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【頂を鳴らす】

休憩室の窓際に座る二人の後ろ姿が見える。
まじまじと向けられる視線と実際に触られるむずがゆさを感じながら、フローロはマグカップのオレンジジュースに口をつけた。

「へーぇ……」

胸元に下げられたIDカードには市民生活係の文字が記されている。
金色のおさげを揺らしながら、ラパウィラはフローロの頭頂部に手を伸ばしていた。

「見た目より硬いッスね」

「外装はFRPらしいです」

「なんで他人事っぽい言い方?」

「義体の仕様は私が指定した訳ではありませんから」

施術後に送られてきた義体のカタログスペックには目を通したものの、数値を見てもさっぱりピンとくる部分は無かった。

「じゃあカエルのデザインも誰かに選んでもらったってことッスか?」

自分で望んだ選択――しかしその意図は自分以外にとって重要なことではない。

「ん?」

答えを待つような質問ではなかったはずで、ラパウィラは微かに首を傾げた。

「自分で選びましたよ。可愛いでしょう?」

ラパウィラは環境課員としては比較的日が浅い方で、フローロが義体化する前の事を良く知っている訳ではなく、それはフローロからラパウィラに対しても同様だ。
以前から頻繁に顔を合わせていたという訳でもなく、最近あちこちに駆り出される事が増えてから時折挨拶を交わす程度の距離感。
わざわざ身の上話をする必要はないだろう――それに嘘は言っていない。

「なるほどねぇ。いいんじゃないのぉ?」

アンテナを撫でていた手を離して、カフェラテに浮かべた氷を二つ噛み砕く。

「デフォルメっぽいのも?」

「はい」

「ふぅん……」

目が合った――勿論アイカメラとしての機能はついていないが。

「や、なんてーか、フローロサンって落ち着いてるように見えるし、他の人も大体穏やかなヒトだねーって言ってたんでぇ」

「イメージと違いました?」

「思ったより子供っぽいとこもあるじゃん?みたいなぁ。あ、悪い意味じゃないッスけどね!?」

「ふふ」

「目が笑ってないね!?」

快活さと正直さと若干の迂闊さを織り交ぜた様な性格なのだろう。
距離の詰め方に少し面くらったが、そこに不快感は無い。

「いやほら、義体のアンテナって結構個性が出るじゃないッスか。ジブンはスピーカーだし、フローロサンはカエルだし、他にも色々……」

「角とかね」

「オシャレっていうか、色んなデザイン見るのも楽しいし、アンテナ持ちのヒトにはそこら辺聞いてみたいなーって思ってたんで」

「一般流通してるタイプのアンテナはこういうのとは違うんですか?」

「環境課の中だと割と弄ってる人が多い気はするッスね。一応カスタマイズも出来るけど、ワンオフのデザイン品は街中だとたまに見る程度だし」

もしかすると、このアンテナは割と値段のする方なのだろうか。

「だからまぁ、話題の一つってくらいなんで」

会話の流れを変える様に。

「あまり深い意味はないので気にしないでくださいね」

僅かに下がるトーン。

「どうしたッスか?」

少しだけ前かがみに尋ねる表情は数瞬前の気配を感じさせないものだ。

「いえ、何でもないですよ」

既に紙コップの飲み物は空になっている。

「そろそろ戻りましょうか」

「了解ッス」

席を立って休憩室を出れば二人の向かう先は別々だ。

「んじゃまたー」

軽快に行く後ろ姿から視線を外し、次の機会はそう遠くないだろうと思いながら。
頭頂部の冷たい感触に一度だけ手を添えて。


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【頂を鳴らす】

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