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毎日読書メモ(16)『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)

宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)が、今年上半期のベストセラー1位になったのだそうだ(日販、2020年11月24日~2021年5月21日の集計。全集、文庫、コミックを除く)。小説が上半期ベストセラーで総合首位となるのは2013年の村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』以来、8年ぶりだそうだ。あれれ、又吉直樹『火花』(2015年3月刊行)は1位にはなっていないのか。順位は相対的なものだから、引き合いに出すのは難しいね。
(調べてみたら、2015年上半期ベストセラー1位は『フランス人は10着しか服を持たない』だった。部数は『推し、燃ゆ』より『火花』の方が多いんだけど)

昨年来の巣籠り生活で、推しを推すことで、精神的な安定を得たり、自分を高める原動力にしたりした人がそれなりにいて、「推す」という行為は、市民権を得るようになった。
いや、誰だって、何かを推しているよね。わたしだったら、好きな作家の本は新刊で全部買って読むとか、好きなものをお店で見かけたら迷いなく買うし。或いは好きなバンドとか歌手の曲は歌詞見ないでも全部歌えるくらいリピートして聴くとか。別にコンテンポラリーなものでなくても、全世界のフェルメール全点見るとか(まぁフェルメール以外の画家についてはかなり難しいことだし、勿論フェルメールですらかなり難しいが)、ベートーヴェンのピアノソナタを全曲弾くとか、推しかたは色々だと思う。
今、「コントが始まる」というドラマを見ているけれど、有村架純演じる中浜里穂子は、お笑いトリオ、マクベスのありとあらゆる情報を収集している。その姿を見ていると、推すってこういうことだよなぁ、としみじみ思う。

何かを好きになるのって、すごく大切なことで、それが生きる原動力になるんだと思う。人によってはそういう風に集中する対象が仕事だったりもするし、研究職の人とかを見ていると、好きというか、そのことについて突き詰めて考えられるのではないと、研究が進まないんだろうと思う。
推すことの対象と強度は人それぞれだけれど、推してこそ人生、と思う。
推すもののない人は、なんだか寂しいのでは?

推すことにバランスなんて不要だよ、と言いたい。
けれど、実際、『推し、燃ゆ』の主人公、あかりの言動を見ていると、その動機とか、行動とか何もかも腑に落ちるのに、そうでなくちゃ、と思うのに、それでも、生きる、生活する自分自身のバランスを喪う推し方は、危う過ぎる、と思わざるを得ない。推すことが自分自身から乖離してしまっている。彼女が抱える、学習障害と思しき問題が、生きづらさを助長しているが、おそらく推しがいなければ、彼女の問題はもっと深刻で救いがなかったのだと思う。

推しがファンを殴って炎上したところで物語は始まり、推しが引退して、情熱の行き場を探し求めるところで物語は終わる。
「推す」人生は、生涯、推す人生だ。
辛くても、苦しくても、きっと後悔しない。
きっと、強く、生きていける。

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