毎日なるべく楽しく過ごしたい田所さん 。13日目。

田所さんは毎日楽しくない。
田所さんには楽しいことが全くないわけじゃないけど、殆ど毎日楽しくない。出来れば毎日楽しく生きたいと思っている。これからずっと「明日こそ楽しくありますように」と願い続けなければいけないのか。田所さん大学2年生。彼女が楽しく生きられる方法はあるのか。そんな彼女の観察日記。13日目。

連休明けの夜。田所さんはファミレスにいる。
無限にドリンクバーを飲んでいる学生カップル。ぐずる子どもに一生懸命に唐揚げを食べさせようとしている母親。隣の席でオムライスを貪り食っているおじさんは、1カートン食べたんじゃないかと思うくらいタバコの臭いを漂わせている。
とりあえず、今、ここにいる人たちは、飲んだり食べたりを目的にしてるんだろうなぁ、田所さんはぼんやり思う。

目の前にいるのは友達だった人。大学の旧友達。テーブルには温くなったコーヒーと、氷の溶けたオレンジジュース。コーラとオレンジジュース混ぜたのやってみたいな、学生カップルが美味しそうに飲んでいるそれに憧れる。

旧友達は「相談に乗ってほしい」と誘ってきた。自分のことをそんな存在だと思ってくれてたことが嬉しくて、呑気にホイホイやって来てしまったことに後悔している。

旧友達は紙に図を書いている。あなたが使っている化粧品には、良くない成分が入っている。私は変えた途端に肌が綺麗になった。と、おでこにできたニキビを弄りながら熱弁を奮っている。「叶えたい願いはあるのか？」書き出すように指示をする。

そんな願いは無限にあるけど、コーラオレンジのミックスが飲みたいという願いすら叶えてくれない、あなたに教える願いはないのだ。田所さんは、隣のおじさんの凄い勢いで無くなっていくオムライスを見つめる。

私がおすすめして、あなたが会員になるでしょ？で、あなたが誰かにおすすめして、その誰かが会員になる。そうやっておすすめを広げていくの。広がっていけば私達の夢は叶うのよ。

友達なんかじゃなかった。旧友達が饒舌になればなるほど、田所さんは悲しくなっていく。彼女を助けようとする思いすら消えていく。

コーラオレンジが飲みたい。オムライスが食べたい。

田所さんは席を立つ。自分でなんとかするから。それだけ伝えて店を出る。旧友達は追って来なかった。

数百メートル離れたファミレスに走った。汗をかいた。ちょうどいい。