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『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(川端裕人)(毎日読書メモ(301))

ドードーを見たことのある人は誰もいない。でも多くの人が、それは昔絶滅した鳥の名前であることを知っている。鉤型の大きな嘴を持ち、ちょっと太っちょで、飛べない、そんなイメージもある人が多そうだ。それは、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』の中に登場し、また、劇場版のドラえもんの映画に何回も出てきているからだろう。

かつて、人は、絶滅した動植物がある、ということを知らなかった。気候の変動とか、外来生物に駆逐されたりとか、人間による乱伐とか、様々な事情で生物の種は消えていく。種の絶滅、を認識した最初期の事例がドードーだった。
インド洋の孤島モーリシャスで繁殖していたドードーが、絶滅したのは1662年、とされている(別に最後の一羽を特定できている訳ではないが、どんなに遅くても1690年までには絶滅していたと推測される)。無人島だったモーリシャスにオランダ艦隊が上陸したのが1598年。それから100年もたたずに、絶滅してしまったドードー。人間が殺戮したり捕獲したりもしたが、人間が連れ込んだ家畜やその他の動植物によって、住環境が激変したのが絶滅の要因だったと思われる。

人間がドードーという鳥を初めて見て、絶滅してしまうまでの僅か数十年の間に、いくばくかのドードーが海を渡った。生きたままで、あるいは死んでから。そして、なんと、生きたドードーが、少なくとも一羽、日本にもやって来ていたことが近年の調査で判明した。
川端裕人『ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(岩波書店)は、国内外の文献にあたり、正保四年(1647年)(時の将軍は徳川家光)にオランダ船が長崎の出島にもたらした海外の珍しい鳥獣の中にドードーが入っていた、という史実を検証した本。作者は外国の博物館等でドードーの標本を確認し、モーリシャスでは今なお続く発掘作業にも参加している。
ドードー類には、モーリシャスに生息したドードーと、モーリシャス共和国のもう一つの島ロドリゲスに生息したソリテアがいる(他にもいた可能性はあるが、確認されていない)。ソリテアも1778年より前に絶滅したとされる。どちらも空は飛べず、かなり大きな身体をしている。作者はロドリゲス島も訪れ、ソリテアの化石なども見ている。
身体の大きな鳥なので、当初はダチョウの仲間だとされていたが、その後の研究でハト科の鳥らしいとされる。300年以上前に消えてしまったのに、まだまだ研究は発展途上である。

どのページを開いても、知らなかったことが丁寧に解説されていて、ドードーミニ知識を書き連ねていたら、この本1冊まるまるコピペしてしまうことになりそうだ。永遠に見ることはかなわない鳥なのに、なんだかロマンをかきたてられる存在? 遺伝子研究が進めば、絶滅した種を復元する日がくるかもしれない、ということで(ジュラシックパークか!)、ずっと未来にはドードーが復元される日もなくはないのかもしれないが...。
美しい図版が多数収められていて(第一線の研究者の中に絵を描く人が複数いて、トップ画像に借りてきた表紙の絵=出島をのぞむドードーの絵を含め、ドードーがどのように生きていたかを再現する美しい絵が何枚もあり、今となっては幻の光景にため息をつく)、文中で丁寧に参照番号と共に言及されているので、何回も前のページの図版を見返しながら読んだ。
モーリシャスで行われている、絶滅したゾウガメの近隣種を他国から連れてきて、昔のモーリシャスと同じ環境の島を作り、そこで繁殖させたりする、生物の多様性を考えた実験なども紹介されていて、ここでドードーが共生出来ていたら、と夢想する作者。でも、

結局、ドードーは記憶の方舟の乗客であり、その代わりはいない。

p.224

作者は、欠落した記録の中からドードーについて判明していることを丁寧に掘り起こし、堂々めぐりをしながら、少しずつ進んでいく。それは、たぶん、ドードーを通じて、生物全体の生命のつながりを認識し、生態系について考え続ける一つのよすがなのだろう。

川端裕人さんの本を読むのは『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(筑摩書房)に続いて2冊目。(感想ここ
全ての事象を網羅的に知ることは出来ないが、よい紹介者を得たテーマは長く人の知識欲を喚起してくれることになる。他の本も読んでみたいと思う。


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