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【ExperienceDay 2021 開催レポート】あらゆる顧客接点と組織を、顧客中心にする。体験づくりにおけるデザイン / デザイナーの力

※本セッションのアーカイブ視聴はコチラからどうぞ

昨今“デザイン”という言葉の意味が多様化し、プロダクトデザインのような目に見えるものだけではなく、コミュニティや社会といった目に見えないものもデザインの対象になってきています。デザインの方法論を経営戦略に取り入れたり、デザイン組織を新設したりする企業も増え、デザイナーの需要が高まっているといわれます。

デザイナーとして活躍する3人のゲストを迎えた本セッションでは、デザインを取り巻く現状に対して感じること、顧客視点のものづくりを行なううえで重要なポイントや、良いパフォーマンスを発揮するためのチームのあり方について議論しました。

“デザイン”の定義が広くなるなか、デザイナーはどのように変化してきたか

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岡 昌樹氏(以下、敬称略):
モデレーターの岡と申します。CX/UXストラテジストとして、さまざまな企業のお手伝いをしています。本セッションでは、あらゆるものづくりに携わる人たちにとって、今日からやってみようと思える学びがひとつでもあればと思います。

瀧 知惠美氏(以下、敬称略):
MIMIGURIの瀧です。エクスペリエンスデザイナーとして、自社メディア「CULTIBASE(カルティベース)」のサービスデザインを担当するほか、いろいろな会社の事業開発や組織開発のお手伝いをしています。もともと大学で情報デザインを学んでデザイナーになり、社会人になってからも大学院で研究をして、デザインの実践と研究を行き来しながら、それらを一体のものとして体現することを目指して活動しています。

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今回のテーマがCXとEXということで、CXの観点では、「CULTIBASE(カルティベース)」で顧客体験を考えながらサービスデザインをしています。EXの観点では、サービスをつくるうえで、顧客体験はもちろんつくり手の体験も大事にしながら実践をしてきました。そのなかで、大学院ではどうしたらより良いチームづくりができるのかを研究していました。

金子 剛氏(以下、敬称略):
600の金子です。ヤフーやサイバーエージェントで経験を積んだのち、いまはWebを飛び出してハードウェアの世界でものづくりをしています。

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600では体験をつくることを開発と捉え、エクスペリエンスユニットという名前で開発チームを組んでいます。エンプロイーエクスペリエンス、ユーザーエクスペリエンス、パートナーエクスペリエンスの3つのチームがあり、私はそのなかでユーザーエクスペリエンスを担当しています。

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私はもともと人事まわりを得意としていたデザイナーで、良いものづくりは組織からしか生まれないと思っています。そこで、ユーザー・組織・プロダクトの3つを軸にしてものづくりができないか考えながら実践をしています。

岡:
ここ数年、“デザイン”という言葉の意味合いが広くなっています。「デザイン経営」という言葉があるように、企業の経営においてデザインが関わりはじめたり、大企業でデザイン組織を新設して発信をしはじめたりという背景もあります。そういったなかで、デザイナーの需要がさらに高まっていると言われています。そこでまずは、ここ10年のデザイナーの変化についてお話をしていきたいと思います。

瀧:
この図は、デザインの対象とデザインする主体が時代とともにどのように変化してきたのかを表したものです。一般的に“デザイン”というと見た目の形や色のことと思われる場合が多いですが、プロダクトデザインはまさに目に見える形があるデザインです。

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プロダクトデザインは、デザインの対象のひとつとしてわかりやすいのですが、その後コンピュータの登場とともに人とコンピュータの関わり合いという問題にデザイナーが取り組むようになり、目に見えるかたちのないものにかたちを与えていく、人とコンピュータのインタラクションをデザインする情報デザイン分野が生まれてきました。Webやソフトウェアのデザインがここにあたります。

そこからさらにインターネットの普及とともに、人と人の関わり合いがネットワークでつながるようになると、新たな人々の活動を生み出すサービスのデザインにまでデザインの対象は広がります。さらに、コミュニティや社会そのものをどうかたちづくるかというところにも、デザインの対象が広がってきているといえます。

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このデザインの対象の移り変わりに自分の活動をあてはめてみると、社会人ではじめてデザイナーになって、最初はUIデザインが多かったのですが、そこからサービスそのものがどうあるべきかを考えるところから関わるようになり、UXデザインをやるようになりました。

さらには、組織内でものづくりの仕方をどのように浸透させたらいいかという部分にも取り組むようになり、デザインの対象が、組織というある種の社会そのものに広がってきていると解釈しています。

金子:
私はプロダクトを通して社会に価値を届けることをずっとやってきましたが、昔はよく「君はデザイナーじゃないよ」と言われました。グラフィックを勉強したわけではなく、どちらかというとエンジニア寄りのキャリアなんですね。

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デザイナーの変化というと、企業におけるジョブがどんどん変わってきたことが背景にあると思います。ものづくりが推進されやすい状況にはなっているものの、実はデザインの本質はこの10年ではそれほど変わっていないのではないでしょうか。

デザインの考え方が学問として体系化。若手のデザイナーを見て感じる違いとは?

岡:
お二人は、いまの新卒ぐらいの若手のデザイナーと自分たちとの違いを感じることはありますか?

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金子:
UXデザインを勉強しているのがすごいですよね。僕は勉強したことがないので。

岡:
昔から学問としてあったとしても、UXデザインやサービスデザインの考え方が普及してきたことで、コンテンツを学びやすくなっていますよね。

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瀧:
私は学生時代にそういうものを学んでいましたが、当時はあまり体系化されていなくて、やりながら体感として身につけていきました。いま大学で非常勤講師をしていて学生とふれあう機会がありますが、学生時代からUXデザインやフレームワークの知識を使いながらデザインをしているところに違いを感じます。

とはいえ、学びやすい環境ができている反面、それも良し悪しだなと。フレームワークに頼り切ってしまうと、応用がきかない部分では苦労もあると思います。

岡:
デザイン思考が日本で流行りはじめたのは4〜5年ですよね。ただ、フレームワークはあくまで道具で、道具があればうまくデザインできるかといえば、そうではない。フレームワークの落とし穴のようなものは感じますよね。

顧客視点を持ってデザインをするために大切なのは、自分がユーザーになりきること

岡:
続いてのテーマは、「顧客視点を持ってデザインする」とは結局どういうことなのか。お二人はUIデザインだけではなく、プロダクトやサービスそのものにも主体的に関わりを持っていて、ビジネスの視点も兼ね備えていますよね。そういった両方の観点からお話をうかがえますか?

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瀧:
私自身、使い手の視点に立ってデザインすることを大事にしてきましたが、自分自身が使い手になって体験してみて何が大事なのか、自分自身で体感を持って理解しようとする姿勢が必要だと思っています。

ユーザーのことを理解するために、ユーザーインタビューをする場合がありますよね。第三者的に見ることはもちろん大事ですが、一人称として自分がユーザーになって理解することも大事にしたいと思っています。

金子:
顧客視点って、何か成し遂げたいことがゴールにあるはずですよね。その成し遂げたいことに対して、結果的に顧客視点が必要だというのは理解できるんですが、何を成し遂げたいのかを考えずにただユーザー中心につくりたいと、ノーロジックで進めているケースも少なくないと思っています。

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ユーザー中心にものづくりをすること自体は賛成ですが、誰に何を届けたいか、届けたいと思っている人がわかったうえでユーザー中心と言っているのか気になりますね。

例えば私たちの会社は、マンションにお住まいの方に向けてものづくりをしています。でも、その人たちにとって何が価値なのか、その価値を提供してどんな幸せな暮らしを実現してほしいのか、まとまりきってないままユーザーの声を聞き出すのは間違っています。「何のためにものづくりをしているのか」という原点に立ち戻ったうえで顧客視点を使うのであれば、フレームワーク思考の落とし穴に陥らなくなる気がします。

顧客視点ができているチームとできていないチームとの違い

岡:
デザイン思考の最初のステップは「共感」ですよね。ただリサーチをして、共感せずにものづくりをしていくと、結局は表層的な課題を解決しているに過ぎないのかなと。深い共感があるからこそ、そこに強い意志が生まれると思います。

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そういったなかでユーザーを中心に考えることは、僕にとってはエネルギーをもらうイメージに近いです。ユーザーを見て、そこに社会の負や構造的な不利益を被ってしまう構造があると、それがエネルギーになるというか。僕にとっての顧客志向は、ユーザーの欲を“泥棒”して、そのエネルギーをデザインする力に変えていく感覚があります。

いろいろなところで顧客視点が言われるなかで、顧客視点ができているチームとできていないチームにはどんな違いがあるのでしょうか。

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瀧:
顧客視点における“顧客”が誰なのか、チームで共通認識ができているかどうかだと思います。顧客像がふわっとしていてチーム内でバラバラだと、話が噛み合わなくなります。はっきりとその顧客像が見えていれば、みんなでひとつの方向に動けるのではないでしょうか。

金子:
顧客像いわゆるペルソナがひとり歩きする原因のひとつは、足を使っていないことだと思います。ワークショップから入りがちで、机上だけで共感する人が多い気がします。

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チームビルディングにおいては、「共感」の部分を切り出すともっと泥臭くあるべきだと思います。私がWebから離れてみてわかったのは、意外と足を使っていないこと。数回のユーザーインタビューでわかったつもりになっていて、本当は課題を持っている人のところに行って泊まり込みで何かをするぐらいの行動が必要なんじゃないかと。先ほど岡さんから“泥棒”の話がありましたが、そのくらいの感覚で、力強く奪いに行かなければいけないものなのかもしれません。それができているチームは、本当に顧客視点だと言えるのではないでしょうか。

顧客中心のデザインをチームでつくるために「TX」はどうあるべきか

岡:
お二人とも、顧客中心のデザインを実行するためにチームに着目していて、良いチームが良いプロダクトを生み出すと考えているんですね。そこで、「TX(Team Experience)」という観点から、チームのエクスペリエンスを実行していくために何が必要か、そもそもチームの人たちが一緒にデザインをしていくために大事なことは何かについてお話しできればと思います。

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金子:
根本的には、自分ひとりでは出せない成果を出すために、誰かと一緒にものづくりをしなければならないというところから始まっています。そもそも分業というのは、一人ではつくりあげられなかった高度なプロダクトをつくるために、それぞれ専門家に分けて生産することで生産力を上げていこうという考え方ですよね。

今はそこから一歩進んでいて、お互いの強みを足し算ではなく掛け算していく関係性が求められていると思います。自分たちが何のためにものづくりをしているのか、チームでひとつのゴールを共有したうえで、みんなの知識を掛け合わせながらものづくりができるのが理想ですよね。

瀧:
基本的な考え方は金子さんと同じで、ひとりでできることに限界があるから、自分にはないものを持っている人とチームになって一緒にやったほうが良いものをつくれるというスタンスです。いろいろな専門性を持った人がチームになった時、どうやってそれぞれの強みを生かして相乗効果を出せるかが重要だと思います。

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新規事業をはじめる時、いろいろな職種を集めてチームをつくることがありますが、専門性や価値観が違うとどうしても考えが合わず、うまく進まないこともありますよね。大学院でチームづくりの研究をして気づいたのは、良いチームにするにはお互いの考え方や価値観を知る場が大切だということです。

私は大学院で、チームにおける振り返りの対話の場づくりを研究の題材として、定期的に振り返りをするなかで、単純に良かったことやうまくいかなかったことを言い合うだけではなく、何かが起こった時に自分が何を考えているのかを出し合うことで、お互いに理解を深められることに気づいたんです。定期的にチーム内で振り返りをしながら対話の場を設けることで、だんだん良いチームになっていくのが理想だと思います。

組織やチームにおいて発揮される、デザイナーが持つ実践知とは?

岡:
いま“デザイナー”と呼ばれる人が増えてきているなかで、デザイナーとのコミュニケーションに困っている人もいると思います。次に、組織やチームにおけるデザイナーの役割や、デザイナーに期待してほしいことについて、お二人の考えを教えていただけますか?

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金子:
そもそもデザイナーの定義が難しくて、職能としてのデザイナーはこれからなくなっていくんじゃないかと思っています。もともとデザイナーと呼ばれている人の役割が分化していくのは全然良くて、それは専門スキルとして尊ぶべきです。

ただ、デザイン思考というのは“デザイナーの思考を使って課題を解決しよう”という話で、そこに関わる人が広義のデザイナーだとしたら、全員が顧客視点を持って自分がデザイナーであることを自覚して、ものづくりにあたってほしいと思っています。

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今までデザイナーと呼ばれていたのが狭義のデザイナーならば、すでに持っているスキルは自信を持ちつつ、無理やり役割を広げる必要はないと思っています。

瀧:
“デザイナーは顧客視点で体験を捉えられる”と言われることがありますが、それがなぜなのかを整理してみました。

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デザイナーにもいろいろなタイプがいて、デザインの教育を受けてデザイナーになった人もいれば、デザインを実践するなかで身につけた人もいます。デザインの基礎にはスケッチやデッサンがあって、そこで身につけたものはデザイナーの思考の原点にあるんじゃないかと思っています。

スケッチやデッサンをする時、目の前にある対象を決められたキャンバスのなかにどう描くかを考えます。その空間全体を捉えるステップがある一方で、細部を見ながら描写していくステップもあります。全体を俯瞰しながら細部を詳細に描く、その両方を行き来しながらやっているんですね。

全体を見る力と細部を見る力、それらを行き来する力を磨いているという点は、デザイナーが持っている実践知のひとつだと思います。だから、サービスをデザインする時にも、このプロセスが活かされているのではないでしょうか。

良い顧客体験を生むポイントは、ものづくりとチームづくりも両軸で進めること

岡:
最後に、CXとEXをつなぐことに対してどのように感じていますか?

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瀧:
私は顧客体験とチーム体験を一体のものとして捉えているので、個人的には分けて考えないほうがいいと思っています。良い顧客体験をつくるためには良いチームをつくらなければならないし、良いチームで取り組んでいけばそこから良いものが生まれてくる。取り組む順番も、どちらが先か決まっているものではないと思います。

顧客視点を軸にしながら、自分たちがどんなユーザーに対してサービスを提供するのかを明確にしたうえで、目指すべきところに向かってどういうビジョンでやっていくのか、軸となる部分をチームでしっかり対話をしながら取り組むことが大切かなと。良い顧客体験を考えながら良いチームづくりもして、それぞれを行き来しながら両軸で進めていくのが理想です。

岡:
瀧さんにとって良いチームとは、どんなチームでしょうか?

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瀧:
チーム内で学び合いが起きることは、大事なポイントだと感じます。お互いが持っている暗黙知を、うまく言語化できなくてもまず場に出してみることが大事です。そうすることで「こういう考え方があるのか」という学び合いが起きて、「それならこうしようか」とコラボレーションしていけるチームが良いチームだと思います。

金子:
例えば、私が社長から「CXとEXをつないでくれないか」と言われたら、まず本当につながっていないのか、何がつながっていないのか、リサーチをします。抽象度の高い課題に対して、“銀の弾丸”のようなものを探しがちですが、つながっていない理由は会社によって千差万別です。つながっていないと感じるのならば、その課題の解像度を上げなければいけないと思います。

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具体的な対処法としては、例えば、CXを担当している人とEXを担当している人を兼務させてしまうのもひとつの解決策ではないでしょうか。お互いの橋渡しをする役割をつくって、そこにコストをかける経営的な判断はありかもしれません。

チーム内外でのコミュニケーションが良いものづくりにつながる

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瀧:
顧客視点の重要性が言われるようになって、いろいろな手法やフレームワークがあってもうまくいかないのがなぜかというと、組織やチームのなかでどうやって顧客視点のものづくりを推進するか、その回し方が難しいからだと思います。やり方はいろいろあっても、実践知がまだあまりたまっていないので、組織やチームとして顧客視点をどう捉えて実践するか、自分たちに合ったやり方を考える必要があります。そして同時にチームづくりも考えないと、顧客視点のものづくりはなかなかうまくいかないと思っています。

金子:
顧客視点でものづくりをしようと思った時、一緒に働いている人が何を考えてどうやってものづくりをしているのかを知ることは大切です。フレームワークからはじめてしまいがちですが、その事業をそもそも何のためにやっているのか理解していないケースもあります。その状態で顧客視点を導入すると間違った方向に進んでしまうので、ユーザーインタビューの前にエンプロイーインタビューを先にやったほうがいい。社長と距離が近ければ、どんな人を助けたくてこの事業をはじめたのか、どんな世界を目指しているのか、聞いてみてはどうでしょうか。まずは社員のインサイトを知って、もし現状とのズレがあるならば、あるべき姿に向かうためにどうしたらいいかをチームで話してみるべきだと思います。

岡:
今日からできることのひとつは、足を使うこと。ユーザーに対しても組織に対しても、知らないことにアプローチしていく姿勢が大切です。また、デザイナーは全体を俯瞰して捉えつつ詳細を描くことが得意で、それが顧客視点のものづくりに活かせる実践知であると。そして、お互いに話し合う機会を設けることが良いチームを生み、結果的に顧客視点の良いものづくりにつながるということですね。本日はありがとうございました。


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