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【カーボンコピー】 Cp.1
代わり映えしない一日。
やや曇り空。
空調の音、わずかな陽気、昼食後の重くなる目蓋に抗いながらコーヒーを一口。
満足げな表情を見せた風炉は伸びをして再びモニターに視線を向けた。
羅列されている鑑識結果の整理と照合は終わる気配がない。
いくつかの現場証拠、指紋、靴跡、PTP包装シート……。
終わらないとはいえ、それは平穏無事な部類の遺留品である。
――環境課。
それは環境という治安を維持するため
【カーボンコピー】 Cp.2
青みを帯びたポニーテールが小さく揺れる。
日の高い時間帯に再び駅周辺を訪れた風炉と雪貞は、それとなく現場を通り過ぎていく人々を眺めていた。
右から左から交差する彼らは時折こちらを見て、環境課の腕章を見て、自分たちの足元を見て、……納得をして。
そして、足早にその場を立ち去っていく。
「目立ってます?」
これが尾行や、ともすれば捜査網を敷くような仕事であれば雪貞の指摘はもっともだが、二人の目的は
【カーボンコピー】 Cp.3
煤けた空気の匂いが鼻先を掠める。
「……ぅ、けほ」
小さく咳き込んで、徐々に冴えていく意識と頭で周囲の状況を確かめた。
痛みはないが若干の倦怠感……何かを注射されたところまでは覚えている。
コンクリート製の室内は埃っぽく、その中で自分はどうやら椅子に縛り付けられているらしい。
後ろ手に加えて、更にご丁寧なことに椅子の脚にも足首が固定されていた。
帰宅途中だったこともあるが、少ない荷物は離れたと
【カーボンコピー】 Cp.4
『弊社が提供しているデータ漏洩対策の実績といたしましては――』
応接室に通した岩世の対応をするフォスフォロスは、尚も続けられる商品説明を録音しつつも、電脳内の処理シーケンス制御に神経を尖らせ続けていた。
皇と隠岐は管制室でその様子を確認しているが、三位のセールスマンが口にしている内容は実質的な意味がほとんどない。
彼が行っているのは時間稼ぎ――環境課のセキュリティホールを見つけるまでの、単なる介
【カーボンコピー】 Cp.5
新簗風炉が電脳化手術を受けた時、具体的に印象に残る事は特になかった。
大仰な手術台へ載せられることも、混濁した意識のまま頭を苦痛に苛まれることも起こらなかったからだ。
――電脳とは何だろうか。
神経へナノマシンを結合させ、電気信号によって外部との情報通信を可能とした脳のことだ。
意識そのもので情報を知覚することが可能で、聞こえない声で会話し、見えないデスクで作業が出来る。
風炉は施術の前に、院で渡
ブラインドカーボンコピー
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「皐月さんは……非科学的なものというか、ずいぶんオカルトがお好きなんですね」
フェリックスは後ろから近づく足音に振り返りながら、折りたたみ式の携帯灰皿へと吸いかけの紙巻きタバコを押し付けた。革がコンクリートを叩くまろやかな足音。月島皐月がフェリックスの隣まで歩み寄り、ベランダの柵に指先をかける。
「ああ。オカルトは好きだ。UFOも幽霊も信じている。そしてそれらは全て科学で解明できると思ってい