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毎日読書メモ(255)『活版印刷三日月堂 空色の冊子』(ほしおさなえ)

ほしおさなえ『活版印刷三日月堂 空色の冊子』(ポプラ社文庫)、全4冊16エピソードで完了した活版印刷三日月堂シリーズを補完する番外編。これまで1冊に4つのエピソードだったのが、もっと細かい7つのエピソードで、これまでに出てきた登場人物の、もっと細かい物語を付け加えている。「我らの西部劇」の作者の片山、月子の父修平と母カナコの思い出、弓子の祖父母、カナコの大学時代の友人、三日月堂と取引のあった和紙店(新しい登場人物)、三日月堂閉店目前の祖父の物語。そして最後にもう一人全くの新しい登場人物として、カナコの大学時代の友人で演劇をしている女性の物語。一つずつ、時制が違って、弓子とその家族をめぐる、さまざまな時代のエピソードが、かゆいところに手が届くように、活版印刷をめぐる物質の物語を再現する。ここまで丁寧に、登場人物たちの背景を語る必要があるのかな、と思ってしまうくらいに、ここまでに出てきた人たちの抱える物語が解説されている感じ。そして、初版本に挿入された「届かない手紙」の一節の活版印刷版のページで、読者に、活版印刷がどんなものかも見せてくれる。ぎゅっと、裏写りするくらい強く文字を押すことが活版印刷ではない。表裏両ページに美しく文字を並べてこその活版印刷。各エピソードの表紙ページでも、三日月堂の便箋や星座早見表など、これまでの物語で出てきたアイテムの写真が用いられている。
どの物語も心温まるものだったが、ここまで、これまでの物語を補完する必要があったのかな、という気持ちも少々。月子さんが活版印刷所を残したい、と思った気持ちは、番外編でここまで丁寧に描かなくても、読者には伝わっていたと思ったのだが、書けばそれなりに納得がいくこともまた現実。
印刷、という工業技術のひとつの側面が、ある意味滅びゆきつつある寂しさが、丁寧に描き込まれたことで、よりはっきりしたことも事実ではあった。この時代に活版印刷を選択できた人たちの幸せを思う。
これまでの感想 活版印刷三日月堂 雲の日記帳 活版印刷三日月堂 庭のアルバム 活版印刷三日月堂 海からの手紙 活版印刷三日月堂 星たちの栞

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