見出し画像

ハーバード大教授の最終講義: あなたらしい人生の成功について考える余白をもとう

イノベーションのジレンマ」で有名なHBS(ハーバード・ビジネス・スクール)のクレイトン・クリステンセン教授が学生達に送った最終講義である "HOW WILL YOU MEASURE YOUR LIFE?"(どうやって人生の成功を測るか?)について、HBRに掲載された論文を参考に紹介したいと思います。

実は、クレイトン教授は最終講義の数年前、2007年に心臓発作、そして2年後にガン、2010年には脳卒中で倒れています。経営戦略の専門家が、抗がん剤と戦い髪が抜け落ちた体に鞭打ち、最後の授業で何を伝えたかったのでしょうか。TEDで本人がプレゼンしている動画を貼っておきます。

私がこの記事を知ったのは、フィンランドのアールト大学に留学していた時です。1番最初の授業の1番最初の課題図書がこちらでした。今、振り返るとどうしてこの内容が最初に持ってきていたのか腑に落ちて理解できます。学生に向けての講義でしたが、私たちにも大切なことを考えさせてくれる良い記事だと思い、自戒の意味も込めて共有します。

講義の起点:世界一優秀なハーバード学生の問題点

世界一優秀とも言えるハーバードの学生達が「キャリア」に対してトッププライオリティ(最優先)をもってきており、「人生」そのものを最優先に持ってきていないことに課題感を抱いていたそうです。

ジェフリー・スキリング(米エンロンの元CEO)と、クリステンセン教授は同級生であり、エンロン事件と言われる有名な会計不正事件をおこしています。彼だけでなく、同級生の3名が監獄生活を経験し、それ以上に家庭での夫婦関係などが上手く行かず、決して幸せとはいえない人生を送っている人がたくさんいると述べています。

「どうして、優秀で将来を約束されていたピカピカの学生達が、社会に出てから道を踏み外してしまうのか?」という問題意識を持っていました。

そこで学生達に社会に出る前に、自分の人生の目的について深く考える最後のチャンスを与えたい、そんな思いで最終講義が行われました。

If they think that they’ll have more time and energy to reflect later, they’re nuts, because life only gets more demanding. (もし彼らが後から自分自身を振り返る時間とエネルギーがあると思っていたら、ナッツ=頭がおかしい奴だ。なぜなら、人生はただただ忙しくなるばかりだからだ。)

社会に出ると、時間とエネルギーをかけて人生について考える機会は減る一方です。だからこそ、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)にいる時は人生の意味について考えて欲しい、それが1番の財産だと伝えています。

優秀な学生の問題と問い

ハーバードの学生は概して強い「達成動機」を持っている。彼らに共通しているのは、昇進、昇給、ボーナスなど見返りが今すぐ得られるものには時間と労力を優先的に配分するが、すぐに見返りが得られないものには労力を惜しむ傾向があることだ。家族への投資は見返りの少ない投資と考えられ、時間、カネ、努力をかけずに済まそうとする傾向がある。これが積もり積もって私生活の破綻を呼び起こしているのではないか(ダイアモンドオンラインから一部抜粋)。

学生に向けて、経営戦略の理論を使って、次の3つの問いに答えを出す事を課題にしています。

問い1:
どうすれば、キャリアを通じて、幸せになれるのだろうか?

問い2:
どうすれば、パートナーや家族との関係がずっと続き、幸せの源泉になるのだろうか?

問い3:
どうすれば、監獄に入らずに済むのだろうか?

この問いに対して、個人個人が答えを出すためのヒントを送っています。

Create a Strategy for Your Life - 人生の戦略を創れ

人生の戦略を考えるときは「時間」と「エネルギー」がかかることを知ってくださいと語っています。

"Had I instead spent that hour each day learning the latest techniques for mastering the problems of autocorrelation in regression analysis, I would have badly misspent my life. That was a very challenging commitment to keep, because every hour I spent doing that. " 要約すると、「学生時代に毎晩1時間、人生の意味について考える時間をとっていた。この時間は正直苦痛だった。ただ、もしこの時間がなかったとしたら、間違った人生を歩んでいただろう。」

人生については色んな考え方があり、「今を生きる」という考え方が現代の流行りではありますが、クリステン教授は、人生の意味について考えることがなければ、尻すぼみの人生になるだろうと言っています。

その戦略とは具体的に何を指すのでしょうか。

Allocate Your Resources(リソースを配分しろ)

"Your decisions about allocating your personal time, energy, and talent ultimately shape your life’s strategy."

何にリソース=自由となる時間、エネルギー、才能を使うのかが戦略の第1歩だと語っています。価値の序列をはっきりさせることが必要がある。

キャリアというのは、分かりやすく、給料、論文を出す、昇進するなど指標があります。しかし、例えば、パートナーとの時間や子育てに投資をすることは、すぐに達成感をもたらしてくれるわけではありません。

だからこそ、大切にする優先順位を決めて、時間やお金、労力などのリソースを優先的に配分するよう説いています。

私なりの解釈でいくと、仕事、お金、家族、健康、恋愛、友人、など様々な要素が人生にはあり、その優先順位を「自分の幸せ基準」で選択することが大切だと理解します。

言われてみると、学生時代は優先順位をつけて、リソースを配分する必要はなく、時間が無限にあるような気がして、どれもこなすことができました。でも、働いたり、子育てをしたり、時間やエネルギーに限りを感じるようになると、この考え方の大切さを身に沁みて感じます。

Create a Culture(文化を創れ)

"Culture defines the priority given to different types of problems. It can be a powerful management tool. Ultimately, people don’t even think about whether their way of doing things yields success. They embrace priorities and follow procedures by instinct and assumption rather than by explicit decision."

文化というのは、明確な論理だったり、明らかに分かりやすい意思決定方法ではないけれど、人々が「直感」や「なんとなく」で優先順位ややり方を決める、その曖昧なものだと言っています。そして、この文化というのは日々意識しないながらも、意思決定の拠り所になっていると観察しており、文化を養成していくことこそが、人生の成功を左右する。すなわち、文化を創ることが人生の戦略だと語っています。

これは経営理論のなかでも、勝敗を分けるのは「組織であり人」という観察から生まれているものと推測します。

家族のなかにも文化があります。子供に「自信をもって難題に取り組める子」に育って欲しいと思うならば、家族の文化に取り入れる必要があります。そして、それはかなりの早い段階で、ゆっくりと少しずつ育まれていくもので、子供が小さい時から取り組む必要があるものです。

このように、クリステンセン教授のアドバイスは抽象的なものが多いですが気付きを与えてくれます。

Remember Importance of Humility (謙虚の大切さ)**

Once you’ve finished at Harvard Business School or any other top academic institution, the vast majority of people you’ll interact with on a day-to-day basis may not be smarter than you. And if your attitude is that only smarter people have something to teach you, your learning opportunities will be very limited. But if you have a humble eagerness to learn something from everybody, your learning opportunities will be unlimited.

若いうちは周りに自分よりも優秀な先輩がたくさんいるが、社会に出て実績を積んでいくと、必ずしも自分より優秀だという人がいなくなることがある。そんな時にもう学ぶことはないという横柄な態度でいると機会を逃す。大切なのは、全ての人から学ぶことがあるという謙虚な態度でいることだと言っています。

Choose the Right Yardstick(正しい指標を選べ)

"Don’t worry about the level of individual prominence you have achieved; worry about the individuals you have helped become better people. This is my final recommendation: Think about the metric by which your life will be judged, and make a resolution to live every day so that in the end, your life will be judged a success. " 「個人としてどれだけ凄いことを達成したのかについて心配するな。あなたが助けた人々がどれだけ良い方向に向かったかを心配しろ。最後のアドバイスとして:あなたの人生が成功だと判断される基準は何か考えてくれ。そして、その1番最後の成功に向かって生きる決定を毎日続けてくれ。」

最後のメッセージとして、クリステン教授が言いたかった1番の肝はここにあります。この講義はハーバードの学生向けということで、向上心が非常に強い人たちに向けて発信されていることもありますが、このように、凄いこと成し遂げてやるという発想から、人生での成功を「幸せ基準」で考え、その基準と照らし合わせて、行動しろと語っています。

最後にー北欧で学んだ「幸せ基準」と「余白」

1番のコアメッセージである「キャリアの成功」ではなく「幸せ基準」で、考えること、行動することは、実際のところ、案外難しいものではないでしょうか?

私が世界一幸福な国フィンランドに2年住んで感じた、フィンランドを幸福な国にたらしめているのは、まさにこの「幸せ基準」で人々が生きていることでした。「幸せ基準で生きているから、幸せになる。そんな当たり前なことでしょう!」と思われるかもしれません。

でも、その幸せというのは、誰かに押し付けられた幸せではなく、自分で見つけた、あるいは、自分で決めた幸せの基準なのです。フィンランドの教育は、幼少期から、自発的に考える機会を与え、私らしさを引き出すようなプログラムが組まれていました。

日本の教育はどうでしょうか。自分の頭で「幸せ基準」を考えられる人を育てるプログラムにはなっているのでしょうか。

社会人になってから、「人生の戦略」について考えるためには、教授が説くように、時間やエネルギー=「余白」が必要だと思っています。今、コロナで自宅待機をしている方も多いと思います。私も含めて、時間をとって内省をする期間にしてみてもいいのかもしれません(北欧フィンランドの余白

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

Photo at Silica Hotel - Blue Lagoon, Grindavík, Iceland

フォローやシェアいただけると嬉しいです。