Flog_kerokero
記事一覧
【アントシアンの礎石】 Cp.2
「お待たせしました」
椛重工の役員用会議室に最後の一人が到着した。
祇園寺ローレルを含めた五人が集まり、環境課から提供された情報と自社の調査によって得られた情報の二つを眺める。
そして渋い顔をした。
この騒動の発端――
「結論から言えバ――まったくもって恥ずかしい身内の恥ダネ」
ハッカーをバックアップしていたのは椛重工の子会社だった。
数か月前のインフラ整備工事の際、仕事を回されなかった事が
【アントシアンの礎石】 Cp.1
皇純香。
胸元から下げているIDに刻まれている名前。
椛重工の応接室に招かれた彼女は、調印された書類を見比べている男性の言葉をじっと待つ。
時折向けられる視線を意に介さず、堂々と、胸を張って。
「確認いたしました」
自分とその隣に座る男性役員――初めて顔を合わせる相手。
それぞれ一枚ずつを受け取り、立会人が深々と頭を下げた。
「椛重工と環境課の双方にとって、この関係が良きものでありますよう」
【カーボンコピー】 Cp.5
新簗風炉が電脳化手術を受けた時、具体的に印象に残る事は特になかった。
大仰な手術台へ載せられることも、混濁した意識のまま頭を苦痛に苛まれることも起こらなかったからだ。
――電脳とは何だろうか。
神経へナノマシンを結合させ、電気信号によって外部との情報通信を可能とした脳のことだ。
意識そのもので情報を知覚することが可能で、聞こえない声で会話し、見えないデスクで作業が出来る。
風炉は施術の前に、院で渡
【カーボンコピー】 Cp.4
『弊社が提供しているデータ漏洩対策の実績といたしましては――』
応接室に通した岩世の対応をするフォスフォロスは、尚も続けられる商品説明を録音しつつも、電脳内の処理シーケンス制御に神経を尖らせ続けていた。
皇と隠岐は管制室でその様子を確認しているが、三位のセールスマンが口にしている内容は実質的な意味がほとんどない。
彼が行っているのは時間稼ぎ――環境課のセキュリティホールを見つけるまでの、単なる介