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80年代SF傑作選(上)(毎日読書メモ(328))

この間、ハワード・ウォルドロップ「みっともないニワトリ」について語った時に(ここ)図書館で借りてきた『80年代SF傑作選(上)』(小川隆・山岸真編、ハヤカワ文庫SF)、他の作品も全部読んだ。昔の文庫本は活字が細かい…活字の大きさの境界点はどこにあるんだろう? 現在のR眼だと、へたにコンタクトレンズとかで矯正しちゃうと、逆に、古い文庫本は読むのが結構辛いのであった。
わたしはそんなに良いSF読みではなく、1980-1982年頃は「SFマガジン」を読み、1985-1987年頃はハヤカワ文庫SFをある程度集中的に読んだ時期があった程度。そんなに理系の知識が深い訳ではないので、読んだ小説によっては結構理解が困難なものもあった。でも、読書の基本は、わかってもわからなくてもとりあえず最後まで目を通すこと(一部、達成できなかった本もあるけれど)。効率は悪いけれど、読んだ小説の中に、一行でも一文でも自分の心を動かす何かがあれば、それで読んだ甲斐はあった、と思う。『映画を早送りで観る人たち』には理解して貰えないであろう効率の悪さ。
で、この本で取り上げられていた小説たち。「みっともないニワトリ」以外は、初めて読んだか、読んだけれどわたしの印象には残らなかった小説(まぁ1983年以降の小説ならもう「SFマガジン」は読んでいなかったので)。

ニュー・ローズ・ホテル ウィリアム・ギブスン(内田昌之訳)
スキンツイスター ポール・ディ=フィリポ(内田昌之訳)
石の卵 キム・スタンリー・ロビンソン(山岸真訳)
わが愛しき娘たちよ コニー・ウィリス(大森望訳) 
ブラインド・シェミィ ジャック・ダン(宮脇孝雄訳)
北斎の富嶽二十四景 ロジャー・ゼラズニィ(中村融訳)
みっともないニワトリ ハワード・ウォルドロップ(黒丸尚訳)
竜のグリオールに絵を描いた男 ルーシャス・シェパード(内田昌之訳)
マース・ホテルから生中継で アレン・M・スティール(小川隆訳)
シュレーディンガーの子猫 ジョージ・アレックス・エフィンジャー(内田昌之訳)
そして、この本のオリジナルエッセイとしてエレン・ダトロウ「回想のサイバーパンク」(小川隆訳)

もっとSFなんて読めない脳になっているかと思ったが、全然そんなことなかった。どの小説もすごく面白く、SFという概念を色々な方向に展開していることに感嘆した(辛かったのは活字が細かくて、コンタクトレンズ入れているときちんと字を追えなかったこと位か)。サイバーパンク台頭の時代、ということで、当然ながらウィリアム・ギブスンが取り上げられていたが、巻末のエッセイにあるように、結局のところ、サイバーパンクはその後のSFシーンをリードする存在にまではならなかったのである。80年代の象徴のような。
IT機器の進化著しく、40年たった今、1980年代の小説を読むと、その部分は「あの頃の未来」の中で実現してしまっていることに寂しさを感じたり、実現できていない技術や人間の能力の拡張の中にこそ、SFの醍醐味があると思ったり。逆に、そういった技術と全く関係なく形作られた物語たちの中にこそSFの真髄があるような気もしてくる。

早川書房の素晴らしいところは、ちゃんと80年代SF傑作選のあとに、90年代SF傑作選があり、2000年代海外SF傑作選、2010年海外SF傑作選がある。SFの裾野が今どの程度の広さなのかはわからないが、文学のひとつのジャンルとして、SFは今でも地歩は固められており、何かのきっかけで参照したいと思ったら、ちゃんと手に取れる場所にある、ってすごく大切なことだ。
『三体』はまだ読んでないけれど、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は手に汗握りながら読んだ。読みたい、と思ったときに、そこに求めている物語がある、って本当に素晴らしいことだと思う。


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