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桐野夏生『デンジャラス』(中央公論新社)

2018年6月の読書記録。

桐野夏生『デンジャラス』(中央公論新社)読んだ。谷崎潤一郎と三人目の妻松子、その妹重子(『細雪』の雪子のモデル)、松子の息子の嫁千萬子、の物語。重子の視点から、兄と姉の夫婦の愛情の揺るぎなさ、自分の薄幸さ、兄の寵愛が義理の息子の嫁に移っていく焦燥感を描いていて、これは小説だからすべてがすべて事実ではないだろうけれど、書くことの業、書かれることの業が執拗に追求されていて、週末まで読んでいた島尾敏雄・ミホ夫妻の伝記『狂うひと』(梯久美子/新潮社)に通じる空恐ろしさがあった。多分意識的にであろうが、谷崎のキャラが立っていない(松子のキャラも)ので、語り手重子の脳内で構築された価値観が、繰り返し繰り返し主張される。大文学者の周囲で、それぞれに自分の世界を作り上げ、展開しようとする人たち。長期的スパンで、移ろわない人の心はないよ、というのがわたしの感想。構築した王国の中で、自分にかしずく女たちを順々に小説にしていき、千萬子への手紙、千萬子からの手紙をあえて目につくところに置いたりする谷崎の様子は、妻の目の触れる場所に日記を置いていた島尾敏雄を彷彿とさせる。
書くとはげにすさまじきことかな。

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