中村秀雄|英文契約書作成塾

総合商社の「丸紅」で25年間、国際法務を担当、その後合計16年間、小樽商科大学と神戸学…

中村秀雄|英文契約書作成塾

総合商社の「丸紅」で25年間、国際法務を担当、その後合計16年間、小樽商科大学と神戸学院大学で「国際取引法」、同志社大学で「英文契約研究」を教えました。 現在は私の「英文契約書作成塾」で、出張研修をしています。 専門は英文契約書の作成、交渉。 分かりやすいお話しを目指します。

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基礎からわかる英文契約書              目次と予備知識

このnoteの執筆者、中村秀雄の「開講の辞」と「自己紹介」はこちら 目次 前書きにかえて    〜予備知識 英文契約書というもの~英文契約書がどうして国際的に使われているのか、英文契約書はどんな環境で使われているのかを、最初に知っておいて下さい。 このように、国際取引で使われる英文契約書の世界は、分からないことだらけの何とも頼りない話なのです。(☚これがポイント) すべてはここから始まります。このことを念頭において、第1話以降を読み進めてみて下さい。

    • 第34話 一般条項(5)ーその他

      「一般条項」の最終回です。契約の種類や、取引の複雑さ加減、契約書の長さなどによって、記載項目や数も随分かわりますが、ここではいろいろなものを紹介しておきましょう。 Amendments / Variations:修正/変更 契約書の修正等は、署名された書面によって行うこととします。 Confidentiality / Public Announcements / Publication:守秘義務/情報開示 情報の守秘義務です。加えて開示に関しての決まりが書かれているこ

      • 第33話 一般条項(4)ー紛争解決条項ほか

        Dispute Resolution/Enforcement:紛争の解決方法/権利の行使 紛争が起こったときにどのような方法で解決するかなどについて書いてあります。具体的には次項以下のように仲裁、または裁判による、とするものが多いのですが、その前に当事者の責任者による直接交渉や、調停などをおくものもあります。「当事者は誠意をもって解決する」といった日本でよく見かけるような文言も、多くはありませんが、存在します。 直接交渉を規定した、興味深い例をあげておきましょう。 Ar

        • 第32話 一般条項(3)ー解除条項ほか

          一般条項は自力で書けるでしょうか? 前回、前々回のように考えてみると、「一般条項」といえども、コピペすることなく、どんなものが自分たちの取引に必要なのかを、自分なりに積み上げていくのが正しいと言えなくもありません。 しかし自分で全部書くのは無理です。いくら日本の契約法に精通していても、「履行期の遵守に関する条項(’Time is of the Essence’)」、「完全契約条項(’Entire Agreement’)」などを、全く白紙から思いつくことは不可能です。 そ

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        基礎からわかる英文契約書              目次と予備知識

          第31話 一般条項(2)ー両当事者に等しく適用されるべきでしょうか?

          ある一般条項が必要である、ということになったとして、ほかに検討のポイントはないでしょうか? (3)一般条項の検討基準―自分に有利に書かれているか?一般条項は「両当事者に等しく適用されるべきだ」と思い込んでいませんか? 確かに、「契約事項の修正は、両当事者の署名した書面による」という「修正条項(Amendment Clause)」なら、同じ内容が当事者の別なく適用されるべきでしょう。そのような条項は、たしかに少なからずあります。 しかし、中には「誰に有利に書かれるべき

          第31話 一般条項(2)ー両当事者に等しく適用されるべきでしょうか?

          第30話 一般条項(1)ー必要なのでしょうか?

          実務条項と一般条項 第23話から第29話で、契約書にまずどんなことを書くかを考えました。これらの規定は実務的なもので、契約の類型、取引の対象によって内容が違ってきます。 これに対して契約の種類や、対象の違いにかかわらず、契約の運用のために挿入される条項を「一般条項」とよんでいます。たとえば第14話から第16話で扱った契約の準拠法を定める規定はその1例で、大抵の国際契約書に出てきます。 ほかに上の写真にあるような 通知条項(Notices)、 譲渡に関する条項(Assi

          第30話 一般条項(1)ー必要なのでしょうか?

          国際契約英文法ー契約書に副詞は出てきますか?

          副詞の役割 副詞は名詞以外の言葉を修飾して、文章に「彩り」をそえる言葉です。では、権利・義務を明確に書き表すことを旨とする契約書というものに、副詞は使われるのでしょうか? 「基礎からわかる英文契約書」の第27回で検討したコンサルタント契約に、こんな趣旨の1文がありました。 The Consultant shall diligently provide Services to the Company. コンサルタントは、会社に対して誠実に役務を提供しなければならない。

          国際契約英文法ー契約書に副詞は出てきますか?

          第29話 国際契約書の記載事項ー当事者の約束に続くこと

          約束ごとに続いて、実務的なことがらを書く 第23話から第28話で、「売買契約書」「役務提供契約書」「ライセンス契約書」の最初に書くべき基本的なこと、つまり「当事者の約束ごと」の核心は何なのか、を考えてみました。 さて、第2話では国際契約書の記載事項をざっと眺めました。そこでは一番大事な「約束ごと」に続いて、その約束を「どう実行するか」が記載されていました。これらは実務条項とよんでもよいでしょう。 たとえば売買契約では、最初に「商品」と「商品代金」が交換される旨が約束

          第29話 国際契約書の記載事項ー当事者の約束に続くこと

          国際契約英文法ー実際の契約書を検索する

          実際の契約書を検索するには 「基礎からわかる英文契約書」シリーズ、そして、この「国際契約英文法」のシリーズでは、多くの英文国際契約書の「実例」にふれてきました。そのような実例はどのようにすれば検索できるかをお話ししましょう。 便利なサイトを3つ紹介します。いずれも無料で登録も必要ありません。下記のそれぞれの見出しにリンク先がついています。 SEC EDGARまず、米国証券取引委員会(SEC)の EDGAR サイトです。ここには米国の証券取引法などの法規に従って届け出ら

          国際契約英文法ー実際の契約書を検索する

          第28話 ライセンス契約書をどう書くか ー当事者は何を約束するかー

          ライセンス契約の骨組み 前回までに「売買契約書」(第23話~第26話)と「役務提供契約書」(第27話)を取り上げて、当事者の約束の根幹を分析してきました。 「基礎からわかる英文契約書」シリーズの第4話で、英国法上、契約では、当事者が「約束」と「法的価値のあるもの(約因=consideration)」を交換する、ということをいいました。そして第21話で、大抵の契約では当事者のお互いの「約束」は、お互いの「約因」でもあるといいました。簡単に言えば、契約とは「両当事者が価値の

          第28話 ライセンス契約書をどう書くか ー当事者は何を約束するかー

          国際契約英文法ー法律文書ではどうして簡単な言葉を使わないのですか?(2)

          前回に ‘get’ や ’do’ といった分かりやすい言葉が契約書に出てくる頻度は著しく低い、というお話をしました。なぜそうなのかを考えてみましょう。 同じようなことでも場合に応じて言い分けをするため 簡単ながら色々な意味を持つ単語が、法律家に好まれない1つの理由は、細かい言い分けをするためには、それぞれの概念にあった言葉を使う方が、間違いがないということがあります。 売買契約を例にとってみます。商品を売るには 'sell the Products' といえばよいのです

          国際契約英文法ー法律文書ではどうして簡単な言葉を使わないのですか?(2)

          国際契約英文法ー法律文書では、どうして簡単な言葉を使わないのですか?(1)

          法律文書は難しい言葉ばかり! 法律文書をもっと分かりやすい英語で書くことを目指して、Plain English(分かりやすい英語)を使おうといううごきが、英米で既に1960年代からあります。 イギリスにはわかりやすい文章に Crystal Mark をつける活動があります。Plain English Campaign という団体がやっていて、世界の名だたる政府機関、銀行、保険会社などがこのマークを取得しています。 また、アメリカでは1998年に証券取引委員会が、投資の勧

          国際契約英文法ー法律文書では、どうして簡単な言葉を使わないのですか?(1)

          第27話 役務提供契約書をどう書くか ー当事者は何をするかー

          役務提供契約の骨組み コンサルタントとの契約を取り上げて、役務を提供する契約には、何をどう書けばよいのか考えてみましょう。 当事者の義務は次の通りです。 ① コンサルタント:役務の提供 契約文言にするとすれば、「コンサルタントは助言をする義務を負う」と書くことになります。「助言をする」なら 'advise on/about' ですが、もう少し広く「役務を提供する」と考えて、まず役務は 'the Services' としましょう。「提供する」は 'provide' というこ

          第27話 役務提供契約書をどう書くか ー当事者は何をするかー

          英国判例笑事典 エピソード(9)「銀行に預けたお金が銀行にない!」

          私が預けたお金は銀行にない? 裁判官がある事件の中で、銀行取引についてこんなことを言っています。 法律的なものの考え方 これは一体どういう意味でしょう。解説する前に、そもそもなぜ法律家は簡単そうなことをむずかしく話すのかを、日常的な例をあげて説明しましょう。 スイカを買う 八百屋さんに行っておいしそうな柿を見て、「この柿を下さい」といったとします。「まいど!」という元気のよい店主から柿を受け取って、お金を払えば、その柿を買ったことになりますね。 これを英国の法律家は、目

          英国判例笑事典 エピソード(9)「銀行に預けたお金が銀行にない!」

          国際契約英文法ー言わなくてもよいこと(2)

          「国際契約英文法」のシリーズでは、英文契約書を普通にいう文法という見地から考えるほか、文章を書く作法という視点からも見てみます。英文契約書ってなぜこう書くのだろうか、と筆者が思ったことを取り上げて考えます 文頭に書かれている The Parties agree that … などは、いつも不要なのでしょうか? 前回に、契約書は合意事項を集積したものだから、条項ごとに ’The Parties agree that …’ とか、’Seller agrees that …’

          国際契約英文法ー言わなくてもよいこと(2)

          第26話 売買契約書をどう書くか (4) ー実例検討 ②

          船積み数量の過不足の取扱 前回に検討した条項の続きの部分です([ ]に入れた部分は前回の第2文)。 本契約の付表1のA部には、各船積みにおける売主の売渡義務数量が、数字で記載されています。しかしたとえば150トンといっても、正確に150トンちょうどを積むことは事実上不可能でしょうから、135トンから165トンの間におさまっている限りで、売主はその義務を果たしたものとしよう、というのがこの規定の趣旨です。 矛盾はないでしょうか? そうすると前回に検討した第2文の太字部

          第26話 売買契約書をどう書くか (4) ー実例検討 ②