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文章の読みやすさの底にある根源的なるもの



「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり」


 学生時代、上記の松尾芭蕉の『奥の細道』の序文に衝撃を受けました。今読むと、なぜあんなにハマっていたんだろうと不思議に思うくらい何も感じないのですが、中二病なのか何なのか、当時は文章がカッコよすぎて暗唱できるくらい声に出して読んでいたのを覚えています。

 松尾芭蕉は日本中を旅して、訪ねた場所についての俳句を作っています。実際、その場所に行った人間にしか分からない感覚というものがあり、うまく言葉にできると説得力を持つんですが、あまりにも感覚的すぎると他人に情報として伝わり辛くなります。


松尾芭蕉の旅姿を模した建物、俳聖殿




 思い返せば、小学生の頃から作文は得意で、友人や教師からどうしてこんな文章が書けるのかとよく驚かれていました。また、子供の頃は時代劇に出てくるようないかめしい言葉を話す方が得意で、現代的な話し言葉は不得意でした。ASDは話し言葉が不得意な傾向にあるそうですね。


 おそらく、私はADHD・ASDなんじゃないか、あるいはそうだったんじゃないかと思っています。当てはまることが多いので。病院で診断を受けたことはないのであくまで私見ですが。ちなみに、ADHD・ASDの人は右の胸鎖乳突筋に緊張が見られるそうですね。




言葉のイメージ画像、東洋文庫



 ところで、書き言葉と話し言葉の違いは一体何なのでしょうか? 例えば、書き言葉は文章が「だ」で終わり、話し言葉は「です・ます」で終わります。「だんだん」という言葉は話し言葉に、「徐々に」は書き言葉に含まれます。また、話し言葉はリアルタイムの対面式で、顔の表情やジェスチャーなどを利用できるのに対し、書き言葉は伝えるべき情報をすべて言語化する必要があります。


 書き言葉の特徴は「正確性」、話し言葉の特徴は「冗長性」と言われています。そして、両者の違いには「情報量の違い」があります。形態素解析の結果、書き言葉で書く方が全体の語数は話し言葉より少なくなることが研究で明らかとされています。これが何を意味しているかというと、書き言葉は時間単位の情報量が多く、話し言葉は時間単位の情報量が少ないということです。つまり、人は、脳にかける言葉の負荷を書き言葉と話し言葉の2種類に分け、使用しています。


 例えば、人との会話で書き言葉をひたすら使われても困りますよね。なぜなら、処理に疲れ、頭がついていかないから。書き言葉の「徐々に」は話し言葉だと「だんだん」になりますが、要するに話し言葉は言葉に冗長性を持たせて、時間あたりの情報量を薄め、発音も分かりやすくすることで、相手の負荷を軽減しています。書き言葉は逆に正確性を重視するのでその分時間あたりの情報量が増え、それに伴い脳で再現される時間あたりの情報量が増えるので脳の負荷もかかります。


 しかし、書き言葉は目で読み込む分には、耳で聞くより苦ではありません。それは耳で聞くほど時間的な制限がシビアではないというのもありますが、視覚の処理速度そのものが聴覚の処理速度より速いからというもありそうです。逆に、文章で話し言葉を多用されると読みづらくなりますよね。要するに、視覚は視覚で適切な情報量があると考えられます。


視覚のイメージ画像、新宿の目



 続いて、情報の新奇性の高さも読まれる上で重要です。たとえ文章の情報量が同じだとしても、情報の質は新奇性で変わってきます。新奇性を報酬だとすれば、情報量は報酬に至るまでのストレスの量で、ストレスが多くて報酬が少ないと読者は脱落します。なので、適度なストレスをかけ、それに見合った報酬を用意する。定石といえば定石な気もします(この新奇性について、詳しくは前の記事を参照してください)。


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 読みやすさで大事な事柄がもう1つあります。それは誰の言葉か、主人公を明確にすることです。例えば、恥ずかしいのであまり自分で言いたくないんですが、私が書くのは旅記事なので、私が主人公です(キツい、死にたい)。なので、私自身の感覚的な文章を書くことを重視しています。そもそも、言葉とは感覚を再現する依り代です。言葉で感覚を共有することによって、読者の方々は『マルコヴィッチの穴』という映画のごとく、"私"になることができるのです。




 さて、読みやすさの条件として、主人公、適切なストレス、報酬設定を挙げました。これって物語やゲームの進めやすさと同じなんですよね。結局、読むという行為も"行動"であり、仮想か現実かの違いはありますが、それでも、あらゆる行動はこの原理の支配下にあるように思えます。これぞまさしく、"文章の読みやすさの底にある根源的なるもの"ということで、タイトルを無事回収し記事を終了させていただきます。






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 いかがでしたか? そもそも前回の記事で"言葉の表現"について書くと予告していたんですが、前回の例の無茶ぶりのせいでテーマとオチが自分でも予想外の方向に行ってしまいました。来週の記事はどうするか決めてませんが、写真も溜まって記事の選択肢も増えてきたので、ゆっくり考えてみます。





終わり






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