジメント」へシフトします。しかし、それでも、ゴール地点は明確にしておく必要があります。そして、それには経営陣がどこまでなら許容するかというぎりぎりの線をつかんでおく必要があります。いま、ビデオを一時停止してもらってもよいですか?あなたはどこまで進みたいと思っているのか、そのためには何をメンバーとシェアすればよいか、自分自身に問うてみてください。 別の方法で、変化の意義を追求していく方法があります。つまり、「セルフマネジメント」になったら、何が変わるのか、良いことを挙げていく方法です。逆に、どんな仕事や出来事が嫌かも挙げて、それらをリスト化していきます。例えば、こんな意見が出るかもしれません。「私はアドバイスプロセスを理解しています。そして、そのやり方を信じています。それゆえに、『セルフマネジメント』に進みたいのです」。ほかには、「私は、何よりも貧弱な力でしかないヒエラルキーを取り除きたいと思っています。しかし、それでも、次の4つか5つかの項目に関してはリーダーに拒否権を持っておいてもらいたいと思っています。価格設定にかんすること、新製品にかんすること、外部取締役会の決議がそれにあたります。また、主要なクライアントから見ると、私たちの内部の変化は知らないわけですから、混乱を避けるためにも、外見を維持するというのは必要だと思います」。実は、これらのことを経営陣と握っておくことはとても重要です。一部の権限は残しておいて、それら以外は組織内に分散させるということ。残したものも、いずれは組織に組み込むという具合に、決めておくのです。それが、彼らにとっても、そして、組織のメンバーにとっても、健全に進める工夫なのです。そういう意味では、当初は、伝統的なトップダウンを維持するというやり方も含まれるということです。 もう一度、このビデオを一時停止していただけますでしょうか?今度は自分自身に置き換えて先程の演習をやってみてください。「セルフマネジメント」のいいところ、悪いところを書き出すワークです。これをすれば、あなた専用のリストが完成します。 先程出た「拒否権」について、その考え方を補足したいと思います。テクニカルな言い方をすると、拒否権というのは、同意が前提となった意思決定に対して行使するものです。アドバイスプロセスもその考えが前提になっていることをご存じの方なら、私の言っていることがよく理解できると思います。行使しなかったら、あなたはそれに同意したとみなされるわけです。経営陣がしがみつく、「拒否権」の本質とはそのようなものです。 先程提案したリスト化のエクササイズは、経営陣とのやり取りにおいても効果を発揮します。例えば、あなたが、「セルフマネジメントへ向かう気持ちの準備はすでにできていると聞きましたが、いまの感覚を聞いてもいいですか?」と、経営陣に向かって投げかけた際、彼らの覚悟がよく分かると思います。あなたのやろうとしていることを認めているのか、あるいは、心の底では抵抗しているのか、この質問でつかむことができます。また、この質問をすることで、ここが足りないとか、リスクがあるとか、経営陣なりの考えを聞くよい機会にもなります。それらを知ることで、あなたは、リストに追加することができます。あなたが質問することによって、経営陣の心から恐れを取り除くことができるかもしれません。あなたのそういった振る舞いが、結果的に、彼らの後押しをもたらすかもしれません。 繰り返しになりますが、あなたが、「セルフマネジメント」に向かうと言った時点で、もう後戻りはできなくなるのです。周りの人に質問攻めにあうことも必定です。それゆえ、「どこを目指しているか」については、必ず回答を用意しておいてください。そして、それが明確であればあるほど、プロジェクトにかかわる人たちを迷わせることなく、痛みをも遠ざけることのできる確率が高まるのです。また、あなたにとっては、事実を述べることが必要になってきます。最初から分かっていることは、変に繕わず、最初から明確にしておくということです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.2.2】「セルフマネジメント」という言葉を使う?(Use the term "self-management"?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/422.html ■翻訳メモ 前回のビデオでは、「セルフマネジメント」でどこまで行きたいか、そして、その準備ができているか、という質問をしました。今回は、「セルフマネジメント」に向かうスタートを、今、まさに切ろうとしている状況だという想定で話を進めていきます。すると、次は、それについて、組織のメンバーにどのように話をするかということが問題になってきます。というのも、私は、その言葉の使用を禁止した例を聞いたことがあります。「セルフマネジメント」以外にも、「自己組織化」、「フラットな組織」、「ボスレス組織」などが禁止ワードに含まれたそうです。聞くところによると、彼らが「セルフマネジメント」を始めようとした時、社員の間では、多くの恐れや誤解、そして失望がまき起こりました。また、それらが原因で抵抗勢力との間に軋轢も生じました。そして、彼らは、そのような状況を生み出したのは、それらの単語を使ったせいだと結論付けました。彼らの組織は、かなり大きな組織であったがために、それらの言葉を使って、発表も大規模にしなければならなかったという理由はありました。「セルフマネジメント」はすべての層にまで行き届くことで初めて機能するものです。それゆえ、そこに至るまでの個人の変化は、長い時間待たなければならない場合があります。実際に多く人は、自らが勝手に妄想を膨らまし、そして、それに失望してしまうものです。 特定の名前を呼ばないというこの考えには、確かに共感できる部分があります。次に、実際にそれを実行すると、どのようになるか検証していきましょう。 仮に、名称や単語を出さなくとも、あなたはその中身について触れる必要があります。あなたが心に留めている「目的地」について、何らかの方法で、また、いずれかのタイミングで組織のメンバーには話さなくてはなりません。その答えは、常に、コンセプトに沿ったストーリーを話すということです。つまり、私が言いたいのは、なぜ「セルフマネジメント」に行きたいのか、できる限りずっと、あなたが話し続けることが必要です。それらは、すなわち、それが組織の目的をどのようにサポートしているか、それはあなた自身の世界観とどのように一致しているか、組織のメンバーにとっての最善の方法とどのように一致しているか、組織の持つストーリーとどのように一致しているか、といった事柄になります。それらは一度言ったら良いというものではなく、毎回言い続けなければなりません。 そうは言っても効率も重要ですから、どこかの時点で、シンプルに「セルフマネジメント」という言葉を口に出してください。そうでないと、管理することが目的でくどくど話していると思われたら、あなたのことを嫌いになる人が出てきてしまいます。そうなる前に、たまには、マネジメントから外れて、あなた自身のストーリーを語ってください。そのストーリーを語る時に、「セルフマネジメント」という言葉を出すのが有効なのです。 常に、こういったストーリーは話し続ける必要があります。そして、それは、簡単に済まそうとすると、おそらく半分も伝わらないものでもあります。そこで、組織を自己組織化して、あなた以外の周りの人も話せるようにしていけばよいのです。それができればあなたが話す量も半分で済みます。つまり、これは、チームのための決定に参加できる力を皆が持ったことを意味します。特定のターゲットに対して、トップダウンを課す必要がなくなったということです。 そんなトップダウンを避ける方法として、私たちはかつて、長い時間を要する承認メカニズムに頼ってきました。それというのも、1よりも100といった、より多くの知性をよりどころとした方がより納得感を得られる決定に到達できるからです。つまり、「セルフマネジメント」という言葉の代わりに、背後にある理由を示唆する、もっと簡単な言葉で説明する方法があるのです。「私たちはシステムを変えることで、誰もが強力になれる」と私が話せば、その言葉に反論するのは非常に困難だと思います。ゆえに、「セルフマネジメント」という言葉に頼らずとも、可能な限り、コンセプトに沿ったストーリーを語ることが重要なのです。例え、そのストーリーは完璧でなくてもいいのです。名前を呼ぶことによる恐怖や失望といった落とし穴を避けることが可能になると思います。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.23】既成のシステムを導入すること(Adopting a ready-made system?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/4123.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」への移行準備が整った時、ある選択の岐路に立たされることでしょう。つまり、組織に合うように内製するか、あるいは既成のシステムを参考にするかといったことです。既成のものでは、ソシオクラシーやホラクラシーが有名ですが、中には限られた小さな地域で運営されているシステムもあります。バスク州にはNER(Nuevo Estilo de Relaciones)と呼ばれる企業体があります。もっとも、私は、昨年、NERの中で、しばらくの間、素晴らしい人たちと時間を共にしました。その組織は独自の構造とツールを持っており、60ある組織が特定の方法に従って機能するようになっていました。そのように、最近では、年を追うごとに、このような既製のシステムを採用する組織が増えてきました。今回はその選択についてお話ししたいと思います。 内製か既成システムの導入かの選択にかんしては、基本的に、速度と抵抗がポイントになってきます。既製のシステムを採用する場合、自社で内製するよりもはるかに短期間で導入できるメリットがあります。しかし、導入に対する抵抗にぶつかる確率が、内製に比べるとはるかに高くなります。以前、動画の中で、試行と標準化がトレードオフの関係にあると説明しましたが、覚えていらっしゃいますか?既製のシステムを導入しようとすると、基本的に、メンバーがそれに慣れるための直感的な様々な試行を省略することになります。つまり、私が言いたいのは、その組織にとって、どれだけ準備ができているかということです。本当に出来得る限りの準備ができているのかが問われてくるのです。 既製のシステムを採用した場合、導入の速度は大幅に上がります。しかし、充分な準備ができていない段階で導入に踏み切れば、非常に強い抵抗を受けることになります。例えば、その抵抗を緩和するために、移行開始までの一定の期間、参加型のワークショップを実施しているコーチの集まりなどもあります。彼らはホラクラシーのコーチで、そのシステムを心から信頼している素晴らしい人たちです。ただ、すべてがコーチのサポートを受けられる会社というわけではありません。深刻な経営不振に陥っていた、かつてのバスク州の多くの企業もそうです。当時は経営の仕方に問題があり、企業の存続が難しくなっていました。そんな時、ある企業の経営者は、まる1日、生産をストップして、すべての従業員を集め、その原因を突き止めることにしました。そして、その会合の結果、数年前から「セルフマネジメント」で運営している別の組織に見学隊を派遣することになりました。そして、見学を終え、派遣隊は戻ってきました。そして、彼らは、その企業が参加しているNERシステムに加わるかどうかを従業員投票で決めるという提案をしました。そして、支持が80%や90%の圧倒的多数である場合にのみ、システムへ参加するということになりました。その実施権限は派遣チームが持っていました。本来の「準備」とは、このようなプロセスを経て、できあがっていくことを言います。 もし、こういった準備をしないままに進めようとすると、抵抗勢力の反発にあいます。というのも、そこにいる人たちは、ただ単に仕事がしたいだけだからです。それなのに、突然上から「こうします」と言われても、新しいプロセスや新しい人間関係、新しい会議形式など、覚えることがいっぱいになっただけで、結局、何のメリットも得ることができません。「なぜこんなことをするのですか?私に選択権はないのですか?説明会もなしに鶴の一声で決めてしまっていいことなのですか?どうせ、最近流行しているシステムだと誰かにそそのかされたのでしょう」と言って彼らは異議を唱えます。当然、このような従業員の態度は企業にとってのリスクになります。もうひとつは、従業員が抵抗することなく言われるがままに導入に従った場合も、リスクは同様に孕んでいます。つまり、システムツールが実行されるだけで、それが組織のパーパスとどう関係しているか、サービスが顧客にどのように役立っているかなどの深い理解が欠けたままであるからです。これが組織の準備に関する「問題」の核心です。 ここまで、内製化するか、あるいは、既製のシステムを採用するかといった、0か1かの選択で話をしてきました。実際に、いま、「セルフマネジメント」への移行事例は増えてきていますが、両者の折衷案というタイプも存在します。基本は内製路線で進めてきて、ある一定の準備が整った時点で、足りていない部分をソシオクラシーやホラクラシーで補うというやり方です。そのやり方でも、当初は多少の違和感はあるかもしれませんが、時間が経てば、システムは確実に機能するでしょう。好奇心さえ維持できていれば、組織は確実に進化できるでしょう。ホラクラシーという枠組みを超えて進化する可能性だってあると思います。その意味でも、準備が整っているかどうかという「問い」は、移行時の重要な基準になります。 もう一つ、内製化する場合は、自社におけるシステムの開発能力が問われることがあります。もっとも、その方法を学びたいと強く望んでいるリーダーやメンバーも多数存在します。彼らは、自らがシステムを変えなければならないという、強い意志をもって、私の本や他の色んな種類の本を読み、学びを深めています。問題はそうでない場合、つまり、そのリーダーたちも「セルフマネジメント」への移行を強く望んではいますが、自分自身の根っこの部分にモチベートされた情熱を持ち合わせてない場合です。彼らは「セルフマネジメント」で組織運用をしたいと思ってはいますが、目的は「セルフマネジメント」の形を導入したいだけで、組織のデザインや意思決定メカニズムについては、考えがあるというわけではありません。また、小規模な組織の場合は、特に、そもそも開発能力自体がない場合もあります。そういった場合、無理に内製化しようとせず、既製のシステムを採用することは、とても理にかなったやり方です。そういった場合は、導入支援のためのコーチやファシリテーター、あるいたコンサルタントと契約するのが良いでしょう。 先程、バスク地方の企業の多くは、破産のリスクに直面していたと言いましたが、そんな企業のあるオーナーが私に連絡してきました。「私はあなたの活動をずっと見てきました。そして、「セルフマネジメント」を導入したいと思うに至りました。ただ率直に言って、どこからなにを始めればいいのかまったく分からないのです。分かっていることは一つ、今のシステムではもう無理なのです」と。もちろん、彼の言っていることは正しいと思いました。だから私は、準備態勢について、いくつか質問をしました。この取り組みに参加できる人材は社内に何人いるか、それがいなければ外部の人材を活用することは可能かといったことをです。そういう時、私は、その人物の持っているバイアスもチェックするようにしています。その彼が内製をしたいと言っているとしたら、その理由を確かめなければなりません。そもそも内製することに時間が使える組織なのか、そうでないなら外部の知識を使えばいいのです。あるいは、その逆もあるかもしれません。急ぎ過ぎて準備ができていないのなら、先に内側に手を付ける必要があります。そのようにして、経営者の言葉の背後にあるものを探っていきます。 最終的に、既製のシステムを採用することになったとしても、リーダーのスキルセットがそれに向いているかどうかは見極める必要があります。リーダーがスキルも考え抜く忍耐力も持ち合わせてない場合、組織内にその役目を担える人がいるかどうか探さなければなりません。そこに求められるのは個人のスキルセットであって、情熱ではありません。 次に、ソシオクラシーとホラクラシーについてもう少し詳しく説明します。その2つは、既存モデルの代表格です。現在のソシオクラシーは、さまざまな解釈に別れているので、それらについて長く話すのは今回の主旨から外れてしまいます。なので、あくまで私が理解している範囲で話します。一部のトレーナーの中には、ソシオクラシーを指して、ヒエラルキーシステムに近いという見方をしている人もいるようです。複数の円が重なったような図を見たことがあるでしょうか?それぞれの円は意味のあるカテゴリーに分けられ配置されてます。これからの説明は、ジェームス・プリーストのコミュニティが出している「ソシオクラシー 3.0」に載っています。ソシオクラシーには一定のパターンがあり、組織進化の旅が進むにつれて、次の円を選択して適応していくというものです。ソシオクラシーの導入を手助けしてくれるトレーナーもいますが、私は、彼らとあまり話したことはありません。ですので、彼らが、組織の強みやバイアスをどのように扱うのかあまり詳しくは知らないのです。 一方で、ホラクラシーは、ソシオクラシーとは全くの別物です。ホラクラシーはコピーできないシステムでもあります。つまり、それは唯一無二なシステムなのですが、それゆえに、興味深く、かつ魅力的なシステムです。あとは、なぜか分かりませんが、ホラクラシーが好きな人はそれをものすごく愛していますし、その一方で、嫌いな人はとことん嫌いなようです。その中間の人もいてもよさそうですが、なぜか、両極端に分かれてしまうようです。私の知る限り、それを嫌いだという人は、良く理解せず、印象だけで嫌っているところがあるようです。一方でそれを愛しているという人は、自分が何を欲しているか、何を必要としているかをよく理解している人のように思えます。 まず、ホラクラシーは、既製システムであるがゆえに、それを導入するとなると、そこに適合するのにトップダウンが伴うと認識しておく必要があります。しかし、一旦ホラクラシーが導入されれば、その枠組みには柔軟性があるため、整って来さえすれば、組織はどんどん進化していくことになります。しかし、ホラクラシーは、先程もいいましたが、どこか課されるという感覚は否めないため、抵抗勢力を生み出しやすい側面があります。それを避けようと思うと、繰り返しになりますが、特定の領域で試験的に導入して、そこで試してみた人たちが気に入っているという事実を先に作っておくなどの工夫が必要になってきます。その事実を他の人の目に留まるように公開すれば、抵抗は最小限に抑えることができるでしょう。そして、その後、それを採用するかどうかとという判断は、バスク州の企業の例で挙げたように、投票に任せるというやり方もあります。これは一種の養子縁組のようなものです。また、責任性やメンバーの意欲を高める方法としては、逆説的かもしれませんが、権威付けする方法があります。つまり、法のしばりを適用させるという意味ですが、ホラクラシーでは、リーダーが「ホラクラシー憲法」に署名します。 もうひとつの注目すべき点は、他のシステムも同じかもしれませんが、ホラクラシーも創設者の人となりを強く反映しているという点です。つまり、創設者であるブライアン・ロバートソンは、実に明快さを愛する人であるがゆえに、それはホラクラシーにも強く反映されています。ホラクラシーは、すべてが時計仕掛けであるような精密さを持っており、すべてが明確に規定されたシステムといえます。目標に対しての曖昧さがないシステムと言い換えてもいいでしょう。そこで働く人たちは、役割と説明責任が何であるか、そして、ものごとの決定方法を正確に理解することになります。仕事の領域とポリシーに圧倒的な明確さがあるのがホラクラシーの特徴です。仕事と組織文化に「明確さ」を求めるタイプの人なら、ホラクラシーはきっと合うと思います。また、ホラクラシーは常に学習が求められます。そのため、そこにいると、自ずと学びを得ながら働くことができるでしょう。チームにとっても、サークルという呼び方とドメインという呼び方で、業務範囲が規定されています。ただそれらが複雑に入り組み、構成はシンプルではありません。そういう意味でも、学習が求められる仕組みになっています。つまり、そのやり方が合うかどうかは、組織を選ぶということです。明確さを求める文化がある組織はすっと適応できる反面、そうでない組織もあるということです。 たとえば、私は、ビュートゾルフ社の看護師チームなどはホラクラシーを採用するべきではないと思っています。彼らにとってみれば、ホラクラシーをわざわざ付け加える必要は全然ないからです。率直に言って、看護師のカルチャーはそれを拒絶すると思います。一方で、もし、ITの企業などが、既存の組織開発ツールなどを使って、人を割り振り、役割も決めて、役割定義に従って組織を運営しているなら、ホラクラシーは彼らの文化にフィットするかもしれません。ただ、これは私の意見であって、もちろん、あなたには、あなたなりの認識を持ってもらいたいと思っています。 もうひとつ、知っておくべき大事なことは、学習が中心に据えられるために、メンバーは自らの内面に向き合う過程を経ることになるということです。ある程度は、「セルフマネジメント」への移行の際にも同様の経験はしますが、ホラクラシーの場合、それが顕著になります。内省が大きく進む間は、顧客が置き去りになることもあります。もちろん誰もがそれを経験するわけではありませんが、少なくともそういうリスクもあるということです。さらにもうひとつ、知っておくべきことは、ホラクラシーは、役割の割り振り方や情報の伝達ルートなど、明快に規定された業務システムを持っていることです。これは非常に明確にいろんなものを当てはめていきます。しかし、ホラクラシーのことを単なる既製のシステムだと考えている人たちは、その中に、「アプリ」と呼ばれる、何も割り当てられていない空白の番地があることを知りません。「アプリ」に関しては、ホラクラシーは何も定義していないのです。これは、ホラクラシーの最もよく考えられたところと言えますが、「アプリ」のインストールには組織の独自の方法が必要になります。つまり、パフォーマンス管理についてはそれ用の「アプリ」が必要になり、採用には採用の、退職には退職のためのアプリが必要になります。予算管理についても同様です。この既製のシステムを使用することは、大皿にすべてが揃っていると思っている人もいるようです。ホラクラシーというOS(オペレーティングシステム)を大皿と呼ぶにはふさわしいとは思いますが、最初からアプリがすべて揃っているわけではありません。知っておくべき重要な点は、ホラクラシーが規定しているのはインテグラルでいう、「我々」に相当する領域、つまり、組織カルチャー領域だけなのです。そこで役割を活性化することはできても、個人の領域や、個人と個人との対人の領域まではタッチしていないのです。ホラクラシーを採用している多くの組織から聞いたところ、しばらくの間、彼らはこれらの新しいテクニックやツール、実践を学びますが、そこに集中するあまり、「あること」を忘れてしまうそうです。つまり、人と人との関係にある暖かくあいまいな部分が忘れ去られ、一種の「冷たさ」が組織を支配するそうです。また、すべてが機械的であるという感覚さえ起こり得るといいます。それは、単に、ホラクラシーは、金曜日の午後の会食といった暖かくファジーなイベントがないと言っているのではありません。問題としたいのは、ホラクラシーを導入する際、一部の組織に限られると思いますが、思いやりなどといった、温かいものが忘れ去られるという現象が起こるということです。実際には、すべてはメカニカルに処理されているように感じるそうです。 最後になりますが、ホラクラシーは人間関係などの内面的な部分にはあまり目を向けていないという特徴があります。もしかしたら、最近はそうでもないのかもしれませんが、また、トレーナーによっても違いがあるのかもしれませんが、それは大きな特徴の一つでもあります。ホラクラシーのトレーニングする際は、ミーティングを行い、それを試してみてどうだったかという機能の確認に重点が置かれます。例えば、マネージャーでなくなったときに感じる痛みを話し合う空間が用意されていることはほとんどないようです。それは、私に言わせれば、必要最小限のことさえ用意がない大きな欠如のように思えます。もちろん、それに気付いたから後で作るというのでいいのですが。とにかく、移行をより容易にするためには意識しておくべきことに違いありません。 私がホラクラシーやソシオクラシーの仕組みに見出したメリットや、それらの既製のシステムを採用することの難しさについては、まだまだ言い足りないところがあります。しかし、これまでのところが、あなたにとって有益であったことを願っています。既製のシステムを採用するかどうかについては、もう一度、自分の組織の本質とは何かを考えてみてもらいたいと思います。組織ごと進化させるのを望むのか、既成のやり方を当てはめていくのか、あるいはそれらのいいとこどりをするのかといったことをしっかり考えてください。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.1】「セルフマネジメント」が意味するものとは?(What does self-management mean for you?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/411.html ■翻訳メモ 「セルフマネジメント」について、少し違った視点から話してみたいと思います。多くの人は、「セルフマネジメント」を使えば、物事が整理しやすくなって、意思決定の支援ができると思っているようです。より良い意思決定を行えば、物事ははかどり、メンバーはさらにやる気を出すという発想です。目的が、物事を素早く片付けることなら、それに越したことはないでしょう。私が多くの人から聞く「セルフマネジメント」像は、基本的にはエンパワーメントの形をしています。その視点自体、何も悪くはありませんが、私はそれとは異なった違った考え方をしています。それでは、1つ、あるいは2つの、他の「セルフマネジメント」像について話を進めていきましょう。もっとも、それらの考えとあなたの考えとが符合すればいいのですが。 「セルフマネジメント」の捉え方として、1番目に挙げるのは、組織を管理するためのものではなく、物事をつかさどる唯一のあり方として捉える方法です。 従来のヒエラルキー型の管理体制の中心にあるのは、一部の人が他の人達よりもより大きな権力を持っているという概念です。私があなたの上司であったとしたなら、私はあなたの人生を通して、ずっとあなたの上にいて力を持っていることを意味します。私は、あなたが昇給するかどうかを決めることができ、あなたを昇進させたり、あなたが望むプロジェクトであってもその参加を阻止したりできる決断権を持っていることでしょう。そして、あなたがこのまま仕事を続けることができるか、それとも解雇されるかどうかについても、私は力を有しています。つまり、私はあなたに対して本当に実質的な力を持っているということになります。しかし、私が言おうとしている「セルフマネジメント」の概念とは、何人たりとも、他の誰かに対して、本来的には何の力も持っていないということなのです。つまり、パワー・オーバーをパワー・ウィズに置き換えることで、ゼロサムゲームは終了できるということです。 従来のマネジメントでは、私が力を持てば、あなたは力を持てなくなります。しかし、「セルフマネジメント」では、とても不思議なことが起こります。それは、あなたがパワフルであればあるほど、私もパワーを得ることができるということです。それは、組織の目的に向かって多くのイニシアチブを取ることができるようになることを意味します。そうすると、今度は私にイニシアチブを生み出す機会が多く生まれ、それが私をより強力にしてくれるということが起るのです。つまり、「セルフマネジメント」には、パワー・オーバーからパワー・ウィズへという一種、革命的な側面があるのです。私自身は、人生で二度と、誰かから力を与えられるような状況にはなりたくないと思っています。その力の存在を知ったからこそ、「セルフマネジメント」は可能だと主張できるのです。 その考えは私にとって衝撃的でした。同時に、私はもう、他の誰かに対しても、力を行使する立場にはなりたくないと思いました。ヒエラルキーには、なにか関係性を壊すようなものがあり、長い歴史からみても、すごく不自然なものに感じるのです。私たち人類は、その歴史の95〜98パーセントは、ヒエラルキーのない小さな集団を単位として暮らしてきました。そこでは年長者や知恵のある人たちに耳を傾ける習慣がありましたが、そこにヒエラルキーや上からの圧力といったものは存在しませんでした。それらは、ここ数千年に限定された産物であり、ゆえに、われわれの深い記憶中には、それは私たちが望んだものではない、または、不自然なものである、という暗黙のものがあるのだと思います。 よく考えてみると、ヒエラルキーは、面白くない合理性を有しているように思います。誰かが組織の中で上位にあって、権力を握っていれば、それは一種の秩序として自然に見えてしまうからです。しかし、「私はあなたよりも価値があって、いかなる理由にせよ、あなたは私より劣っている。そして、私はあなたよりスマートな人間であって、あなたはそうではない。また、私はより賢く、より努力もする人で、より良い遺伝子も持っている」と、これらのことが明確でないかぎり、本来は、人に上も下もないのです。その歴然たる理由がないのにもかかわらず成り立ってしまっている合理性は、やはりまったくしっくりこないものです。きっと、組織の下位にいる人が上位の人を見たら、自分は劣っていると感じることでしょう。私が組織にかかわってきたことで得た学びは、まさにそこに尽きます。 多くの組織には、いわゆるステータスシンボルが設定されています。会社のルールに縛られないで行動できること、オフィスに角部屋を用意してもらえること、あるいは、高級車を購入できるといったものです。このように、ヒエラルキーには、それらの人が本当に優れた人であるように見せかける仕組みがそろっています。これこそがヒエラルキーシステムを支えているメカニズムです。それゆえ、多くの人は合理的であると感じてしまうのです。 皆さんは不思議に思ったことがあるかどうかわかりませんが、私は給与制度についても不思議に思うことがあります。組織では、上位の人がより多くの給与を得ることを私たちは当然だと思っています。彼らは、一般社員の5倍、10倍、24倍と稼いでいるということですが。それは、彼らがいかに重要な人物であり、それ以外の人たちがいかに交換可能であるかを合理的に納得させようとしているのだと思います。ではなぜ、私たちは、その逆のことを考えないのでしょうか。 例えば、単純な繰り返し作業に多額の給与が支払われるとしたらどうでしょう。毎日何百回も同じ動きをする組立ラインの作業は、気が遠くなるほど大変な仕事です。だったら、その仕事をする人には、CEOよりも高い報酬が支払われることにするとしたらどうでしょう?CEOにしてみれば、給料を2倍にしてやると言ってもその仕事はやりたがらないでしょう。そんなCEOは一人もいないと思います。だったら、とても面白く充実した仕事は給料が安く、最も退屈でルーチンをこなす仕事は給料が高いというロジックが成り立ってもいいのではないでしょうか。私にとっては、誰もが必要性に応じた報酬を受け取る単純なロジックが理想に感じられるのです。ある人に4人の子供がいて、あるいは、世話を必要とする年老いた母親がいるとしたら、その仕事がどんな仕事であれ、ある程度の給料は絶対に必要です。その状況と、その人がヒエラルキーのどこにいるのかはまったく関りがありません。しかし、いずれそのような世界がやってくる可能性があるとしても、これはとても急進的な考え方です。いま、「セルフマネジメント」を実践している組織でさえ、そのほとんどは、給与システムは能力主義にリンクしたままです。 これ以上言及することはありませんが、今回は、こういった別の視点を提示してみたかったのです。この「セルフマネジメント」というラディカルな視点は、道徳的な観点や誠実さの観点から、私が組織で働きたいと思うような唯一のあり方なのです。 次は、3つ目の観点です。それは、「セルフマネジメント」は最も自然の法則にかなった組織化の方法であるというものです。人類の歴史を振り返ってみると、ヒエラルキーはここ数千年の間に誕生したものに過ぎません。それでも多くの人は、大まじめに、自律とはヒエラルキーによって成立し、それぞれの要素間には高い壁が存在していると言います。とんでもないことです!いえ、一番自然なのは、高いヒエラルキーではなく、私たちが狩猟採集生活で何十万年も前から持っているパワー・ウィズなのです。ヒエラルキーとは私たちにとって自然からかけ離れた、歴史のほんの一部分の産物に過ぎないのです。明らかに、生命が組織化する理こそが「セルフマネジメント」なのです。最近私が記したものにもそのことについて触れています。なかなかうまく書けたと思っているのですが、いま、その部分を引用してみます。 「セルフマネジメント」は決して驚くべき発明ではありません。何十億年もの間、この世界で生命を営み、私たちが理解できないほど壮大で複雑な生物と生態系を生み出してきた方法なのです。自己組織化は、「カオスの縁」で育まれる世界の生命力であり、秩序を形成するに十分なエネルギーを宿してはいましたが、適応や学習といった我々のサブシステムの進行を遅らせるには至りませんでした。いま述べたのがまさに生態系の仕組みであり、身体の仕組み、脳の仕組み、生命の営みのすべてをつかさどった仕組みそのものです。それは多くの人が信じる複雑な適応システムを持つ全体性からなる科学のことであり、また、これこそが、従来のニュートンを代表とする線形の科学に取って代わる21世紀の科学だと言えるのです。 まさに、「セルフマネジメント」はこの視点に由来しています。つまり、私たちが、いまやろうとしているのは、進化や生命を育んできたこれらの原理を、私たちの組織に取り入れる方法を学ぶだけ、ということなのです。このようなことが真剣に議論されることを切に願っています。 セルフマネジメントを、単に物事を整理するための多少良い方法として見るのは全く問題ありません。なぜなら、そうすることで、皆は意欲的になり、より良い決断も下せるからです。というのも、信頼に基づいた人間関係があれば、それはそれで有効に働くからです。それにもかかわらず、今回は、それ以外に2つの視点を提示しました。 私が再び組織で働くとしたら、そのうちの1つ、本当に唯一のあり方のほうのみです。なぜなら、私には、権力よって支配を受けるというこの上ない不愉快さから逃れたいという理由があるからです。3番目の方法は、率直に言って、これが最も自然な組織化の方法であり、私たち人類が長い間、小型動物だったころから自分たちを組織化してきた方法であるとともに、生命そのものが何十億年も前から育んできた方法でもあるからです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.2】「Why」からはじめよう(Start with why)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/412.html ■翻訳メモ 前回のビデオで私の考えを共有しましたが、あなたは少し消化不良を起こしているかもしれませんね。ティールは一種の概念(コンセプト)であって、それが組織の目的になることはありませんが、そのせいかもしれません。例えば、「私たちはティール組織になりたいんです」と言ってくる人がいたら、私は言葉を遮ります。「あなたはコンセプトになりたいのですか?それよりも、あなたが本当に求めていることは何なのですか?なぜ変わりたいと思うのか、きちんと聞かせてください」と言います。 「セルフマネジメント」についても同じことが言えます。私は、「セルフマネジメント」とはどういうものかから話をして、メンバーを困らせてしまったリーダーを何人か見てきました。そのようなリーダーは、最初にコンセプトを打ち出したために、混乱を引き起こしたのです。私は、常に、「なぜ」から始めるべきだと考えています。なぜ本当にやりたいのか、そこにある理由は何なのか、メンバーにはそれを説明しなければなりません。というのも、「セルフマネジメントを目指す」といきなりコンセプトから始めると、多くの反発や抵抗を招くことは当然で、考えを押し付けるのは、人を巻き込むのではなく、トップダウンで押し付けることになるからです。そして、コンセプトから始めてしまうと、「セルフマネジメント」がうまくいかない理由は何なのか、そもそも「セルフマネジメント」は良いアイデアなのか、などといった議論になり、抽象度の高い話になってしまいます。ですので、「セルフマネジメント」を始めたいと思ったら、なぜその方向に進みたいと思ったか、その理由を明確にし、あなたが感じとっている真の理由や深い衝動をメンバーと共有できるようにしなければなりません。それは、ちょうど、一緒に旅に出ようとしているメンバーに、招待状を渡すようなものなのです。 そのために、内面を明確にしていく方法をいくつか紹介したいと思います。ひとつは組織の持つ「真の目的」について、もうひとつは人や仕事のことで多くの人が抱いている「思い込み」についてです。 「セルフマネジメント」が組織の目的とリンクすれば、それは強力になります。病院を例にとってみましょう。「患者を健康にする、あるいは可能な限り自立した生活をしてもらうために、素晴らしいケアを提供しよう」と熱く語るのは、ある意味、簡単なことです。しかし、その実現には、少なくとも正しい知識を持った看護師と医師がいて、双方が信頼関係によって結ばれていることが条件となってきます。しかし、もしその時点で、彼らは組織の成長とともに官僚的になり、構造化が進み、階層が増え、すべてが減速し、そして、それらが理想的なサービスの提供を妨げ始めたとします。そうなった時に、看護師や医師をプロフェッショナルとして信頼できるようなシステムに戻すべきという意見が出てきます。彼らをベストな関係性に戻さなければならないという提言は、「セルフマネジメント」への移行に向けた大義名分となってきます。何か高い目的があって、それを追求しようとする姿というのもいいかもしれません。こうなってくれば、経営陣への説明も、難易度がグンと下がってきます。「今、私たちは取組の初期の段階にいます。すべてはフレッシュで、あとは目的に向かってエネルギーを注ぎ込むだけです」といった感じになります。 私は、成長するにつれて、組織が官僚的になり、構造的に階層が増えていくことに本当に恐れを感じます。階層が増えると、組織はスピードを失うだけでなく、活気も失っていくのです。そして、メンバーも情熱を失い、力を発揮できなくなっていきます。より良いものを提供するという目的があり、本来はその目的に対し100%のエネルギーを発揮する力があるにもかかわらず、その状態だと、エネルギーは30%くらいに抑えられてしまいます。だから、「セルフマネジメント」に何を求めるか、それは決まったものではありませんが、組織の目的とは合致したものでなくてはまりません。これが自らの進むべき道となってくるというものです。これが自らの「問い」を探求していく方法です。そして、その「問い」を他人に説明する際、その根底に大きな力が隠されていることを忘れてはなりません。その説明は「善」に則したものでない限り、人の心に響くことはないでしょう。 もうひとつは、精神の健康状態にリンクさせて説明する方法があります。従来のマネジメントの前提条件と、新たな「セルフマネジメント」の前提条件を対比させた前回のビデオを思い出してみてください。従来のマネジメントの前提の多くは、とても非道いものであったと思います。その前提には、組織の下層や現場にいる人は信頼に値しないというものがありました。彼らはあまり賢くない、もしかしたら、あまり正直でもない。だから、彼らの訴えには承認が必要で、彼らをマニュアルに乗せ、嘘を防止し、指示どおり動かすためは、何層もの管理層が必要だという考え方です。それは本当に非道い考え方で、それに比べると「セルフマネジメント」には、もっと美しい前提があることが分かると思います。そう考えると、こうした醜悪ともとれる「思い込み」から脱却して、多くの人が本当に素晴らしい仕事をしたいと思うような信頼に基づくシステムを目指していくのは、とても理にかなっていると思いませんか。必ずしもベストな決断を下せない1%~3%の人のために、これらすべての施策をとるべきではないということです。 それゆえに、メンバーが本当に力強い招待状を手に入れるまで、それが本当にパワフルだと感じとることができるまで、ストーリーを明確にして、あなたが話しつづけていくことを、私は切にお勧めするのです。 「セルフマネジメント」について話してはいけないと言っているのではありません。それはあくまでコンセプトなのです。あなたがどこに行きたいのかを説明するための手段として話すのはいいでしょう。しかし、それ自体が目的になってはいけません。なぜその方向に組織を導いていきたいのか、その理由を何度も何度も説明する必要があるということです。そこにある「問い」は、組織の大きな目的と結びついているからか、あるいは、その背後により美しい前提があるからです。あと2つ必要なものを付け足すとすると、ストーリーを語るとき、そして人を招待するときは、頭で理解してもらおうとしないことです。頭ではなく、重要なのは、「心」と「やる気」です。 そしてもうひとつは、物語を語るときには、話す相手の立場に合わせて、できるだけ親密に話すということです。例えば、マネージャーに話をする場合、「セルフマネジメント」の考えを受け入れるには時間がかかるであろうと最初から分かっていたら、彼らの目線で話すということです。デスクワークに縛られたマネージャー職はどこか寂しいものです。人を管理する仕事は、あまり楽しいものでなありませんし、創造的でもありません。部下のやる気を引き出し、その気にさせなければならないという大きなプレッシャーがあり、そして、上司には良い顔をしなければならないという二重のプレッシャーがあります。このゲームは成功が前提になっているため、失敗することは許されません。多くのマネージャーは、エクセルとパワーポイントによる書類作成、それとミーティングに勤務時間のほとんどを費やしていると思います。「あなたの人生は会議のためにあるのですか?」という問いは効果があるかもしれません。そして、組織の目的に直接役立つ仕事をするために、再び本当に創造的な仕事をすることができるようになるために、「セルフマネジメント」が役立つ可能性を説明するのです。現場にいる人たちは、彼らにとって本当に大切なことを伝えてくれる存在であること、そして、彼らはイニシアチブを取っていけるということ、全力を尽くせば、自分たちが変化の中心になれること、それらを実感してもらうことが必要なのです。良いアイデアがあれば、彼らはそれを実現するための意思決定権を持っています。優れたアイデアがあっても、階層を上がるにつれて、それが無駄になってしまうようなシステムはもういらないということです。 最後に、まずは、「なぜ」から始めてみてください、というのが私の訴えです。あなたにとって、最もパワフルな招待状とはどういうものでしょうか?その組織を変えようと思う真の目的は何でしょうか?そうやって、自分自身の内面を掘り下げてみてください。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.3】発達段階に応じた伝え方(How to talk about self-management from all stages)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/413.html ■翻訳メモ 私は、組織の全員がティールの視点まで成長しなければ、「セルフマネジメント」はうまく機能しないのではないかという質問を頻繁に受けることがあります。しかし、その答えは「ノー」です。幸いなことに、世の中に「セルフマネジメント」を実践している組織がたくさんありますが、中には、何十年と続いている組織もあります。そこで働いている人たちは、じつに世界をさまざまな角度から見ています。今回は、成人発達と意識のステージについてお話しする、めったにない回になると思います。また、ティール組織の本で扱っているさまざまなステージや色については、すでにご存知だという前提で話していきますが、それらにアレルギーがある方は、このビデオをスキップしてもらっても結構です。 まず、1つ誤解を解いておきましょう。その誤解とは、「セルフマネジメント」では、誰もが自力で何とかしなければならず、誰もが常に自分に責任を持ち、常にイニシアチブを取らなければならないというものです。しかし、実際、「セルフマネジメント」に取り組んでいる組織でも、多くの人が日常のルーチンワークをこなしています。コンピューターのオペレーターを例にとると、彼らは、コンピューターが古くなったからといって率先して新しいものを買わないといけない、というわけではありません。自らの意思で買い替えができるのなら、それは本当にすごいことです。意思決定権を手に入れたということですから。しかし、その力を手に入れることを選ぶ人もいれば、そういうことは他の人に任せておけばいいという人もいます。「私はルーチンワークが比較的好きで、そういう仕事に満足しています」という人は、それでいいと思います。そういうこともあって、この誤解を解きたいと思ったのです。 ここで、私たちが世界を見る際に持つさまざまな視点と、それに対し、「セルフマネジメント」がいかに適合するかについてみていきましょう。 例えば、ある組織が「セルフマネジメント」に切り替えたとします。かなり急な変更であったかもしれませんが、最終的には、誰もがその新しいシステムで働くことは可能になります。 まず、伝統的なアンバーの組織で説明しましょう。アンバーは、構造、予測可能性、制御などとの親和性が高い組織です。しかし、「セルフマネジメント」の世界では、これらのすべてが包含されています。アンバーの組織にいる人たちが「セルフマネジメント」の組織で働くためには、そのことを理解することがとても重要です。この新しいシステムは、カオスではありません。旧システムと同じように多くの構造やゲームのルールがあるのです。ただ、ルールの設定が新しくなっただけなのです。つまり、新システムでの意思決定のやり方はこのようになります、というものであったり、新システムでは誰がどのような役割を持ち、誰がどのような役割を割り当てられるか、それらを説明したりしたものがあるというわけです。そして、もし対立が生じた場合でも、対処方は決まっているといった具合にです。ですので、私はよく、新しい構造、慣行、プロセスを明確にするように勧めています。おそらく、「セルフマネジメント」に馴染めないという人は、構造的な仕組みが分からなくなったときに、それが嫌になるのではないでしょうか。特に、伝統的なアンバーの視点を持った人たちは、とてもナーバスになって、迷ってしまう傾向があります。もしあなたが彼らに説明するとしたら・・・、以前のシステムにもルールがあり、今の新しいシステムにもルールがある、ということを伝えてあげてください。そして、それらは、同じく「明瞭である」ということです。そう考えれば、新しいシステムへの切り替えといっても、比較的簡単なことが分かってもらえると思います。 次に、オレンジの組織をみていきましょう。彼らは、シンプルに競争したい人たちの集まりです。つまり、ゲームに勝ちつのが目的なのです。ですので、「セルフマネジメント」を説明する際は、「これが新しいルールだ。さあ、楽しくゲームをして勝とう」と伝えればいいのです。「セルフマネジメント」の組織に関して、モーニング・スターのクリス・ルーファー氏が興味深いことを言っています。彼によると、「セルフマネジメント」には、評価を得るための健全な競争が存在しうるということです。仲間から認められるというのは、その人の能力であり、組織にとっても役立つことでもあります。アドバイス・プロセスにおいて、または、相談を受けた時に、待ち前のスキルを活かして人助けすれば、それは評価に値します。そして、承認を得たいがために競争する人もいますが、その種の競争は健全な競争であると言えます。日常的に起こるすべての協力に次ぐ、ポジティブな形が競争なのです。 次はグリーンですが・・・、グリーンの視点から世界を見る人たちにとって、「セルフマネジメント」は実に素晴らしいものに映ります。それは、「セルフマネジメント」が、皆が力を持てる、つまり、パワー・オーバーではなく、パワー・ウィズを保証するシステムだからです。そして、アドバイス・プロセスを通じて、すべての人の声に耳を傾け、すべての声を大切にし、もはやヒエラルキーのランクで人を区別しないことを保証するシステムだからです。これらの観点は、グリーンの視点から見た場合、本当に重要なことです。彼らにとっては、「セルフマネジメント」は、非常に理にかなったシステムといえるのです。 幸運なことに、誰もが「セルフマネジメント」のシステムの中で働くことが可能です。どのような方法で世界を見ようとも、それは意味のあることです。それが私の見解です。 しかし、誰もが「セルフマネジメント」を設計したり、作り上げたりできるわけではありません。CEOが創設者の場合、多くの人は伝統的なヒエラルキーを選びます。逆に、そのようなリーダーから「セルフマネジメント」システムに招き入れられた場合は、そこが活躍の場になる可能性があります。これらのことは、あらゆる種類の「セルフマネジメント」で、適用可能だと実感しています。つまり、明確な構造と明確な実践があれば、メンバーは生き生きと働けるようになり、組織自体も活性化してくるのです。つまり、「セルフマネジメント」は、どんな発達段階にいる人にとっても、きちんと機能するものなのです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.4】「セルフマネジメント」の多くの誤解!(So many misconceptions!)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/414.html ■翻訳メモ 残念ながら、あなたが「セルフマネジメント」について話をしても、それを聞いたほとんどの人が間違った認識で話を始めてしまいます。「セルフマネジメント」を目指す場合、その旅には多くの学び直しが必要だということこそが重要なのですが、なかなかそういう話にはなってこないようです。「セルフマネジメント」のことを聞いても、ほとんどの人は正しく理解していないということです。わざわざ強調する必要があるほどに、「セルフマネジメント」を誤って捉えたばっかりに、スタートで方向を間違った組織を、私は数多く見てきました。そういう組織も、数カ月後に、その誤解に気づくのですが、その時点から引き返すと、かなりの痛みが伴うことになります。「セルフマネジメント」を、なぜ間違ったイメージでとらえてしまうのか、私にとってはとても興味深いことです。誤解して捉えてしまうこと自体、そこには根源的な合理性が潜んでいるように思うからです。 私たちは皆、程度の差こそあれ、幼少期に何年にもわたって、教師に権力が集まった学校制度に苦しんできたはずです。そして、その仕組みは、組織における上司といった支配的な仕組みとも共通しています。その苦しみに対して、私たちは、楽しくないというイメージを持ちながらも、他よりはまし、と思い対処してきたに違いないのです。そういった窮屈な制度に代わるものがあるとしたら、人間は皆、利己的で怠惰であるといった、「蠅の王」を読んだことがある人ならわかると思いますが、つまり、それはカオスの状態のことです。なので、カオスの状態よりもまし、ということで、すでに機能している制度を受け入れてしまうのです。 1960年代から70年代にかけて、古い権威主義的なシステムに反抗した人たちの最初の波があったことは事実ですが、「セルフマネジメント」の誤解を防ぐという文脈では、結果的に、何の役にも立ちませんでした。彼らはただ何もかも捨ててしまっただけで、結局、うまくいかず、カオスを生み出しただけでした。彼らは、「セルフマネジメント」とは、単にすべての構造を取り去ればいいと誤解していたのです。そして、実際には、彼らの活動の跡に沿って新しい構造ができ、結局は、構造が置き換わっただけになりました。1960年代から70年代のヒッピーたちの活動を通して、好きではないが機能している権威システムを選ぶか、明らかに機能していないカオスの状態を選ぶか、私たちの選択肢は、それらの二択であるという考えが強化されてしまったのです。 「セルフマネジメント」とは何かという誤解は1つだけではありません。それらは数多くあります。私はこの後、私が見た最も重要な6つの誤解について話すために、6本のビデオを撮影する予定です。というのも、「セルフマネジメント」に向けた旅の最初の段階において、こうした誤解を知った上で話し続けることが、皆さんの重要な役割の1つだと思うからです。 ひとつ確実に言えることは、あなたが組織内で「セルフマネジメント」について話すと、必ず、多くの人が間違ったイメージを抱くということです。そこで、「セルフマネジメント」とは何か、「セルフマネジメント」でないものは何か、何度も語り続け、こうした誤解を解いていくことこそが重要です。つまり、それを可能にするのが、「セルフマネジメントとは何か?」という、次回から紹介する内容なのです。それを見た後は、その6つをポスターにして会議室の壁に貼りだすのもいいかもしれませんね。掲示物は、繰り返し見ることができるので定着させるにはとても役に立つアイテムです。会議の中で、我々は誤解に陥っているかもしれない、というような意見が出るなど期待ができます。要は、あなただけでなく、「セルフマネジメント」に関係するすべての人がその取り組みに加わらなければなりません。それができれば、他の多くの組織で見られるような、何を目指しているのかを見失い、半年や1年後に本当につらい再出発調整をすることもなく、正しい方向を向いてスタートを切ることができるようになるのです。 ということで、次のビデオでは、このような誤解の数々についてお話します。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.5】「セルフマネジメント」の誤解1:それはリスキー(Misconception 1: It's risky)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/415.html ■翻訳メモ おそらくあなたは、「セルフマネジメント」に魅力を感じてはいても、同時に、「『セルフマネジメント』はかなりの危険を伴うぞ」、とささやきかける心の声とも戦っているはずです。それがまだ新しく、ミステリアスで、テストもされておらず、実験的であるからでしょうか?しかし、今言ったことの答えは「NO」です。「セルフマネジメント」は危険ではありません。実験的でも、新しいものでもありません。私が本で紹介したサン・ハイドローリックス社もモーニングスター社も、どちらも1970年代に設立された企業です。ゴアテックスのメーカーであるW・L・ゴア社も1958年に設立されて50年以上の社歴を誇っています。元々は伝統的な組織だった北フランスにあるFAVI社も、1983年にジャン・フランソワ・ソブリストに買い取られたところから「セルフマネジメント」に移行していきました。こうした何十年も「セルフマネジメント」経営が続いている組織はたくさんあるのです。彼らは周りの産業と同じように多くの不況を経験してきました。そして、すべての不況を非常に力強く切り抜けてきました。その意味で、決してテストが十分でないなどとは言えないのです。また、企業という枠を取っ払うと、そこには長い歴史のある、特殊作戦部隊のような軍の組織があります。海軍特殊部隊のようなエリートの集まりである武力介入部隊は、ビンラディンを殺すといった特殊コマンドを実施しますが、こういった部隊はずっと以前から「セルフマネジメント」で動いています。「セルフマネジメント」に頼ることなしに複雑なミッションをこなすことは考えられません。「teams of teams」という名のマクリスタル将軍が記した素晴らしい本がありますが、そこで将軍は「セルフマネジメント」のことをとてもうまく説明しています。属性も規模もまったく異なりますが、アルコホーリクス・アノニマスという組織は1930年代に設立され、現在は、180万人のメンバーと100,000単位のグループが存在しますが、それらが完全に「セルフマネジメント」によって運営されています。だから、「セルフマネジメント」は決して新しいものでないのです。その歴史をもっと調べたいのなら、「The age of heretics」と呼ばれる素晴らしい本があるので、それを読んでみてください。その本には、「セルフマネジメント」が出来たばかりの20世紀初頭の頃の様子が記録されています。その本によると、「セルフマネジメント」を採用した工場が素晴らしい成果を上げたそうです。そこには、誰もが「セルフマネジメント」に興味を持っているかのように書いてあります。しかし、当時の実験的な取り組みのほとんどは、すこしの間しか続きませんでした。従来型のマネージャーが出てきて、改革を潰し、元の伝統的な管理スタイルに戻してしまったのです。とはいえ、これらの「セルフマネジメント」の事例や取り組みはすべてがうまく運んでいたという事実があります。つまり、「セルフマネジメント」は決して新しいものではないのです。 製造業、コンサルティング、技術系スタートアップなどと業界を細かく分類すると、その業界の中では新しいと言われるかもしれませんが、実際に「セルフマネジメント」で運営している組織はかなり多くの数があります。しかし、限定的な取り組みや試みを除き、完全に「セルフマネジメント」で運営している組織というと、銀行などでは、きっと10もないでしょう。また、初期実験の段階も含めても、「セルフマネジメント」方式で運営している病院の数もまだ10には達していないと思います。つまり、各産業ドメインに分けると、そこでは、先駆者と呼ばれる確率が高いのです。しかしそれでも、「セルフマネジメント」は新しいものではなく、あなたが応用できる知識はすでにこの世に多数存在しています。我々は、「セルフマネジメント」の原理だけでなく、実際の詳細な実践も同じく蓄えてきていると言っても過言ではないのです。「セルフマネジメント」が機能するためには、まず、意思決定の方法を変更する必要があります。また、コンフリクトへの対処方法を変えることも必要です。そして、パフォーマンス指標を変更することも必要です。つまり、「セルフマネジメント」に移行する際は、いくつかの構成要素をアップグレードする必要があるといえます。私たちは、これらがどのように機能するかが分かっており、私の本にもこのことはしっかりと記してあります。他の本にも、組織開発に関する記載として、これらの実践について書かれたものがあります。原則だけでなく、具体的な実践についても明らかにされています。したがって、ゴールを設定する際は、これらの実践を盲目的にコピーしなさいとは言いませんが、これらをまったく無視することは、例えて言えば、車輪をゼロから再発明するようなもので、そこに多大な努力をつぎ込むことになるでしょう。 現在のところ、「セルフマネジメント」組織は、従来のヒエラルキー型組織に比べて、その数はまだまだ少ないと言えます。しかし、それは、この考え自体が新しいからというわけではなく、実証実験が済んでないからというわけでもなく、また、リスクがあるというわけでもありません。彼らがそう感じるのは、単に「セルフマネジメント」に接したことがないことや、「セルフマネジメント」にかんする本を読んだことがないこと、そして、そういう組織に実際に出向いたこともないというだけなのです。だとすると当然、「セルフマネジメント」がどのように機能するか彼らは知りようもありません。彼らは、「セルフマネジメント」は新しい概念で、理解できないものとして捉えています。そうであるがゆえに、あなたがしようとしていることにリスクを感じてしまうのです。もちろんそれは誤解です。 あなたが古いシステムを解体して、それに置き換わる他のシステムの導入に失敗して、さっき話したような基礎的な要素も入れないいった愚行を犯さない限りは、結果は常に良い方向に向かうはずです。理由は明確です。メンバーに意思決定の権限を与えることで、より良い決定をより迅速に出すことができるようになります。そして、それらを繰り返すことで、彼らはさらにモチベートされていきます。「セルフマネジメント」がうまく機能する理由はたくさんあるのです。だから、そもそもクレイジーだとか、また、リスクがあるなどとは考えないでください。あなたがすべきことは、これらについてもっと学びを深めることです。本を読んだり、「セルフマネジメント」組織に実際に足を運んだりして、体験を通して理解を深めるのです。もし、いま、私が起業するとしたら、「セルフマネジメント」を取り入れないことの方がリスクに感じます。まず、私自身のインテグリティが危機にさらされます。そして、私と私の周りにいる人たちの精神面にもリスクが及びます。経営面にかんしても同様のことが言えます。 最後にまとめると、6つの誤解の内の一つ目は、「セルフマネジメント」は、新しいものでもなく、テストされてないものでもなく、リスクがあるものではない、ということです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.6】 「セルフマネジメント」の誤解2:組織構造、過程、ルールは不要!?(Misconception 2: No more structures, processes, rules)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/416.html ■翻訳メモ 4.1.6 Misconception 2: No more structures, processes, rules (Mis/understanding self-management) 今回話すのは、私が頻繁に出くわす誤解です。なので、特に注意して聞いてもらいたいと思います。これは、実際には「誤解」という言葉で片づけるよりも、「落とし穴」と言ったほうがよいくらいです。それくらい、多くの組織が陥りやすいということです。そして、一度、その「落とし穴」にはまると、抜け出すのには痛みを伴い、また、多くのエネルギーも必要になってきます。その誤解というのは、「『セルフマネジメント』には構造もプロセスもルールもない」というものです。 構造とプロセス、そしてポリシーとルールで満たされた古いシステムは、とても息苦しく感じたはずです。そのため、そのシステムを新しくする際には、あらゆる束縛から解放され、拘束の原因となるものはすべての取り除きたいと思うことでしょう。この全部捨ててしまえとという考えは、「セルフマネジメント」への移行を考え始めた時や、「セルフマネジメント」への移行の準備に取り掛かった時、ほとんどすべての人の心の中に、生じるようです。しかし、これはまったく悲劇的な誤解です。 その場合、次にどうするかというと、なんら新しいものの作成には一切手をつけることなしに、組織を支える屋台骨となっていた多くのシステムを壊し始めます。それをすると、当然混乱が起きます。組織を支えるバックボーンを失ったからです。そして、その次には、皆が混乱に巻き込まれ、やるべきことが分からなくという事態が起こります。あらゆることが遅滞し始め、結果も伴わなくなって、組織全体にイライラが募ってきます。何人かの人は状況を変えるために何かを始めようとしますが、意思決定の仕方が明確でないため、何かを決めることもできません。そのまま、挙句の果ては、権力闘争が勃発するか、あるいは元の古い独裁的なシステムに戻ってしまうかの道を歩みます。これは、まさに悲劇であり、またとても残念なことでもあります。 「セルフマネジメント」には、以前の組織と同じように、構造とプロセス、ルールがあります。これは明快なことです。ただし、以前のものとは明らかな違いがあり、多くの場合は、以前のものに比べて決まりごとが少ないのです。繰り返しになりますが、組織に構造は絶対に必要です。すべての生物には構造と境界があり、そしてプロセスがあります。それは、組織も生物も同じです。 14,000人の従業員が近隣の看護とケアを行っているビュートゾルフ社を例にとると、その組織はカオスでも、単なる個別組織の集合体でもなく、非常に細やかに組織化がなされています。チームは、10〜12人の看護師で編成されますが、それぞれが役割を理解できるシステムがあり、自らが決定を下すことができ、会議を運営して、パフォーマンスを管理する方法を持っています。「セルフマネジメント」で運営されている工場の場合だと、それぞれのチームは、パフォーマンス管理の方法と、コンフリクトに対処する方法を有しています。彼らは単なる無形ではなく、もちろん従来の組織の特徴である階層構成とは大きく異なりますが、確かな構造を持った組織です。いま言った違いというのは、一つは、力の保持のことで、少数の人々に力が集中するのではなく、組織の設計によって、誰もが力を持てるようになったことです。これはもちろん大きな変化です。もう1つは、組織構造の柔軟性のことです。従来の組織は構造が静的で、大規模な再編成を行うまでほとんど変わらないという特徴がありました。「セルフマネジメント」組織の場合は、分散した構造は流動的かつ有機的です。環境の変化と、メンバーが感じるニーズや機会に応じて常に変化してゆきます。いま言った2つの特徴は従来の組織とは種類こそ異なりますが、それでも、とてもしっかりした構造と言えるものです。 プロセスについても同じことが言えます。多くの組織で、形式化され、押しつけられたプロセスがあります。きっとそれはお金を払って誰に設計を依頼したもので、形式上は理にかなっているはずです。しかし、それを現場の状況に当てはめると、うまく機能しないのです。それゆえ、それに従うと創造性が失われ、そうでなければ、いかにプロセスを回避するかという、とても馬鹿げたことに頭を使うことになります。そういう経験があるからすべて取り除こうという願望が芽生えるのです。このような場合は、一般的にですが、プロセスは機能に従います。プロセスが必要かどうかは、それぞれの業界における仕事の性質に委ねられます。たとえば、ビュートゾルフ社の場合、看護師がプロフェッショナルであるがゆえに、義務化されたプロセスはほとんど存在しません。彼らの業界は、看護師は自分の知識と直感、そして患者との関係に基づいて、正しい行動ができる、ゆえに信頼できるという業界なのです。 今度は、ケチャップとトマトペースト、それと、さいの目に切ったトマトを作るカリフォルニアのモーニングスター社の例を見てみましょう。この会社の場合は、一方の側にトマトを投入し、反対側からケチャップが出てくるという、一大プロセスがあります。そしてこれは、入念に管理する必要があるプロセスです。このプロセスに入る際のトマトの温度、そこにかける圧力、そして出来上がったペーストの粘度は厳格に定められています。そこで働いている人たちは、何をすべきか分かっており、そしてその行為は非常に正確を求められることも分かっています。つまり、モーニングスター社には、特色のあるプロセスが存在するということです。そして、それはビジネスの性質上、必要不可欠なものということができるのです。 ここでもやはり、従来型のシステムとの違いは、これらのプロセスは誰からも強制されたものではないということです。彼らは、プロセスに至る処理過程を自ら設計します。つまり、メンバー間で互いに協力したり、また交渉したりして、適切なプロセスが何であるかを決めていくのです。 最後、ルールについても同様です。「セルフマネジメント」のシステムにおいても、ゲームをプレイする上での明確なルールが存在します。それはアドバイスプロセスや同意ベースの意思決定手順を経るといったことです。コンフリクトに対処する方法であり、互いにフィードバック行ったり得たりする方法のことです。しつこく言いますが、「セルフマネジメント」には明確なルールが存在します。大きな違いは、上司に強制されているのではないということです。ルールが役に立たなくなったと感じたら、いつでも変更可能です。また、誰でも変更の提案ができます。そして、その際は、そのための意思決定メカニズムを使います。 旧システムにもあったような、構造とプロセスとルールが「セルフマネジメント」にも存在する点をもう少し掘り下げてみましょう。「セルフマネジメント」は、古いスタイルとは異なりますが、そこに混乱はなく、かつ、完全な自由があるわけでもありません。とはいえ、「構造はない」といった誤解が定着してしまった組織も数多くあります。そして、その結果、多くの場合、奇妙な行動に発展するのです。一部の社員は、「セルフマネジメント」を切り札のように出して、こう言うそうです。「あなたは私に何をすべきか指示することはできません。私たちはお互いに自己管理しているのですから。つまり、私は好きなことができるということです」と。もちろん、これでは、組織は回りません。こういう社員に対して、私だったらこう言います。「私はあなたの上司ではないので、あなたに指図することはできません」。その上で、「しかし、私たちが同意したゲームのルールは、あなたに伝えなければなりません。そして、あなたは、そのルールに従うべきです。内容に不満があるのなら、そのルールに則った上で、そのルールの変更に着手してください」と。つまり、そのルールが機能している以上は、皆がそれを守る必要があるのです。そのため、「誰に何を言われても気にしない、好きなようにやる」というような発想は認められないのです。 もう一度繰り返します。「セルフマネジメント」には、構造があり、プロセスがあり、ルールがあります!ヒエラルキー型のものとはまったく異なりますが、新しいシステムでも、それらは強力に働くのです。それらは、いかにもソウルフルで、またとても柔軟で、そして有機的で、常に変化し続けます。そして、それらは私たちがオーナーシップを持って、共同で作り出していくものです。それは混乱とは無縁で、完全な自由とも違います。冒頭に「落とし穴」と言いました。あなたには、古いシステムを解体し、新しいものも再構築しないという過ちには陥ってほしくないのです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.7】「セルフマネジメント」の誤解3:意思決定を手放してしまったトップ(Misconception 3: No more decisions "from the top")

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/417.html ■翻訳メモ 私はリーダーが、ある特定の落とし穴に陥ってしまった例をいくつも見てきました。その落とし穴とは、「セルフマネジメント」への移行期に起こる、CEOや執行役員といった前のリーダーの、突然のリーダーシップの放棄というものです。彼らは自らの行動を自らの意思で抑え込んでしまうのです。しかし、重要な決定を承認したり実行したりしていた、また、すべての力がピラミッドの頂点に集中していた古いモデルの頃と同様、彼らの持つリーダーシップは、新たな「セルフマネジメント」においても、重要な役割を果たします。新しいシステムでは、リーダーはトップダウンで決定を下すことができないと認識する必要があります。しかし、それが盲点になり、すべてがボトムアップという風潮になってしまうと、悲劇的な事態を招き寄せます。今回話す「誤解」は、とてもリアルなものです。 この誤解を理解するためには、まず、言葉の意味や定義を揃えていくことが必要です。つまり、私たちが依然として、トップとボトムという2方向からしか組織を見れないことに、その悲劇は起因しています。「セルフマネジメント」の世界では、もはや、トップもボトムも存在しないのです。意思決定のプロセスは、皆がまったく同じルールに則って行います。討議事項があれば、アドバイスプロセスやその他の意思決定のメカニズムを使います。誰もが同じルールで行動し、同じステップを踏んで決定決定が実施されるということです。以前は、重要な決定は全部マネージャーのところに持ち込まれたため、ピラミッドの底にいる人たちは、それにかかわることができませんでした。「私には権限がない」とマネージャーが認識すると、意思決定権はさらにその上へ移っていきました。すると、意思決定のプロセスに一切かかわれなかったピラミッドの底の人たちは、自分たちは無力であると認識し、提案することさえあきらめてしまっていました。「セルフマネジメント」ではトップやボトムという考え自体存在しません。つまり、すべてが変わるということです。そして、それらの言葉は、「俯瞰」や「広い視野」という言葉に置き換わっていくのです。 一部の人は、引き続き、具体的な役割を担います。例えば、もし私がコンピュータのオペレーターだったとしたら、それが私の具体的な役割です。それは、その領域に特化したという意味の役割りです。ソーシャルワーカーなども具体的な役割の一つです。営業や教師などもそうです。その場合、それぞれの仕事の呼称に、特定の役割が紐付きます。それとは別に、組織をより俯瞰して見ることが求められる幅広い役割を持った人がいます。新しい工場をゼロから設計するような人や、市場全体の変化を捉えて、それが私たちの生活にどのような影響を及ぼすかなどを考えている人は、はるかに幅広い役割を担っています。そして、どんな組織にも具体的な役割を持つ専門的な人と、広範囲のことを扱うマネージメント的役割の人、その両方がいるはずです。実務が多い組織には具体的な役割を持った人の割合が多くなるはずです。もちろん、そんな組織にも、幅広い領域について考える人も必要です。つまり、かつてのリーダーが、突然、リーダーシップを放棄してしまうと、誰かが見なければならない広範な課題領域に対して、対応できる人がいなくなってしまいます。多くの「セルフマネジメント」組織では、時間が経てば、そのような広範囲を扱う人は少なくなる傾向にはあります。成熟度が高まってくると、より具体的なことを扱う人たちも、俯瞰的になり、より広範な役割について考えることができるようになってくるからです。しかし、そういった人たちがイニシアチブを発揮できるようになるには、ある程度の時間が必要です。広範囲な問題を扱うプロセスは成熟を要するため、学習にはそれ相応の時間が必要なのです。そのため、俯瞰的な視点が必要な問題に対処するには、最初は、元リーダーの力が必要不可欠なのです。彼らの存在が突然消えてなくなるのは、誰にとっても大きな損失になるのです。俯瞰的な視点で物事を見れる人が一人もいなくなるというのは、組織にとって好ましいこととは言えません。 元リーダー自身にとっても、その状況は好ましくないはずです。私は実際にその落とし穴似嵌ったリーダーとも会話しました。彼らはボトムアップが必要とされたため、自分は身を引かなければならない思ったそうです。私はこう尋ねました。「自分の持っている力がまったく発揮できなくなったとしても、そのような状況であっても、何か組織に貢献できることはないかと考えることはないのですか」と。彼らの心からの答えは「イエス」でした。彼らは身を引くことに痛みを感じていたのです。 具体的な役割を持った人たちの側からしても同様のことが言えます。私は突然、混乱状態に陥った組織をいくつも見てきました。昔のトップダウン型リーダーがいなくなり、静かになったのはいいことかもしれませんが、何をやったらいいのか、自分自身の方向感さえ見失なってしまったということが起こりがちなのです。それはいかにも残念なことです。つまり、元リーダーがやるべきこととは、自分自身が新たな「ロールモデル」になることです。具体的な役割を持った人たちがアドバイスプロセスを理解して使いこなせるまでに時間を要するのは、それを使いこなす、見本となる人がいないからです。 元リーダーの発言には皆、耳を傾けます。「その問題については、何かを変える必要があるようだ」とか、「こっちの方向に進んでみてはどうだろう」といったものです。トップダウンのやり方を脱却し、アドバイスプロセスを機能させていくには、元リーダーが示すロールモデルは非常に強力なシグナルになるのです。 「ああ、そうか。ということは、こうやればいい。なるほど、こういうのはアドバイスプロセスを使わなきゃ。では自分が意思決定したいときには・・・、よし、シンプルにやってみよう。いま私がやったような方法で」と。 ここで注意してもらいたいのが、かつて、絶対的な意思決定のできるリーダー的な立場にあった人であっても、他の人たちと同じようにアドバイスプロセスに参加しなければならないことです。組織はその人の声を必要としています。アドバイスプロセスに加わらないことで、最も経験豊富な人たち、最も年長の人たちが、自分たちの才能を組織の中で発揮できなくなったとしたら、そんな馬鹿げたことはありません。昔の力任せのやり方ではなく、皆と同じルールに従って意思決定を行うということです。 では、もっと実践的な話をしましょう。もしあなたが元リーダーであったとしたら、これはあなたにとって何を意味するのでしょうか?私は、少なくとも3つのことを考えています。 一つ目は、部下があなたのところにやってきて、いかにも古いやり方で、「この件にかんしては、これ以上進めるには、あなたの承認が必要です」と言ってきた時のことです。これは極めて重要です。その際、あなたは、一貫して、「承認は必要ありません」ときっぱり言わなければなりません。しかし、これで終えてはいけません。意思決定にかんすることは、アドバイスプロセスを使うようコーチすることもできるのです。「この問題に関して、誰が専門知識を持っているかご存知ですか?その人には事前に相談しておいた方がいいと思いますよ」などと伝えるのです。「これは、1つの意見なので、今言ったことは、必ずそうしなさい、というものではありません。もちろん、他の人の経験や知見も参考にして、あなたが最善と思うやり方でやってください」という具合に。 1つ目。承認のために部下があなたのところに来たとしても、彼らに承認は与えないこと。2つ目。ほとんどの会社組織では、フォーラムや会議など、意思決定が承認される会議体があると思いますが、そのようなシステムに組み込まれているものは解体しましょう。決定事項はアドバイスプロセスを使って決定するようにします。そして3つ目は、元リーダーであっても、それ以外の人と同じですが、痛みやテンションを感じた時や、何かを変える必要があると思った時は、それを声に出してください。組織はあなたのそのような貴重な声を必要としているのです。ですので、アドバイスプロセス、もしくは何らかの意思決定の場において、元リーダーは、新たなロールモデルになっていくようにしてください。組織の人たちは、あなたのやり方を見て、新しいやり方に慣れていくのですから。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.8】「セルフマネジメント」の誤解4:全員が平等(Misconception 4: Everyone is equal)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/418.html ■翻訳メモ セルフマネジメント組織では、誰もが平等であると、よく聞きます。もしくは、多くの人は、ティールはフラットな組織だと話す傾向にあります。ただ、正直、私は「フラット」や「水平」と言葉が好きではありません。また、「平等」という言葉の使い方は、かなり混同されているようです。そのため、それらを正確に理解することが重要だと思うのです。 確かに、セルフマネジメント組織で働くメンバーは、全員が等しく価値を有しています。そして、私たちはそういった基本的人権を尊重しなければなりません。しかし、そこで言う平等と、組織における役割や貢献といったものとはまったく別物なのです。存在における価値は等しくあっても...、つまり、個人の存在における平等と、組織における役割や貢献度とを混同してはいけないということです。もう少し詳しく言うと、存在に対する平等とは、それが誰であろうと、どんな役割をもって、また、その個人の貢献度合いがどうであろうと、すべては平等で、すべてのメンバーはかけがえのない一人の人間として扱われなければなりません。私たちは生来、等しく尊厳を持っています。それは、例えば、私たち全員がまったく同じルールでプレーすることを意味します。ある人はその人独自のルールで、ある人はまた違ったルールで、というカースト制度のような不平等は許されません。つまり、誰もが変化を起こせる力を持っているということです。アドバイスプロセスを踏まえるなどすると、誰もが何かを起こすことが可能になります。それはとても素晴らしいことです。誰もが自分自身に、もしくは、他の人に光を当てることができて、皆が同じように輝けるわけですから。 それが存在における平等というものです。役割や貢献との違いはどこにあるのかというと、それは非常にシンプルです。ある特定の事柄に対して、他の人よりもより専門的な知識を持っているとか、より情熱を持っているとか、といった人がいるはずです。例えて言うと、私はマーケティングの専門家ではないので、マーケティングのことを聞かれても困るのです。いや、絶対に聞かないでくださいとリアクションします。私は技術屋ではありません。ですので、機械のメンテナンスや修理が必要な場合は、私に聞いても無駄ということになります。つまり、その意味で、私たちはまったく平等ではないのです。その違いを活かすには、エネルギーの方向性や貢献度、持ち前のスキルが組織の中でいかんなく発揮されることが望まれるのです。 ビュートゾルフ社の看護師チームの例を挙げると、看護師のチームの中には、必ず誰か、紛争解決や調停が得意な人がいます。そうすると、当然、困りごとを解決したい人は彼らの元を訪れますよね。また別の例で言うと、週末や休日の計画に困っている人がいたとすると、その人は、計画が得意な人のところに聞きに行けばよいですよね。どんな組織でも、特定の事柄に対しての適任者はいるものです。その時は、その人に任せるのが自然なあり方といえます。 これは非常に重要なポイントです。そこに、支配を目的としたヒエラルキーと、自然に生じるヒエラルキーとの大きな違いがあります。私たちがよく犯す間違いは、階層構造が好きではないとの理由でその構造自体をなくしてしまうことです。ヒエラルキーは2種類あることを理解していないからそんなことをしてしまうのです。私たちが取り除くべきなのは、「私はあなたの上司ですから、あなたに力を行使できるのです」という支配を目的としたヒエラルキーです。一方で、私たちが維持して、推進していくのは自然に発生するヒエラルキーです。それは自分が得意なことにはリーダーシップを取り、不得意なものについてはリーダーシップを譲るといった自然発生的な力のことです。 支配的なヒエラルキーが解体されていく過程で、こういうことが起こります。才能や情熱があっても、それらを発揮する場がなかった人たちが、自然なヒエラルキーが発生することで、突如目覚めるのです。そうすると、以前にはなかった何か素晴らしいことを、突然やり始める人が出てくるようになるのです。 我々が目指すのは「すべてが平等」の世界ではありません。「平等」とは人が本来持っている価値のことであって、役割や貢献までもを平等とすることはできません。各自が最大限に自分の力を発揮できるようになることが重要なのです。最もやってはいけないのは、権力を持った人が、「あなたには決定権がない」と、適任者の邪魔をすることです。同じように、適任でない人に背負わせることも最悪です。私がコンピュータなどの機器の購買担当者だったとしましょう。組織が新たにセルフマネジメント組織になったことで、自分の権限で新しい機器の購入が可能になりました。そのため、会社のコンピュータの入れ替え時には、私は調査のために、日本とドイツのサプライヤーの元を訪れることになります。これはとても素晴らしいことです。多くのセルフマネジメント組織では、そのように不可能だったことが可能になっていくのです。 無理に取り組むというのもいけません。自分にはそのことに割くエネルギーがなく、そして得意分野でもないと気付いた時には、他の人に任せるようにします。みんなが「平等に」力を発揮できるようになるには、個人が痛みをかかえたまま背負いこむ必要はないのです。勤務形態や職位に関係なくやるべき人がやればいいのです。皆が等しくできなければならないと無理にやらせることはしないでください。この違いはとても大事な違いです。ゴールは、全員が同等に力を発揮することではなく、全員が自分の力を発揮できるところで力を発揮することです。そして、セルフマネジメントはそれを可能にするのです。 このことを説明するのに、いつものように、「自然」を例にとると分かりやすいと思います。森のような生態系には、さまざまな種類の植物が存在しています。キノコやシダは、木々のように高く育つことはありませんが、かといって、それらに木と同じ高さまで成長を求めることは馬鹿げているでしょう。キノコは1本の木よりもはるかに大きく根を張りめぐらし、シダは木にない美しさを誇ります。この生態系では、すべてが必要とされており、必要でないものはないのです。もし、どれか一部が欠けても生態系は維持できなくなります。高さを唯一の物差しとしている時点で、すでに馬鹿げていると言わざるを得ません。 ここで、私が言いたいのは、皆が自分らしさを最大限に発揮して成長できるようになっているのか、ということです。それは私たちにとって本当に重要な課題なのです。だから、私はフラットとか平等とかいう言葉は使いたくないのです。私は、どの方向から見ても、どの面を向いても、その中で成長できるような、組織自体を生き生きとしたものにしたいのです。しつこいようですが、改めて、存在自体の平等性と、自然発生的な役割や貢献とを分けて考えることは非常に重要なのです。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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【4.1.9】「セルフマネジメント」の誤解5:エンパワーメントとサーバントリーダーシップについて(Misconception 5: Empowerment and Servant Leadership)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。 ————————————————————— ■元のURL https://thejourney.reinventingorganizations.com/419.html ■翻訳メモ 挑発的に聞こえるかもしれませんが、私は「エンパワーメント」という言葉は好きではありません。また、「サーバントリーダーシップ」の考えについても同様です。現代における伝統的な組織、つまりピラミッド型の組織では、「エンパワーメント」や「サーバントリーダーシップ」といったら最高のものです。もし私が、ピラミッド型の組織で仕事をするとしたら、上司に対して、「エンパワーメント」と「サーバントリーダーシップ」は是非やってもらいたい思うことでしょう。しかし、「エンパワーメント」と「サーバントリーダーシップ」は「セルフマネジメント」ではありません。「セルフマネジメント」と「ピラミッド」とは構造が違うのですから、それらが並び立つことはありません。ですので、「私たちはセルフマネジメントを取り入れています。だから、メンバーにはエンパワーメントしています」とか、「セルフマネジメントを実践している私たちは、エンパワーメントとサーバントリーダーシップの文化を持っているのです」などと聞くと、「あー、何かおかしなことが起こっているなー」と思ってしまうのです。まったく互換性がないことを平気で言っているわけですから。と同時に、それは、「セルフマネジメント」が機能していないことの何よりの証となります。考えてもみてください。人をエンパワーするということ、つまり、力を与えるというのは、それは依然としてトップが力を握っているということではないですか。権力の一部を一時的に貸し与えているだけということですから。セルフマネジメントにおいて、力は誰かから委ねられたものではありません。最初から分散保有しているものです。皆が力を持ったシステムで、一部のサーバントリーダーが力を貸し与えること自体矛盾しています。 この「サーバントリーダーシップ」の概念をもう少し掘り下げてしてみましょう。繰り返しますが、ヒエラルキー型の組織では、この概念はとても素晴らしい概念です。まず、サーバントリーダーというのは部下に「仕える」リーダーシップを意味しますが、しかし、私にとって、それは、恐ろしく男性的であると感じるのです。メンバーはリーダーに奉仕してもらうことを欲しているのでしょうか?私は、これもエゴの罠ではないかと思っています。「私はもはや、ピラミッドの頂点に立つ英雄的で独裁的リーダーではありません。部下のあなたこそがピラミッドの頂点に立つべきなのです。あなたは特別な存在です。それに引きかえ、私は、ただひたすらあなたに仕える、サーバントリーダーなのです。私の心の中は常に、「はい、ご主人様!」というものです。繰り返し言いますが、私は奉仕する立場ですから部下の皆さんとは違うのです。そう、私はみなさんと立場が違うのです。違った立場で、あなたに仕えているのです・・・」。あー、ありえない!!! 要するに、セルフマネジメントでは、まったく違った考え方をします。メンバーは、特定の人にではなく、「組織の目的」に対して貢献しているのです。いいですか?「仕える」や「奉仕する」という概念を使いたいなら、私は「組織の目的」に仕えているのです。セルフマネジメントでは、自分で決めて自分で動けるのですから、特定の人に仕えたり、奉仕したりすることはありません。皆が同じく力を持って、アドバイスプロセスを使って、どんな変化でも起こせるのです。ゆえに、誰かに奉仕するという概念はありません。もし誰かが病気なら、その人を看病して、その人の回復まで奉仕することはいいことだと思います。しかし、メンバーの誰かが病気なのですか?私たちはなぜ、病気でもない人に尽くさないといけないのでしょう? 実際に私たちが敬意を示すべきは「組織の目的」に対してです。本来はそれが美しい姿です。私が言う「サーバントリーダー」とはこういうことです。言ってみれば、私たちは皆、「組織の目的」に対するサーバントリーダーかもしれません。少なくとも、ピラミッドの下層にいる人に仕えるようなことはありません。 もし、まだ、「エンパワーメント」や「サーバントリーダーシップ」といった言葉を使い続けたいのなら、「セルフマネジメント」とは切り離して考えるようにしてください。そこが混同してしまっているのは、「セルフマネジメント」に関するあなたの理解がまだまだ進んでいないからです。ただ、それはそれでいいのです。それはプロセスの問題なのですから。ただし、絶対に自分を騙すようなことだけはしないでください。つまり、「セルフマネジメント」を実践しているとは言ってほしくないのです。あなたがやっていることは、おそらく、「慈悲深い独裁」なのですから。 ■お願い 動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。 この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。 https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html ■翻訳メモの全体の目次 https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1