【4.1.1】「セルフマネジメント」が意味するものとは?(What does self-management mean for you?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/411.html

■翻訳メモ
「セルフマネジメント」について、少し違った視点から話してみたいと思います。多くの人は、「セルフマネジメント」を使えば、物事が整理しやすくなって、意思決定の支援ができると思っているようです。より良い意思決定を行えば、物事ははかどり、メンバーはさらにやる気を出すという発想です。目的が、物事を素早く片付けることなら、それに越したことはないでしょう。私が多くの人から聞く「セルフマネジメント」像は、基本的にはエンパワーメントの形をしています。その視点自体、何も悪くはありませんが、私はそれとは異なった違った考え方をしています。それでは、1つ、あるいは2つの、他の「セルフマネジメント」像について話を進めていきましょう。もっとも、それらの考えとあなたの考えとが符合すればいいのですが。

「セルフマネジメント」の捉え方として、1番目に挙げるのは、組織を管理するためのものではなく、物事をつかさどる唯一のあり方として捉える方法です。

従来のヒエラルキー型の管理体制の中心にあるのは、一部の人が他の人達よりもより大きな権力を持っているという概念です。私があなたの上司であったとしたなら、私はあなたの人生を通して、ずっとあなたの上にいて力を持っていることを意味します。私は、あなたが昇給するかどうかを決めることができ、あなたを昇進させたり、あなたが望むプロジェクトであってもその参加を阻止したりできる決断権を持っていることでしょう。そして、あなたがこのまま仕事を続けることができるか、それとも解雇されるかどうかについても、私は力を有しています。つまり、私はあなたに対して本当に実質的な力を持っているということになります。しかし、私が言おうとしている「セルフマネジメント」の概念とは、何人たりとも、他の誰かに対して、本来的には何の力も持っていないということなのです。つまり、パワー・オーバーをパワー・ウィズに置き換えることで、ゼロサムゲームは終了できるということです。

従来のマネジメントでは、私が力を持てば、あなたは力を持てなくなります。しかし、「セルフマネジメント」では、とても不思議なことが起こります。それは、あなたがパワフルであればあるほど、私もパワーを得ることができるということです。それは、組織の目的に向かって多くのイニシアチブを取ることができるようになることを意味します。そうすると、今度は私にイニシアチブを生み出す機会が多く生まれ、それが私をより強力にしてくれるということが起るのです。つまり、「セルフマネジメント」には、パワー・オーバーからパワー・ウィズへという一種、革命的な側面があるのです。私自身は、人生で二度と、誰かから力を与えられるような状況にはなりたくないと思っています。その力の存在を知ったからこそ、「セルフマネジメント」は可能だと主張できるのです。

その考えは私にとって衝撃的でした。同時に、私はもう、他の誰かに対しても、力を行使する立場にはなりたくないと思いました。ヒエラルキーには、なにか関係性を壊すようなものがあり、長い歴史からみても、すごく不自然なものに感じるのです。私たち人類は、その歴史の95〜98パーセントは、ヒエラルキーのない小さな集団を単位として暮らしてきました。そこでは年長者や知恵のある人たちに耳を傾ける習慣がありましたが、そこにヒエラルキーや上からの圧力といったものは存在しませんでした。それらは、ここ数千年に限定された産物であり、ゆえに、われわれの深い記憶中には、それは私たちが望んだものではない、または、不自然なものである、という暗黙のものがあるのだと思います。

よく考えてみると、ヒエラルキーは、面白くない合理性を有しているように思います。誰かが組織の中で上位にあって、権力を握っていれば、それは一種の秩序として自然に見えてしまうからです。しかし、「私はあなたよりも価値があって、いかなる理由にせよ、あなたは私より劣っている。そして、私はあなたよりスマートな人間であって、あなたはそうではない。また、私はより賢く、より努力もする人で、より良い遺伝子も持っている」と、これらのことが明確でないかぎり、本来は、人に上も下もないのです。その歴然たる理由がないのにもかかわらず成り立ってしまっている合理性は、やはりまったくしっくりこないものです。きっと、組織の下位にいる人が上位の人を見たら、自分は劣っていると感じることでしょう。私が組織にかかわってきたことで得た学びは、まさにそこに尽きます。

多くの組織には、いわゆるステータスシンボルが設定されています。会社のルールに縛られないで行動できること、オフィスに角部屋を用意してもらえること、あるいは、高級車を購入できるといったものです。このように、ヒエラルキーには、それらの人が本当に優れた人であるように見せかける仕組みがそろっています。これこそがヒエラルキーシステムを支えているメカニズムです。それゆえ、多くの人は合理的であると感じてしまうのです。

皆さんは不思議に思ったことがあるかどうかわかりませんが、私は給与制度についても不思議に思うことがあります。組織では、上位の人がより多くの給与を得ることを私たちは当然だと思っています。彼らは、一般社員の5倍、10倍、24倍と稼いでいるということですが。それは、彼らがいかに重要な人物であり、それ以外の人たちがいかに交換可能であるかを合理的に納得させようとしているのだと思います。ではなぜ、私たちは、その逆のことを考えないのでしょうか。

例えば、単純な繰り返し作業に多額の給与が支払われるとしたらどうでしょう。毎日何百回も同じ動きをする組立ラインの作業は、気が遠くなるほど大変な仕事です。だったら、その仕事をする人には、CEOよりも高い報酬が支払われることにするとしたらどうでしょう?CEOにしてみれば、給料を2倍にしてやると言ってもその仕事はやりたがらないでしょう。そんなCEOは一人もいないと思います。だったら、とても面白く充実した仕事は給料が安く、最も退屈でルーチンをこなす仕事は給料が高いというロジックが成り立ってもいいのではないでしょうか。私にとっては、誰もが必要性に応じた報酬を受け取る単純なロジックが理想に感じられるのです。ある人に4人の子供がいて、あるいは、世話を必要とする年老いた母親がいるとしたら、その仕事がどんな仕事であれ、ある程度の給料は絶対に必要です。その状況と、その人がヒエラルキーのどこにいるのかはまったく関りがありません。しかし、いずれそのような世界がやってくる可能性があるとしても、これはとても急進的な考え方です。いま、「セルフマネジメント」を実践している組織でさえ、そのほとんどは、給与システムは能力主義にリンクしたままです。

これ以上言及することはありませんが、今回は、こういった別の視点を提示してみたかったのです。この「セルフマネジメント」というラディカルな視点は、道徳的な観点や誠実さの観点から、私が組織で働きたいと思うような唯一のあり方なのです。

次は、3つ目の観点です。それは、「セルフマネジメント」は最も自然の法則にかなった組織化の方法であるというものです。人類の歴史を振り返ってみると、ヒエラルキーはここ数千年の間に誕生したものに過ぎません。それでも多くの人は、大まじめに、自律とはヒエラルキーによって成立し、それぞれの要素間には高い壁が存在していると言います。とんでもないことです!いえ、一番自然なのは、高いヒエラルキーではなく、私たちが狩猟採集生活で何十万年も前から持っているパワー・ウィズなのです。ヒエラルキーとは私たちにとって自然からかけ離れた、歴史のほんの一部分の産物に過ぎないのです。明らかに、生命が組織化する理こそが「セルフマネジメント」なのです。最近私が記したものにもそのことについて触れています。なかなかうまく書けたと思っているのですが、いま、その部分を引用してみます。

「セルフマネジメント」は決して驚くべき発明ではありません。何十億年もの間、この世界で生命を営み、私たちが理解できないほど壮大で複雑な生物と生態系を生み出してきた方法なのです。自己組織化は、「カオスの縁」で育まれる世界の生命力であり、秩序を形成するに十分なエネルギーを宿してはいましたが、適応や学習といった我々のサブシステムの進行を遅らせるには至りませんでした。いま述べたのがまさに生態系の仕組みであり、身体の仕組み、脳の仕組み、生命の営みのすべてをつかさどった仕組みそのものです。それは多くの人が信じる複雑な適応システムを持つ全体性からなる科学のことであり、また、これこそが、従来のニュートンを代表とする線形の科学に取って代わる21世紀の科学だと言えるのです。

まさに、「セルフマネジメント」はこの視点に由来しています。つまり、私たちが、いまやろうとしているのは、進化や生命を育んできたこれらの原理を、私たちの組織に取り入れる方法を学ぶだけ、ということなのです。このようなことが真剣に議論されることを切に願っています。

セルフマネジメントを、単に物事を整理するための多少良い方法として見るのは全く問題ありません。なぜなら、そうすることで、皆は意欲的になり、より良い決断も下せるからです。というのも、信頼に基づいた人間関係があれば、それはそれで有効に働くからです。それにもかかわらず、今回は、それ以外に2つの視点を提示しました。

私が再び組織で働くとしたら、そのうちの1つ、本当に唯一のあり方のほうのみです。なぜなら、私には、権力よって支配を受けるというこの上ない不愉快さから逃れたいという理由があるからです。3番目の方法は、率直に言って、これが最も自然な組織化の方法であり、私たち人類が長い間、小型動物だったころから自分たちを組織化してきた方法であるとともに、生命そのものが何十億年も前から育んできた方法でもあるからです。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。