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【頂に開く】

「おなか……くるし……」

唐揚げ定食を食べて、ポテトフライも追加して、締めにバニラアイスのメープルシロップがけをチョイス。

「食べ過ぎですって」

夜八は割とこういうところがある、とフローロは思う。
良く食べて、美味しそうに食べて、ついつい止めずにいると大体苦しくなっている。
微笑ましいだけなので注意などはせず、水の入ったコップを両手で持ってゆっくり飲み干す姿を眺めるだけだ。
しばらくして落ち着いたので、食事中にあった通信履歴を確認し始めた。

「とりあえず出ましょうか」

店を出て、庁舎へと戻る道を歩く。
道を歩く人の声や足音、それを上書きする大型車の駆動音、微かに聞こえる喫茶店のクラシックBGM。
情報に溢れる道なりを進んでいる途中、そういえばと夜八が声をあげた。

『汚染区域での重力ダム検知、フーケロちゃんの重覚は反応しなかったの?』

電脳通信によるやり取り――発話が問題になる事くらいは弁えている。

『反応はしていましたが、あの場所はその対象が多すぎましたから』

フローロの重覚はある事象に特化していて、それ以外は少し強く感じ取れる程度でしかない為、あの場所では適任とは言えない。
情報の過密地帯からピンポイントで引き当てるだけの精度を持っている方が尋常ではないのだが、指摘する意味は無いだろう。

『ノイズがほとんどで、結局重力ダムの場所を確信する事は出来ませんでしたね』

『アンテナで指向性とか感度調整とかって出来たりしないの?』

カタログを開く――該当項目はあったが、今使用しているアンテナはソフト面でカスタマイズ出来るタイプでは無い。

『出来ると思いますけど、別のものを用意しないと駄目みたいです』

特に困っている訳ではないし、こうした事態がまた起こるようであれば備える意味はありそうだが……。

『また夜八ちゃんたちに助けてもらいますよ』

その方がいい。

『じゃあ、任されちゃおっかなー』

少し得意気にドヤ顔を決めると、一対の角がその主張を後押しした。

「あれ?角のデザイン変わりました?」

「そう!リアムさんが協力してくれて――」

どこかはしゃぐように説明をする夜八は、やはり微笑ましい。

「変形するんですか?」

その姿は、いずれどこかで見られるだろう。


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【頂に開く】

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