【4.1.7】「セルフマネジメント」の誤解3:意思決定を手放してしまったトップ(Misconception 3: No more decisions "from the top")

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/417.html

■翻訳メモ
私はリーダーが、ある特定の落とし穴に陥ってしまった例をいくつも見てきました。その落とし穴とは、「セルフマネジメント」への移行期に起こる、CEOや執行役員といった前のリーダーの、突然のリーダーシップの放棄というものです。彼らは自らの行動を自らの意思で抑え込んでしまうのです。しかし、重要な決定を承認したり実行したりしていた、また、すべての力がピラミッドの頂点に集中していた古いモデルの頃と同様、彼らの持つリーダーシップは、新たな「セルフマネジメント」においても、重要な役割を果たします。新しいシステムでは、リーダーはトップダウンで決定を下すことができないと認識する必要があります。しかし、それが盲点になり、すべてがボトムアップという風潮になってしまうと、悲劇的な事態を招き寄せます。今回話す「誤解」は、とてもリアルなものです。

この誤解を理解するためには、まず、言葉の意味や定義を揃えていくことが必要です。つまり、私たちが依然として、トップとボトムという2方向からしか組織を見れないことに、その悲劇は起因しています。「セルフマネジメント」の世界では、もはや、トップもボトムも存在しないのです。意思決定のプロセスは、皆がまったく同じルールに則って行います。討議事項があれば、アドバイスプロセスやその他の意思決定のメカニズムを使います。誰もが同じルールで行動し、同じステップを踏んで決定決定が実施されるということです。以前は、重要な決定は全部マネージャーのところに持ち込まれたため、ピラミッドの底にいる人たちは、それにかかわることができませんでした。「私には権限がない」とマネージャーが認識すると、意思決定権はさらにその上へ移っていきました。すると、意思決定のプロセスに一切かかわれなかったピラミッドの底の人たちは、自分たちは無力であると認識し、提案することさえあきらめてしまっていました。「セルフマネジメント」ではトップやボトムという考え自体存在しません。つまり、すべてが変わるということです。そして、それらの言葉は、「俯瞰」や「広い視野」という言葉に置き換わっていくのです。

一部の人は、引き続き、具体的な役割を担います。例えば、もし私がコンピュータのオペレーターだったとしたら、それが私の具体的な役割です。それは、その領域に特化したという意味の役割りです。ソーシャルワーカーなども具体的な役割の一つです。営業や教師などもそうです。その場合、それぞれの仕事の呼称に、特定の役割が紐付きます。それとは別に、組織をより俯瞰して見ることが求められる幅広い役割を持った人がいます。新しい工場をゼロから設計するような人や、市場全体の変化を捉えて、それが私たちの生活にどのような影響を及ぼすかなどを考えている人は、はるかに幅広い役割を担っています。そして、どんな組織にも具体的な役割を持つ専門的な人と、広範囲のことを扱うマネージメント的役割の人、その両方がいるはずです。実務が多い組織には具体的な役割を持った人の割合が多くなるはずです。もちろん、そんな組織にも、幅広い領域について考える人も必要です。つまり、かつてのリーダーが、突然、リーダーシップを放棄してしまうと、誰かが見なければならない広範な課題領域に対して、対応できる人がいなくなってしまいます。多くの「セルフマネジメント」組織では、時間が経てば、そのような広範囲を扱う人は少なくなる傾向にはあります。成熟度が高まってくると、より具体的なことを扱う人たちも、俯瞰的になり、より広範な役割について考えることができるようになってくるからです。しかし、そういった人たちがイニシアチブを発揮できるようになるには、ある程度の時間が必要です。広範囲な問題を扱うプロセスは成熟を要するため、学習にはそれ相応の時間が必要なのです。そのため、俯瞰的な視点が必要な問題に対処するには、最初は、元リーダーの力が必要不可欠なのです。彼らの存在が突然消えてなくなるのは、誰にとっても大きな損失になるのです。俯瞰的な視点で物事を見れる人が一人もいなくなるというのは、組織にとって好ましいこととは言えません。

元リーダー自身にとっても、その状況は好ましくないはずです。私は実際にその落とし穴似嵌ったリーダーとも会話しました。彼らはボトムアップが必要とされたため、自分は身を引かなければならない思ったそうです。私はこう尋ねました。「自分の持っている力がまったく発揮できなくなったとしても、そのような状況であっても、何か組織に貢献できることはないかと考えることはないのですか」と。彼らの心からの答えは「イエス」でした。彼らは身を引くことに痛みを感じていたのです。

具体的な役割を持った人たちの側からしても同様のことが言えます。私は突然、混乱状態に陥った組織をいくつも見てきました。昔のトップダウン型リーダーがいなくなり、静かになったのはいいことかもしれませんが、何をやったらいいのか、自分自身の方向感さえ見失なってしまったということが起こりがちなのです。それはいかにも残念なことです。つまり、元リーダーがやるべきこととは、自分自身が新たな「ロールモデル」になることです。具体的な役割を持った人たちがアドバイスプロセスを理解して使いこなせるまでに時間を要するのは、それを使いこなす、見本となる人がいないからです。

元リーダーの発言には皆、耳を傾けます。「その問題については、何かを変える必要があるようだ」とか、「こっちの方向に進んでみてはどうだろう」といったものです。トップダウンのやり方を脱却し、アドバイスプロセスを機能させていくには、元リーダーが示すロールモデルは非常に強力なシグナルになるのです。

「ああ、そうか。ということは、こうやればいい。なるほど、こういうのはアドバイスプロセスを使わなきゃ。では自分が意思決定したいときには・・・、よし、シンプルにやってみよう。いま私がやったような方法で」と。

ここで注意してもらいたいのが、かつて、絶対的な意思決定のできるリーダー的な立場にあった人であっても、他の人たちと同じようにアドバイスプロセスに参加しなければならないことです。組織はその人の声を必要としています。アドバイスプロセスに加わらないことで、最も経験豊富な人たち、最も年長の人たちが、自分たちの才能を組織の中で発揮できなくなったとしたら、そんな馬鹿げたことはありません。昔の力任せのやり方ではなく、皆と同じルールに従って意思決定を行うということです。

では、もっと実践的な話をしましょう。もしあなたが元リーダーであったとしたら、これはあなたにとって何を意味するのでしょうか?私は、少なくとも3つのことを考えています。

一つ目は、部下があなたのところにやってきて、いかにも古いやり方で、「この件にかんしては、これ以上進めるには、あなたの承認が必要です」と言ってきた時のことです。これは極めて重要です。その際、あなたは、一貫して、「承認は必要ありません」ときっぱり言わなければなりません。しかし、これで終えてはいけません。意思決定にかんすることは、アドバイスプロセスを使うようコーチすることもできるのです。「この問題に関して、誰が専門知識を持っているかご存知ですか?その人には事前に相談しておいた方がいいと思いますよ」などと伝えるのです。「これは、1つの意見なので、今言ったことは、必ずそうしなさい、というものではありません。もちろん、他の人の経験や知見も参考にして、あなたが最善と思うやり方でやってください」という具合に。

1つ目。承認のために部下があなたのところに来たとしても、彼らに承認は与えないこと。2つ目。ほとんどの会社組織では、フォーラムや会議など、意思決定が承認される会議体があると思いますが、そのようなシステムに組み込まれているものは解体しましょう。決定事項はアドバイスプロセスを使って決定するようにします。そして3つ目は、元リーダーであっても、それ以外の人と同じですが、痛みやテンションを感じた時や、何かを変える必要があると思った時は、それを声に出してください。組織はあなたのそのような貴重な声を必要としているのです。ですので、アドバイスプロセス、もしくは何らかの意思決定の場において、元リーダーは、新たなロールモデルになっていくようにしてください。組織の人たちは、あなたのやり方を見て、新しいやり方に慣れていくのですから。

■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。