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【鳴らない首輪】

「いい天気だねぇ」

「そうッスねぇ」

穏やかな陽光を浴びながらR1-N地区の巡回業務をこなす二人の環境課員。
山形とラパウィラの腕にネオンイエローの腕章が無ければ、漂う雰囲気は散歩の様にも見える。
ほんのわずかな緊張感とさりげない目配せは自然体を感じさせて、警戒心を抱かせない技術の様でもある。
準備中の屋台を通り過ぎて、信号を渡った先の路地の陰。
大きなダストボックスの前でしゃがみこんでいる子供たちに声をかけた。

「何してんだガキどもー」

間延びした呼びかけに振り返った子供は山形の顔を見て開口一番、

「サボり?」

「ンな訳あるか。仕事中だよ」

胸ポケットからIDカードを取り出して見せる。

「それで何してんだ?」

三人は背中に何かを隠している――何度か視線を合わせると諦めた様に体をずらした。

「最近ここら辺でよく見るからさ」

泥と埃と油で所々汚れた猫が縮こまっている。

「すっげえ痩せてるから何か食わせた方がいいのかなって思って」

プラスチックの小皿と未開封のキャットフード。

「あー……」

子供たちは紛れもなく善意で行っている事だが……さてどう伝えたものか。
山形が悩んでいると、不意に、ラパウィラが子供たちに顔を近付けた。

「な、なに」

「――最期まで面倒見れるッスか?」

ラパウィラの言葉は結論であり、何故そうなるかを理解できない子供たちはきょとんとしている。

「……まず、野良ってのは自分で餌を取らなきゃ生きていけないのは分かるよな?」

世話をしてくれる誰かがいる訳ではない事は理解出来ている。

「人が餌をあげると、次ももらえると思って自分で餌を探さなくなっちまう。そうなってから誰も何もしなかったら、死んじゃうよな?」

自分たちの行いがその原因になったとしたら、子供の純粋さは拭いきれない後悔を生み出してしまう。

「今回限りのつもりなら止めておいた方がいいし、そうでないなら親父さんたちと相談してこいつを飼ってやるくらいのつもりでないとな。でもお前らのやろうとしてることが悪い事って訳じゃないんだぞ」

頭に手を乗せて、少し乱暴に撫でてやる。
そうしている間に野良猫は子供たちの足元を通り過ぎて、大通りへとその姿を消した。

「悩め、若者よー」

もう一度、撫でる。

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大通りに戻って、野良猫の後ろ姿が遠くに見えた。

「お前さんならどうする?」

ラパウィラは少しだけ考える風に首を傾げて、

「いや、家主じゃないんで」

人差し指を交差させた。

「無理ッスね」

「あ、そう……」

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巡回を再開する。
道路を挟んで向かい側、路上に置かれた長机に派手目なシャツが並べられている。
ワゴンに山積みされたジャンクパーツの一つ一つを確かめている青年がいる。
何度も見てきた光景はいつもと変わらない。
ほんの少し、猫に関する情報に意識が向きやすくなった程度だ。


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【鳴らない首輪】

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