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世界一美しい!デンマークの刺繍Hedebo(ヘデボ刺繍)

Hedeboはデンマークの白糸刺繍で私が一番大好きな刺繍です。
まずデザインが洗練されていて、エレガント。
初期の頃のは素朴な中にも麻の光沢が美しく、本当に農民発祥の刺繍なの?貴族ではなくて?!と疑いたくなります。

日本ではヘデボーとかヒーダボーと呼ばれていますが、私が留学したデンマークの学校ではヘデボーと発音していたので、ヘデボー(ヘデボ)が正しい呼び方(読み方)だと思っています。

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地図のグリーンの部分が発祥の地。Hedeは湿原、boは生きる、という意味で、コペンハーゲン、ケーエ(Køge)、ロスキレ(Roskilde)の間にある地域の名前です。

18世紀〜19世紀にHedebo地方で暮らす農民の人たちが、自分たちで栽培し、紡いだリネンに刺繍の装飾を始めたのが起源と言われています。
婚姻用のドレス、幼児洗礼用のドレス、インテリアや寝具やタオルなどの生活用品などにHedeboをステッチしていました。

農民ではありますが、女性がおうちで針仕事ができるということは、男性に稼ぎがあり女性がお家に居られる環境、つまりお金があるということでもあるので、刺繍が一種のステータスになっていたようです。

家の中が刺繍で飾られているおうちはリッチの証ということで、ヘデボは室内用のインテリアが多く見られるのでしょう。

あと、日照時間が短いので、お部屋の中に白いものを飾ることで少しでも明るく見せるという役割もありました。

ヘデボはこういう大きな壁掛けみたいなものがたくさん見られます。

この地域は土壌がすごくよくて、農産物もたくさん取れたので、この地域の女の人はコペンハーゲンに乳母として出稼ぎにいくようになります。
乳母は使用人の中でも地位が高く、旅行などにも同行できたため、旅行に同行した刺繍を刺す乳母がヨーロッパのいろんな国で見てきた刺繍を自分たちのヘデボに取り入れたため、ヘデボは時代によってステッチが6回も変わります。

ヘデボ地方の乳母として出稼ぎにきていた女性が刺す刺繍が、コペンハーゲンの中産階級のマダムたちの間で人気となり、デンマーク全土に広まりました。

ドイツのドレスデンレースやイタリアのルネサンスの影響を受けたこの刺繍はもともとは産業ではなく、農民の人たちが自分たちのために刺していたものなので、他国に出回るのが遅く、スカンジナビア諸国以外での認知度は低かったようです。1862年のロンドン万博で世界的に注目され、パターンなどが出回るようになります。

ユキ・パリスさん著の「デンマークのホワイトワーク」という本の中に、
”愛らしいデザインが飛び交う小宇宙”という言葉があるのですが、まさに!!!小宇宙です。
ドイリー、かわいいです。



デザインは無限!

Hedeboの進化

Hedeboは、刺繍の中では珍しく、段階的に進化しています。
Hedeboは白糸刺繍の中でもすごく洗練されていて、カットワークはレーシーでエレガントだし、図案も素敵なものが多いのですが、初期の頃のHedeboは糸も太めてぼてっとしていて、すごく素朴です。
逆に後期のものは糸も細くて、繊細な美しさ。
王室に献上してもおかしくないくらいです。(あくまで自分調べです)

そして、カットワークのカットした部分のかがりも、ニードルレースも(びっくりすることに!)、ほとんどボタンホールステッチでできています。
見た目は難しいけれど、ステッチの種類が少ないので、意外と簡単です。

ここでHedeboの発展の様子を時系列化してみます。

1700年〜
幾何学模様のカウントワーク。サテンステッチで幾何学模様を刺す。イタリアのプントレアーレの影響を受けている。

1800年〜
ドロンワーク。図案は動物や植物。これもイタリア、ルネッサンスの影響を受けている。

1810年〜
カットワーク。図案は動物、人、植物。

1820年〜
Hvidsøm。カットワークのすぐ後に考案された。バロックっぽい蔓(つる)をまいた植物などの図案が多い。チェーンステッチやボタンホールステッチ、ドロンワークなど、ステッチを多用。

1840年〜
Baldyring(バルデュリング)。ニードルレース。イタリアのreticellaとの類似点が多く、ロココ様式を反映させている。

1850年〜Udklipshedebo(ウクイップヘデボ)。カットワーク。生地に穴をあけ、その中をかがって模様を作る。

Greve美術館のサイト中の説明を参考にしています。
参考リンク


芸術や文学、宗教などはルネサンスの影響を受けていますが、刺繍もご多分にもれず、ルネサンスの影響を受けています。
刺繍が芸術に含まれない事については、別記事で書こうと思います。

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イタリアっぽいヘデボ


まとめ

もうかれこれ10年前ですが、デンマークに留学したので、デンマークの冬の長さ、そして日照時間の少なさは、すごく印象的だったのでよく覚えています。
私が滞在していたのはユトランド半島の北の方ですが、平地なので雪はあまり降らず、ひたすらにしーーーんと寒く、朝9時すぎに明るくなったかと思ったら15時頃には夕暮れ、夏は白夜に近い感じでした。

ずいぶん前なので記憶があいまいなのですが、オーデンセにある野外博物館(たぶん)で見た18世紀頃の農民の生活の再現コーナーの展示を見て、こんなにも貧しい生活だったんだと驚いた記憶があります。
日中は農作業をして、夜な夜な、ろうそくの明かりで刺繍をしていたのでしょうか。

主食は雑穀で、家族複数人で1つのお皿にスプーンを入れて食べていました。
韓国ドラマで、一つの器やお鍋にみんながスプーンを突っ込んで食べているシーンを見ると、デンマークでの農民の生活の再現コーナーを思い出します。(余談)

デンマークだけでなく、北欧は農耕がメイン産業だった時代は、厳しい気候や農耕地として使える土地も少なくて国がすごく貧しかった。
だからこそ、華美な装飾より、機能性の追求、機能性を高めるためにデザインもシンプルな方に流れていったのかな、なんて思います。
もし温暖な気候で、みんながシエスタをするような環境だったら、「そぎ落とされたシンプルの中の美」みたいなデザインは生まれなかったでしょう。

デンマーク留学時代は、たくさんの友人が自宅に招待してくれました。田舎だったというのもあると思いますが、どの家も決して華美ではないけど、生活を楽しんでいると感じるようなインテリア、おうち時間を楽しむその姿勢に感激したものです。
キャンドルを灯しながら、お茶を飲みながら、編み物しながらおしゃべりをする。
まさに今、日本でも流行っている「ヒュゲ」ってやつです。

ずっと昔もおうちの中はHedeboのクロスなどで飾られてただろうし、結婚するときはお母さんが刺したHedeboのドレスを着たりしていたんですよね。
刺繍をする時間そのものも、すごく素敵だったはず。
家族やお友達とおしゃべりをしながら、チクチクしていたのでしょう。
デンマークの美しい広大な景色と美しい刺繍に囲まれた生活って豊かだし素敵だなぁと思います。


Hedeboが観れる場所

コペンハーゲンにあるGreve美術館にたくさんのHedeboの作品が400点ほど展示されています。

コペンハーゲンからは少し離れていますが、小さな黄色い建物の美術館で、カフェとお庭もあります。
カフェは学食みたいな感じで、近くに住む住人の方がぷらっとコーヒーを飲みにくるような場所でもあります。

美術館のまわりは何もないです。
果てしなく芝生。

美術館のお庭からの景色というかお庭の延長


日本だと、京都にあるユキパリス美術館にもHedeboの作品が飾られているそうです!
私はまだ未踏の地ですが、いつか行かなくてはと思っています。

この疫病が落ち着いたら、たくさんの人にHedeboを見て欲しいです。

Voicy
刺繍ラジオfromデンマーク
よかったら刺繍や編み物の作業のお供に聞いてください〜。
リンクは再生回数が多かった手芸留学のエピソードです。

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