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わたしの「ドードーをめぐる堂々めぐり」(毎日読書メモ(322))

川端裕人『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(岩波書店)を読んで1ヶ月くらいたってしまった(感想はこちら)(トップ画像は川端さんの本からお借りした)。多くの人が、300年以上前に遠い海の向こうで絶滅したドードーという鳥の名前を知っている、そのきっかけとして、『不思議の国のアリス』と映画版ドラえもんを挙げたが、わたし自身にとってのドードーの思い出は、「SFマガジン」で読んだ、ドードーをテーマとした短編小説だった。

高校時代の同級生が、当時栗本薫にはまっていて、『レダ』という長編小説が連載されていた「SFマガジン」を毎号買っていた(連載期間は1981年8月号から1982年10月号)。読み終わったら貸してくれたので、この期間、わたしは色んな短篇SFを読んだ。わかるのもわからないのもあったけれど、SFという名前でくくられた小説の沃野を開拓する、そんな思い出がある。
そして、それらの小説の多くは記憶の彼方に消えて行ったが、40年近くたった今でも鮮明に覚えていたのがドードーに関する小説だった。

現代アメリカでドードーは繁殖していたのだが、鳥類学者が乏しい手掛かりを辿って、ドードーがいた農場に来たら、そこには骨や卵の殻などの残骸が残っていた。そして、その家に暮らしていた姉妹から話を聞いたら、写真もも残っていた。最後のドードーは、一家が一旗あげるためにその農場から立ち去るときに、お別れパーティーの席で調理され、他の御馳走と一緒に写真の真ん中に丸焼きの姿が残っていた、というオチである。

小説のタイトルも、作者名も覚えていない。SFというにはなんだか不思議なテイストのこの小説、検索すれば出るかな、と思って「1980年代 SFマガジン ドードー」で検索したら出てきた! ハワード・ウォルドロップ「みっともないニワトリ」という小説だった(黒丸尚訳)。そして、この作品は『80年代SF傑作選・上』(小川隆・山岸真編、ハヤカワ文庫SF)に収められていた。「SFマガジン」のバックナンバーを探さなくても読めるとは! ということで図書館で借りてきて読んだ。80年代といえばサイバーパンク発祥の時代で、ウィリアム・ギブスンを始めとする何作ものサイバーパンク、逆にアンチサイバーパンク的なSFも入っている中、「みっともないニワトリ(原題The Ugly Chickens)」である。
鳥類学者の卵の青年が、バスの中で『世界の絶滅鳥および消えゆく鳥』という本を見ていたら、隣にいた老婦人が「長いこと、そのみっともないニワトリは見てないわ」「あたしが子供のころ、近所に飼っている家があったのよ」と言う。ドードーを何かと見間違うことはほぼありえない、という確信を持って、ポール・リンドバール青年は探求の旅に出る。アメリカ国内で形跡を見つけ、裏を取るために飼っていた家の女性を探したら、なんと、モーリシャス島に住んでいた、という展開はすっかり忘れていた。別にドードーの故郷に行こうと思った訳でなく、プランテーションで成功して、モーリシャスに移住したが、そこが自分の家で飼っていた鳥たちの故郷だということも知らなかった、というオチ。そして、彼女がずっと保管していた写真を見せて貰うラストを引用する。

牛の腰肉がいくつもある。鶏は桶いっぱい。ウズラは山をなして。兎。アオイマメは二斗樽単位。サツマイモ。ジャガイモ。一エーカー分のトウモロコシ。ナス。豆。カブラの葉。バターは五ポンドの塊。トウモロコシパンやビスケット。糖蜜のガロン缶。肉汁ソースが幾鍋も。
そして大きな鳥が五羽ー七面鳥の倍も大きく、脚のてっぺんには感謝祭のように飾りをつけ、足の太さときたら、シュワルツェネッガーの腕ほどもある。丸焼きでさかさまに皿に載っているが、皿そのものがカクテル・テーブルほどだ。
集まった人たちは、確かに腹ペコのようだ。
「わたしたち、何日も食べましたのよ」とアルマは言った。

pp346-347

小説の前半では、ドードーについての概要が丁寧に書かれている。それは『ドードーをめぐる堂々めぐり』を読んだあとのわたしには、簡単なおさらいのような内容だが、高校生だったわたしは、このくだりで、ドードーを記憶に刷り込んだのだろう(この小説ではレユニオンに白ドードーがいた書いているが、川端さんの本では実際はいなかった模様、とされていた。その辺は40年の間に情報が刷新されているのかも)。

本当にこの小説のように、世界のどこかでドードーが生き延びてくれていたのなら、どんなにか愉快で、しかも生物学的にも意義があったことだろうと思う。SFの愉しい記憶が40年たって甦り、それを再読できたのも本当に幸せなことだった。

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