毎日読書メモ(238)『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』(ほしおさなえ)
ほしおさなえ『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』(ポプラ文庫)、とうとう三日月堂シリーズ最終巻(厳密には番外編が2冊あるので、三日月堂シリーズは全6巻なのだが、本筋はこの「雲の日記帳」で完結)。
大団円。色々な苦しみや悲しみを抱えているけれど、みんなが前を向いてより良い方向へ進みながら、物語は一旦終わる(勿論それはただの途中でしかないのだけれど)。
三日月堂復活のきっかけとなった、物語第1話の主人公、配送業のハルさんようやく再登場。絶対物語の途中でも、弓子さんの手伝いとかしていたんだろうと思うけれど、全く言及されず、最後に来て再度物語の推進役となる。逆に結構ちょこちょこ出てきていたので、弓子さんのことが好きなのかしらん、と思っていたデザイナーの金子くんは、あまんきみこ『車のいろは空のいろ』の朗読会をやった、図書館司書の小穂さんと付き合っているらしい。これまでの登場人物が、少しずつ顔を出して、総集編的。そんな中、この巻で初登場した、ゼミでメディアを研究している大学生たちの雑誌作りと、その雑誌の展示場となる古書店の店主の物語がずっしりと存在感を持ち、三日月堂の新たな未来への足掛かりを作る。
きれいごとで済まないことは誰の人生にも色々あって、そんな、ひと時、活版印刷に触れたからといって解決できる問題ばかりではない。三日月堂という印刷所が、技術者がいなくなっている現状の中、どうやって未来へ活路を見出すか、その答えも簡単には出ない。でも、出てくる人たちの善意と希望が読んでいるわたしたちの心を温める。苦しみ続けた人を救済するよすがとなる。きれいごとに見えても、それが読んでいるわたしたちが前を向こうと思う気持ちを高めてくれるから、この物語は多くの支持を集め、大切にされるのだろう。
元々は、あまんきみこ『車のいろは空のいろ』を再読したことをきっかけに手に取った本だったが、活版印刷という、これまであまり意識してこなかった、でも自分が子どもの頃の本の多くがそれによって印刷されてきた手段が、多くの物語をつなぐかすがいとなっていることを知ることが出来た。幸せな読書だった(と完結しちゃったように書いているが、これから番外編も読む)。
過去の記録
活版印刷三日月堂 星たちの栞
活版印刷三日月堂 海からの手紙
活版印刷三日月堂 庭のアルバム
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