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教育現場におけるICT導入の徹底度合いとその効果(前編) | 【月刊 学校法人】連載企画 2023年6月号

月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm

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 本稿では、教育現場へのICT(教育テック) の導入に際して、真の効果を発現するために必 要な条件について、他業界の先行研究も紐解き ながら考察したい。

はじめに

●コロナ禍による急速な教育投資の増加と減少

 IT関連調査会社のGartner Japanの発表によ ると、2021 年、日本のIT支出総額は27兆9,730億円にのぼり、日本の業種別IT投資額の成長率が最も高いと予測されたのは教育業界(6.8%) だった。GIGAスクール構想など政府主導でデジタル化が強力に推進され、EdTechを中心とした投資が行われ、教育現場が大きく変化した年になった。
 ただし、翌2022年のIT投資額では、すべての産業でプラス成長となったにも関わらず、唯一教育産業のみが、GIGAスクール関連支出の反動減によりマイナス11.5%と大幅な減少になったと発表された。さらに、2022年以降引き続き、教育産業はどの業種においても最も低い成長となるであろうとも発表されている。これは、教育現場へのデジタル化投資の鈍化傾向といえる。果たして、このままでよいのだろうか。

●教育現場はICT導入によってどのような効果を得たか

 第一に、教員・学校の視点から振り返ってみたい。
 OECD(経済協力開発機構)のTALIS2018(国 際教員指導環境調査)によると、日本の教師は世界一長時間労働し、多忙であると発表されて いる。
 コロナ禍を乗り越えつつ、GIGAスクール構想の予算によって、こどもへの PC 配布、学校の通信環境整備が進み、校務処理や教育活動にICTが広く導入された。現場で実際に対応する教員の負担は、テクノロジーの活用により軽減されたのか。教員の職務について、「校務(学校事務)処理」とそれ以外の「授業を含む教育活動」 に大きく分類して考える1)。(その他、管理職による学校経営もあるが、ここでは現場教員の業務に限定して述べる。)

1)文部科学省「教育の情報化に関する手引」(2010)において、「効率的な校務処理とその結果生み出される教育活動の質の改善」を目的に情報化を行うと記述されている。

 コロナ禍に入る前から、いくつかの先進的な 地方自治体・教育委員会において教育活動への ICT 導入が試みられたが、問題もあった。例え ば武雄市では、ICT 教材を用いた学習の実証を 行った教職員アンケートによると、「負担が大き く、ICT 教材を用いた授業の回数を減らしたい」 という回答が過半数だった。そして、「校務処理」 に ICT が導入され、ペーパーレス化が進んだが、 IT に不慣れな教職員が多い学校の場合は、一部 の担当者に負担が偏ったという(東洋大学 現代 社会総合研究所(2017)「武雄市『ICT を活用し た教育』第三次検証報告書―新しい学力観を求め て―」)。これらにより、ICT の導入だけでは根本 的に教育現場が改善されないことが示唆される。 第二に、生徒・保護者の視点から振り返って みたい。
I C T の導入によって物理的・時間的な解放に あわせて教育効果も副次的に高まったと考えら れるが、保護者の情報格差(家庭内の情報機器 の有無や、保護者の情報リテラシーの程度)が 教育格差に影響し始めていると言える。また、 内閣総理大臣の指示の下設置された内閣官房の 教育再生実行会議 初等中等教育ワーキング・グ ループにおいても、I C T の導入による個別最適 な学習は、これまでのこども全体の学力レベル を一律に引き上げるものではなく、一人ひとり の学力格差を余計に広げていくものではないかという有識者の指摘もある2)。

2)この点について当研究所は、「個別最適な学び」が必ずしも教育機会・学力の格差に直結するとは考えにくいので はないかと思料する。学習が、基礎から応用へ単元を積み上げていくものであるとするならば、個別最適な学習(ア クティブラーニング)は、学習者が修得していない基礎に遡った学習をすることなどであって、学習者の性質や意欲、 精神状態によって、単元や教科の学習進捗を左右させないための方法である。そのため、個別最適な学習は、むし ろ教育格差を是正するための方法であるといえる。

図 教育テック Dip & Jump 理論モデル

「教育テック Dip & Jump 理論」の紹介

 ここで、当研究所の考える「教育テック Dip & Jump 理論」について触れる。上図は、急速な(あるいは無計画の)ICT導入は、教育の提供者(例:学校・教員)、利用者(例:生徒・保護者)のICT活用の程度が追いつかず、教育の品質・生産性 3) を一時的に低下させるのではないかという理論モデルである。

3)ここでいう「教育の品質」とは、生徒の学習効果(成績や意欲、思考力等の向上)のことを指し、「教育の生産性」 とは、教師の指導効率(成績向上や社会性育成のための適切な学級経営)のことを指している。これらは一般的に 相反関係にあり、両立には工夫が必要である。この「学びの個別最適化と教育現場の働き方改革の両立」については、 連載第 1 回(4 月号)を参照。

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(著者紹介)
小川 悠(おがわ はるか)
野村総合研究所(NRI)産業ITコンサルティン グ一部 シニアコンサルタント。 専門は、流通・サービス業におけるDX戦略策定、DX施策実行・推進支援。特に、青少年のインターネットリテラシーの向上、教育事業におけるAI企画の導入・ブランディング検討、非認知能力の測定・向上方法の検討。

根岸 正州(ねぎし まさくに)
OCC教育テック総合研究所 所長、学校法人大阪キリスト教学院(OCC) 理事長、大阪キリスト教短期大学 教授。 大手シンクタンクにて、民間大企業、省庁、私立大学法人等の顧客に対して、経営戦略コンサル ティング業務を提供後、現学校法人を事業承継し理事長に就任。短期大学の他、幼稚園・保育園・ こども園を計9園、IT企業や不動産業、人材紹介・ 派遣業を経営。

織田 竜輔(おだ りょうすけ)
OCC教育テック総合研究所 上級研究員、大阪キリスト教短期大学 特任教授。 実務家教員、学校経営ディレクター。『環境ビジネス』編集室長、月刊『事業構想』編集長、月刊『先端教育』編集長を務め、全国の初等教育~ 高等教育、社会人教育、リカレント・リスキリン グ教育を取材、専門職大学院において社会人向けの教育・研究プログラムを企画・実施した後、現職。 環境・教育・メディアを研究。

転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm



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