世界の終わり #6-8 メメント モリ
〈 フォレストホテル 通路 〉
「二宮さん」
——と、自身の名を呼ばれなければ間違いなく、二宮は背後から近づき、己の口を塞いだ男へ暴力で抗っていたであろう。
「動かないでください」
再び男が耳元で囁く。
二宮は浅く頷き、男に対して手を放せとジェスチャーで訴えた。
イヤホンタイプのワイヤレスヘッドセットが耳から外れて床に落ちる。
小さな音が鳴る。
二呼吸ほど間を置いたのちに拘束は解かれて、両者はほぼ同時に半歩ほど距離を取りあった。
慎重に振り返って、男の顔を確認