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Vol.5 部活動と中学校教員

今回は教員の「働き方改革」とは切っても切れない、部活動についてお話しします。

1.部活動とは

部活動は学校教育において、どのような位置づけになっているのか。
それを簡単に説明すると
「課外活動」であり、実施・運営の法的義務はない
「生きる力を育む」観点から、教育課程と関連付ける
教育課程外であるが、学校教育の一環として行う

ただし「生徒の自主的・自発的参加」で行われるもの、とされています。
部活動の目的は

○スポーツや文化に親しむ
○学習意欲を向上させる
○責任感や連帯感を養う

といったところにあるとされています。(平成20年3月告示 学習指導要領総則より)

2.部活動の実際、現実は…

私が教員をしていた自治体では、ほとんどの学校が「全員入部制」でした。特にヤンキー文化が残っていたり、生徒指導が困難な学校・地域ほど、放課後の生徒たちの様子を心配し、学校で監督出来る状況を作る目的もあり、強制入部のような形が採られていました。

ただし、クラブチームや習い事がある場合は、そちらへ所属することで部活動の代わりとしたり、習い事を優先したり、ということは可能でした。

「働き方改革」があちこちで叫ばれるようになってから、部活の在り方も少しは変化してきているといいな、と思うのですが、経験からいうと

○部活動は当然として存在する。顧問も実際は断れない
○教育課程との関連付けを意識した運営はされていない
○学校教育の一環、どころかメインになっている面も否めない
○生徒は全員入部制がほとんどであり、自主的・自発的に「選択」させられている
○学習意欲の向上?部活で疲れてしまい、家庭学習を丁寧に行うのは難しい

生徒たちの様子を見ていると、学習指導要領で告示されているような「理想」とはかけ離れた実態が多く見られました。

3.部活動に対する疑問

これは、私自身が常々感じていた部活動への疑問です。

○なぜ「部活至上主義」が横行するのか
○なぜ部活動によって生徒が疲弊するのか
○部活動顧問はそんなに偉いのか
○部活動は本当に生徒の「生きる力」を育んでいるのかetc…

細かく言えばもっと疑問や不満はたくさんあるのですが、もっとも強く感じていた疑問は以上の4点でしょうか。

運動部も文化部も、両方顧問や副顧問を経験しましたが、特に厄介なのは「運動部」だと感じていました。

「運動部」の担当になるとまず「県西・県南・県北・県央」など、都道府県によって異なるかもしれませんが、自分の学校が所属する地域で行われる公式大会で勝ち上がること、そして県大会に出場し成績を残すこと、が第一の目標になることが多いです。学校や地域からもそれを望まれています。

市町村単位で予選が行われ、勝ち上がった数校が地域大会へ出場します。
さらに、そこで勝ち上がった数校が県大会へ出場し、順次「東北・関東・関西・中部・中国・九州・四国」など、地方大会へ出場、そして全国大会へとつながっていきます。

運動部がこうした大会で勝ち上がることを第一目標にするのは、恐らく「高校進学」に関わりがあることも一因ではないでしょうか。
部活動での成績が資格試験等の成績と同様に、学校によっては数値化され、評定に+されることがあるからです。

また、強い部になればなるほど、顧問も「指導者」としての名が上がり、周囲から一目置かれる存在となります。すると次の異動の際、部活動での成績が考慮されることがあるのです。

もちろん生徒にとっても、進学について+になるなら「部活動」はやっておいて損はない、となるでしょう。強豪校と呼ばれる高校に入学すれば、将来的にはプロとして活躍する選手になれることもあるかもしれません。

ただし、それはほんの一握り…砂粒の確率だと思います。
将来的にプロを目指すなら、クラブチーム等に所属するほうが近道かもしれません。それに、その競技が本当に大好きで、真剣に将来のことまで考えているのなら、敢えて部活動に入部する必要はないと思ってしまいます。

あくまでも私の経験した学校や、地域、地方で多く見られるケースですので、全てがこのような部活動ではありません。だから「こういうところもあるんだ」程度に思っていただきたいのですが…でも、見過ごせない、という想いが、やはり私の中には強く存在しています。

4.部活動のメリット・デメリット

まずはデメリットについて。

○生徒の可能性を狭めていることがある
○部活動での人間関係が、学校生活全体に影響する
○生徒が疲弊する
○教員も疲弊する
○価値観が偏る

などなど、挙げるとキリがないのですが、ひとまず以上の5点について説明します。

○生徒の可能性を狭めている事がある

これは「部活至上主義」の顧問・チームにおいて、起こりがちなデメリットです。「部活至上主義」になると、部活以外の活動を半ば強制的に抑制されてしまいます。

私が毎年頭を悩ませたのが「英語スピーチコンテスト」の参加者選びでした。英語が得意な生徒、好きな生徒たちにどんどん活躍してほしい、もっと英語の楽しさや面白さ、達成感や充実感などを味わってほしい、と思って毎年指導するのですが、参加者の練習時間は昼休みや放課後がほとんどです。

すると毎年決まって「部活動に参加したいので、辞退します」「大会に出場したいので辞退します」と、選手になるのを断られてしまうのです。因みに「英語スピーチコンテスト」は県の事業として行われるため、全ての中学校が選手を規定人数きっかり出場させなければいけません。

校長や教頭も「スピーチコンテスト」へどんどん生徒を参加させろ、県大会へ出場しろとおっしゃるのですが、こちらが出場させたいと思う生徒は「部活の大会に出たい」そのために「部活の練習時間は抜けられない」のです。

それはなぜか?
答えは「顧問から、大会が近いのに練習できないなら、他の人より上手くなるはずがない。それなら試合には出られないよな」と言われているから。もしくはそれに近いことを言われているか、匂わされているから。

そのためにはまず顧問を説得しなければならない、という訳の分からない手間がかかってしまうのです。それだけならまだしも、時には顧問から直接私へ圧力がかかることもありました。
英語の各種大会も部活動の成績と同じように、むしろ英語の大会についてはどの高校も+で評価してくれるのに。

英語の大会への参加は、生徒の意思を尊重して行います。だから最初は「やってみたい!」と思ってくれる生徒が多いのですが、そのほとんどは部活を理由に参加を断念していました。
その度にしょぼんとした生徒の表情を見てきた私からすれば

「部活を強制するなら、大会での好成績を保証して」

と、顧問たちに確約させたいくらいでした。
これで勝ち上がれればいいのですが、敗退した時には「選手たちの力が及ばなかった」という声が、顧問たちから聞こえてくるのです。

それを耳にするとき、どれほど悔しかったか。
生徒には部活動以外にもたくさんの可能性があります。教科で力を伸ばす子もいれば、生徒会活動やボランティア活動で伸びる子もいます。活躍の場はその子に応じて、多種多様であるはずなのです。

そして私たち教員は「教育の一環として」部活動を行い、彼らの心身の成長や成熟を促し、健やかな成長のために多くの時間を部員たちと過ごすのです。その教員が、自ら生徒の可能性を潰していいはずがありません。

○生徒の疲弊・教員の疲弊

上記でも挙げた「部活至上主義」が生み出す害悪は他にもあります。
部活動の時間を確保するために、土日も部活動を行うところが大多数だった当時。放課後も日没まで全力で活動しているのですから、当然生徒たちは疲れ切っています。その後、なんの予定もない生徒はまだいいのですが、帰宅してから塾へ行ったり習い事をしたり…となると、食事をしてお風呂に入り、明日の準備をして、宿題をやって…。

本当に効果的な学習に十分な「質」と「時間」を確保できているのでしょうか。
生徒たちが自由に使える時間は確保できているのでしょうか。
家族と話をする時間は?
十分に休養する時間は?

…すべてを完璧に行える生徒はほんの一握りです。「部活至上主義」が横行している学校において、生徒たちがどの教科も偏りなく、十分に家庭学習が行えていて、自分のために使う時間も確保できる、なんてとてもムリでしょう。

同じように教員も…特に「部活至上主義」ではない教員たちも、疲弊しています。部活をしてから、ようやく自分の仕事に取り掛かれる、でも仕事は事務処理から授業研究、生徒指導や保護者対応、緊急会議…やらなければいけないことは山積みです。
「部活至上主義」の顧問は部活がメインだからいいのです。
でもそうではない教員が顧問をしている場合は、とても疲弊し、同時に肩身の狭い思いをしているのではないでしょうか。

そうした教員が多く、やっと声をあげられるようになってきたからこそ「ブラック部活動」に対する反対運動が多くなってきているのですが、地域や地方によっては、疲弊している「本当に生徒を想っている先生」たちの声こそが大きな雑音にかき消され、辛い思いをしているのではないかと、胸が痛くなります。

「生きる力」を育むための「部活動」が、生徒も教員も疲弊させる。そのようなことがあっていいはずがないのです。

こうした部活動の現状を考えると、いかに「部活至上主義」の顧問の影響力の大きさと、それが様々なトラブルや害悪を生んでいるということは、教育の観点からも見過ごせない、と私は思っています。

そもそも「生徒のため」といいつつ「生徒のせい」にしている顧問たちに、偉そうなことを言われたくない。というのが私の本音でもあります。

教科を教えることも、部活動を行うことも共通して
「限られた時間内で、最大限の効率を上げる」
ことが大切だと思います。

5.最後に

今回は部活動のデメリットまで、となりますが、次回は部活動のメリットと自分自身はどのように生徒(部員)と接してきたか、をお話しします。

ここまでお読みいただきありがとうございました。



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