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待望の続編!!! 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(毎日読書メモ(520))

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)、2024年1月24日刊行、と聞き、書店に走って買って帰る。ぶれない成瀬に見合った、期待を裏切らない読後感。おかえり成瀬、ありがとう成瀬。

年明けてからなんだか忙しくて、昨年の読書の振り返りとかしていないのだが、昨年読んでああよかったなあ幸せだなぁ、という本を選ぶなら、津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)乗代雄介『それは誠』(新潮社)、そして宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)だったと思う。それぞれによくて、それぞれのよさが今思い返してもじわじわと幸せな本たちなので、ベストワンは選ばない。どれも1位。

その中でも、大声で友達に勧めたくなるのが『成瀬は天下を取りにいく』だった。滋賀県大津市に生まれ育ち、幼児期から異常なまでのクールさと、やってみたいと思ったことを実現するために、どう行動するかをいつもいつも考えている成瀬あかり。可愛げがなく、表裏のなさが、逆にとっつきにくく、全然人気者ではないが、そういう好悪を超越し、自分の道をいく成瀬。同じマンションに住み、生まれたときから成瀬の観察者として生きてきた島崎みゆきの視点から、成瀬の日々が描かれていた。
成瀬はエイリアン過ぎて、一人称の成瀬はあらわれない(今作でも)。他者から見た成瀬の、他の人には想像もつかない、でも、本人にとっては何も無理のない行動の数々に、もう慣れたつもりの読者も一エピソードごとにあっと驚く。
2020年、コロナ下で、部活などが出来なくなって、閉店の決まった西武百貨店大津店に毎日通い、そこで毎日ロケをしているローカルテレビの番組に閉店まで毎日映り込みに行くところから始まった成瀬の冒険、当時中2だった成瀬はその後、名門県立膳所ぜぜ高校に進学し、かるた班でも活躍。今作の成瀬は、大学受験をして、大学生になる。
途中で、敦賀から北陸新幹線に乗るシーンが出てきて、えっ、と思って、年表を書いてみる。2020年の夏に中2だったんだから2022年に膳所高校入学、大学入学は2025年か! なんと、近未来小説だった!
本の表紙の成瀬(ざしきわらし画)は、「びわ湖大津観光大使」のたすきをかけ、白いスーツを着ている。愛されキャラとは言い難い成瀬が観光大使?

前作『成瀬は天下を取りにいく』では、スピンオフ的に、成瀬が直接出てこないエピソードもあったが、今作はすべて成瀬を取り巻く人たちが自ら成瀬に巻き込まれていく物語。
(この先相当ネタバレ)

「ときめきっ子タイム」は小学校の総合学習の時間に、地元の人を調べる課題で、成瀬と島崎の漫才コンビ「ゼゼカラ」を調べる、成瀬に心酔する小学生の物語(成瀬高3)。
「成瀬慶彦の憂鬱」は成瀬の父と、成瀬大学受験のあっと驚くエピソード。高知からヒッチハイクで京大受験に来たユーチューバー男子を拾って帰る、謎展開。
「やめたいクレーマー」は、成瀬がバイトする地元スーパーに通うクレーマー主婦とのエピソード。クレーマーの夫がいい味出してる。
「コンビーフはうまい」はびわ湖大津観光大使(2人選ばれる)で成瀬の相方となった、祖母・母から3代続けて大使に選ばれたサラブレッド女子大生の、栄光と鬱屈の物語。コンビーフはうまい。
「探さないでください」は、大晦日にスマホを持たずに家出した成瀬を、ここまでに出てきた成瀬の取り巻きピープルが捜索する、大冒険。伏線回収の嵐が小気味よい。

読み終わってしまうのが勿体ない。もっと成瀬のことを知りたい。
小学校時代の成瀬の将来の夢は「二百歳まで生きる」だった。それを読んでからずっと、二百歳まで生きるとはどういうことかって考え続けているわたし。QOLを下げないで二百歳まで生きるためには何をしたらいいんだろう。
二百歳まで生きるなら、更に未来小説で、30歳の成瀬を、50歳の成瀬を、100歳の成瀬を、200歳の成瀬を書けるってことだよね。
それを楽しみに待つことで少なくとも150歳位の成瀬のエピソードまでは、わたしも読めるってことではないだろうかと。

「ときめきっ子タイム」の中で、小学生にインタビューを受けた成瀬の答えが胸に染みいる。

「成瀬さんは将来何になるんですか?」
(中略)
「先のことはわからないからなんとも言えないが…...。何になるかより、何をやるかの方が大事だと思っている」
何になるかより、何をやるか。わかるようなわからないような言葉だけど、成瀬さんが言うとかっこよく感じる。

p.26

成瀬はぶれない。成瀬の突飛な行動の向こうにはいつも、「佳く生きる」というテーゼがある。
佳く生きる。健康に年をとる。納得のいく人生を送ったと自分で実感できるように日々を送る。
その大切さを、成瀬が教えてくれる。ありがとう。

前作で帯に推薦分を書いていた人の話を書いたので今回も書いておこう。
新川帆立、佐久間宣行、西川貴教(成瀬はゼゼカラ、僕はヤスカラ!、だそうです)。

そして本日、2024年本屋大賞ノミネート作品が発表されていたが、その中に『成瀬は天下を取りにいく』が入っている。頑張れ成瀬!!


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