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教育テックの研究と実践が、今必要な理由(前編) | 【月刊 学校法人】連載企画 2023年4月号

月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。今回は2023年4月号に掲載された「教育テックで変える未来社会(第1回)」です。
転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm




 本稿では、教育現場での課題を整理し、ICT を中心としたテクノロジーを教育現場に活用する「教育テック」の研究と実践がなぜ、今必要なのか考察する。

ICT が進化・普及した社会と 教育現場のギャップ


この約20年のICTの進化は目覚ましいものがあった。積極的にICTを取り入れ使いこなす企業は、着実に成長を遂げ、社会に大きなインパクトをもたらし、さらにスピードを上げて進化し、生活者はICTの恩恵を受け、より豊かな 生活を享受してきた。
ただ、ICTの活用・普及により、社会全体が大きく変容しているのにも関わらず、学校を中心とした日本の教育現場では、長らくICT活用が遅れてきた。確かに、コロナ禍で実施されたGIGAスクール政策により小中学校に一人一台 端末が配られ、高速通信ネットワーク等のICT環境の整備が飛躍的に進化するなどして、急速 にICT活用のハード面での環境が整ってはきた。 しかし、ハード整備は進んだものの、肝心の内実、ソフト面でのICT活用は、一部の先駆的な例を除いて、教育界全般としては緒に就いたばかりであり、十分な成果が上がっているとは言い難い。

教育テックの定義

 本研究所では、教育テックを図1のように定義している。
教育現場でのICT活用がこれから本格化する中、本研究所では、教育界と社会をつなぎ課題を解決していくテクノロジーを「教育テック」と定義し、研究および実践活動を展開している。 「教育テック」の構成は三つの要素からなっている。教育界の課題解決のためにテクノロジー を活用して教育実践を高度化する(教育テック 1.0)とともに、とかくエピソードや記録、経験や感覚重視の教育学をテクノロジーを活用してサイエンス(教育テック 2.0)にする課題解決型の学問体系と定義している。ひいては、教育界のみならずカーボンニュートラルや南北問題解決等の社会課題解決のための研究と実践にも活用できる(教育テック 3.0)。

図1 教育テックの定義

第一の課題:学びの個別最適化と教育テックの活用

 教育現場の課題が山積している中、学びの個別最適化は、その必要性が指摘され続けており、 長年の課題でもある。 明治時代に始まった、学校の教室で多数の生徒に画一的な教育を行う授業形式は、多少の変化はあったが現在でも本質的には変わっていない。確かに、一クラスあたりの生徒数をより少 人数にすることや、複数の教員が指導するなどして、教員一人あたりの生徒数を減らして、よりきめ細かな指導ができるようになった。しかし、現在でも、生徒一人ひとりの習熟度や興味 関心に応じて、個別に指導できるようになったわけではない。 例えば、ギフテッドと呼ばれる天賦の特別な才能を持つこどもに対して、相応しい教育を提供できる体制は整っていない。ギフテッドとまで呼ばれなくても、ある特定の能力について、 他の平均的な生徒たちよりも優れている場合、 現在の授業方法ではその生徒にとって、非常に 退屈なのである。逆に、平均より劣る場合、現 在の授業方法では理解することができず、義務教育の早い段階で脱落してしまうこともよくあるケースである。授業は平均的な生徒を対象に進められていくが、生徒の能力にはバラつきがあるし、つまずく箇所や疑問に思うこと、何かの気づきを得たり興味をもったりすることは、 生徒一人ひとりによって異なり、多様であるから、一つの授業が全員に適しているということはない。

 こうした状況の中、生徒一人ひとりの能力や状況、習熟度に合った教育を行うことが求められ続けてきた。だが、教員が一人ひとりの生徒に対応するのでは、物理的な限界がある。 これらの状況を総合すると、こどもに最高の 教育を提供するという意味では、教員の数を増やしたり質を上げたりすることといった人手に頼る方法だけでは無理がある。 そこで鍵となるのが、教育テック 1.0 の活用 である。生徒の習熟度によって最適な教材を選択し、適切な指導をするという意味では、ICTを活用したオンライン学習教材が提供され始め ている。教育テック導入以前は、教員が一人ひ とりの生徒に指導するのでは限界があったところ、タブレットやPC端末等を介して、生徒一 人ひとりのペースで学習できるようになってきている。 また、教育テックの導入が進めば、教員が生徒個々人の個別学習カルテや学習状況をダッシュボードで常に把握し、誰も取り残さない教育を実現できるようになる。 さらに、授業内容はインターネットを介しての配信が可能となっているから、必ずしも対面で教員がリアルに教える必要は無くなる。むし ろ、教員が上手に教えるという意味では、教えることに長けた全国屈指の教員が授業を録画し、 オンデマンド方式でインターネットを介して提供し、全国の生徒が受講することが可能となるだろう。

 このように教育テック1.0を活用すれば、 生徒個々人の学習状況に合わせて、どこにいても、教えることに長けた教員から優良な指導を受けられる。 これらの教育テックを活用した取組みは始まったばかりだが、学びの個別最適化を、教育テック1.0活用以前のアナログ時代とは全く違う次元で飛躍的に進められるようになる。こうして学びの個別最適化で浮いた教員の時間は、 個別の生徒のケア、人間的な成長のための対話 や指導に使うことが可能となる。教育テック1.0が普及した学校では、教員は生徒の個性に寄り添ったコミュニケーションに時間を割けることになる。

第二の課題:教員の働き方改革を 教育テック 1.0 でどう進めるか

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(著者紹介)
原山 青士(はらやま せいじ)
「保育 DX 人材養成プログラム」をはじめとしたリ カレント/リスキリング教育をプロデュースして いる。教育テックベンチャーである株式会社 H&E テクノロジー代表取締役も兼任。
織田 竜輔(おだ りょうすけ)
OCC教育テック総合研究所 上級研究員、大阪キ リスト教短期大学 特任教授。 実務家教員、学校経営ディレクター。『環境ビ ジネス』編集室長、月刊『事業構想』編集長、月 刊『先端教育』編集長を務め、全国の初等教育~ 高等教育、社会人教育、リカレント・リスキリン グ教育を取材、専門職大学院において社会人向け の教育・研究プログラムを企画・実施した後、現職。 環境・教育・メディアを研究。
根岸 正州(ねぎし まさくに)
OCC教育テック総合研究所 所長、学校法人大阪 キリスト教学院(OCC) 理事長、大阪キリスト教短 期大学 教授。 大手シンクタンクにて、民間大企業、省庁、私 立大学法人等の顧客に対して、経営戦略コンサル ティング業務を提供後、現学校法人を事業承継し 理事長に就任。短期大学の他、幼稚園・保育園・ こども園を計 9 園、IT 企業や不動産業、人材紹介・ 派遣業を経営。

転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm



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