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【創作小説】コクるときは 刻々と近づく⑦

最初からは、こちら⬇各回の最後につづきの貼り付けがしてあります。

前回こちら⬇

由奈は、せっせとお菓子を焼いていた。
翔くんにあげるお菓子である。
バレンタインのときには、まだ 告白しようとは考えていなかったから、チョコレート菓子は作ったり、用意はしていなかった。

今は、親友の綺羅と怜の後押しで、すっかり告白するように心持ちが決まってる。
そう、翔くんに告白して、綺羅と怜にも翔くんの友だちを紹介してもらうのだ。

中学生の友情は絶対的なもの。
モチベーションが違ってくる。


取り敢えず、クッキー……。
ホントなら男子が女子に贈るものであるが、そこは、細かいことは言わない。男の子へでも、クッキー。最近は女の子同士でもクッキー等々。自分にも。

チョコレート、シナモン、アーモンド、バターのクッキー……。
せっせ せっせと由奈は焼く。

クラスメイトには、綺羅のほうがお菓子作りは得意だと知られている。
が、由奈もじつはお菓子作りも得意だったりする。

せっせ せっせ……

名づけて「ごんぎつね作戦」。

翔くんの所属する放送部の扉のところに、毎日、毎日、お菓子の品々を置いてくる。
以前のシュークリーム事件のせいか、先生たちは、ここ暫くのあいだ学校にお菓子があっても、さりげなく知らんぷりしてる。
ホワイトデーが近いのもある。
放送部の扉にあったのは、明らかにお菓子である。
けど、あの児島先生でさえ、目に入らないふりをしている。
生徒と父兄のあの罰ノート事件への反撃が怖いのだ。
人に負い目は持つもんじゃない。

由奈は、毎日放送部の扉の前に、お菓子の品々を置いていた。

放送部では、
「この頃、なんか扉の前にお菓子が置いてあるな」
音響機械ミキサーの空くんは、言う。
「うん、そうだね」
翔くんは、そのお菓子を(ぱくっ)。
「おい、ヤメロよ! 毒入りかもよ!? 」
アナウンス係の昌磨くんが、翔くんを止める。
「大丈夫みたいだよ? 苦しくない」
「ほんとか? 」
その場に居た3人でばくばく食べる。

この3人も、放送部2年生3人組。仲良しこよし。
「……おい、翔。これ、作ったのは……」
翔くんも、腕を組んで考えた。
「うーん……」

次の日、翔くんは朝登校してきた綺羅に話しかけた。由奈の前で。
「綺羅ちゃん、放送部の前に毎日お菓子を置いているの、綺羅ちゃん? 」
綺羅、怜、由奈は、心のなかで、
(はあ……!? )

「ごんぎつね作戦」が、助けた王子様を他のお姫様の手柄にされそうな「人魚姫」のオチに怪しく、限りなく近づきつつあった……。


              つづく

©2023.10.22.山田えみこ


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