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『ドミノ』から『ドミノin上海』へ。物語が5年たつ間にわたしたちは19歳位年を取った(恩田陸・角川書店)

昔読んで、手に汗握る面白さでページを繰る手が止まらなかった恩田陸『ドミノ』(角川書店)の続編、『ドミノin上海』が出た。いざ、読もうとして、前作は、東京駅が舞台だったことしか思い出せない、脆弱なわたしの記憶力。舞台が上海に移っているので、当然新しい登場人物も多いのだが、何名ものキャラが海を渡り、上海にやってきているが、一人として覚えていないのってどうよ? 悩みつつ、前作を読んでいる暇はなかったので、とりあえず『ドミノin上海』を大笑いしながら読み、その後『ドミノ』を読み返す。何年前に読んだかなんて覚えていなかったが、単行本の奥付を見て驚く。雑誌連載が2000年~2001年で、2001年に単行本が出ている。いつの間に19年もたってしまったのだろう。筑波から上京した吾妻俊策が東京駅の動輪の広場にたどり着けず、道を聞いた人に人が待ち合わせする場所、と問うて銀の鈴に連れていかれてしまうのだが、銀の鈴も、動輪の広場も、今と場所が違う! 彼は高速バスで東京まで来たけれど、それはまだつくばエクスプレスが開業していなかったからだ。大丸は東京駅八重洲口で北口から南口までずっと連なっていたが、今の大丸は北口出たところにコンパクトに建っている。そして改札に通すのはイオカード。イオカード...名前さえ忘れていた。オレンジカードは今でもたまに昔のストックを券売機で使うことがあるが、イオカードも、今でも券売機では使えるらしい(2006年2月で、自動改札をイオカードで通ることは出来なくなったようだ)。2000年。既に携帯電話の普及率はかなり上がっていたが、それでも公衆電話を利用する人も多かった(玲菜のママが東京駅の公衆電話で長電話している)。初代iPhoneの発売が2007年ということで、スマホはまだまだ世の中に存在するとはいえなかった時代。わたしのフィーチャーフォンも、FOMAではなかった。

最初に『ドミノ』読んだときは、風呂敷がどんどんどんどん広がり、これを残りページでどうやって畳むのだろう、と不安になっていたら一気に収束しちゃったよ、という印象があったのだけ覚えていたのだが、今回読み返してみたら、そこまであっけなくもなく、きちんと伏線を拾ってけりを付けた物語だったな、と、印象が変わった。当時の恩田陸は割と広げ過ぎた風呂敷をそんなに乱暴に畳んでどうするよ、という印象があったのだが(『ユージニア』とか)、読み返してみるもんだね。現場の後片付けはどうするんかーい、という突っ込みは残しつつ、登場人物たちはきちんと落ち着くべきところに落ち着いていた。

で、戻って、というか逆だよ、5年が過ぎて上海。映画監督フィリップ・クレイヴンはB級ホラー映画の大家として、東京に続き上海に登場。東京で災難に遭ったペットのダリオは上海ではもっと大変なことに。そして人間以外のキャラとしては、圧倒的な存在感を放つパンダの厳厳。吉村昭『破獄』のようなスリリングな知能戦、それを受けて立つ飼育員魏英徳と捜索犬燦燦の執念にも感銘を受けるというか笑う。関東生命のOLたちもなんだか勘違いした感じのままお元気そうだし、ぴざーやの暴走族も上海でまたマッポに目をつけられながら元気にやっている。

今回も、色々な登場人物が、色々な思惑で現れて、違う目的を持って一点に集まってくる。焦点となる「蝙蝠」は目くらまし用のコピーもあり、読みながら結局蝙蝠は今どこに?、とくらくらしてくるのは、元祖『ドミノ』の「どらや」の紙袋と似た構造?

そして、蝙蝠の行方とは別筋で、厳厳の結末が予想外の伏線で本当に本当に笑えた。すごかった。アナザーストーリーは出来るのか。

『ドミノ』や『ドミノin上海』を映画化したらどうなるかな、不完全燃焼になっちゃうかな。大学のミステリーサークルの部長決め、とかは絵になりにくいかな。上海の悪党たちの描き分けも難しいか。

どの本を読んだときにも言っている気がするが、恩田陸を『蜜蜂と遠雷』だけの作者と思うなよ、という、これも一つの見本。『夜のピクニック』で本屋大賞とったときも、良作だがこれだけが恩田陸じゃない、と思ったものだが、向き不向きはあっても、色んな入り口と色んな出口があるのが恩田陸。一緒に時代を併走出来て、本当に幸せだ。

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