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第30話 一般条項(1)ー必要なのでしょうか?

実務条項と一般条項

第23話から第29話で、契約書にまずどんなことを書くかを考えました。これらの規定は実務的なもので、契約の類型、取引の対象によって内容が違ってきます。
 
これに対して契約の種類や、対象の違いにかかわらず、契約の運用のために挿入される条項を「一般条項」とよんでいます。たとえば第14話から第16話で扱った契約の準拠法を定める規定はその1例で、大抵の国際契約書に出てきます。

ほかに上の写真にあるような 通知条項(Notices)、 譲渡に関する条項(Assignment)、修正条項(Amendments)などがすぐに思い浮かぶでしょう。
 
英語では ’General Provisions’、’Miscellaneous Provisions’ などとよばれます。どの契約書を見ても変わりばえがしないので、’Boilerplate Clauses’(「決まり文句」)という、ありがたくないあだ名があります。 

コピペ(’Cut and Paste’)はよくありません

一般条項は「決まり文句」だからというので、しばしば参考書や、既存の契約書からコピペして、そのまま自分の契約書に使うことがありますが、それはよくありません。
 
もちろん作業能率ということからいえば、専門家だって契約書を作るときにはコピペをします。しかしそれで終わりにはしません。例をそのままで使うのではなく、取捨選択、調整の基準というものがあるのです。(☚これがポイント)
 
個別に見るまえに、そもそも一般条項は必要なのかどうかを、ちょっと考えておきましょう。

(1)一般条項の検討基準―その条項は必要なのでしょうか?

たしかに、契約を運用していく上で役に立つものが多い、というのは本当です。しかし、国際契約だから当然挿入されるだろうと思ってしまう条項でも、本当に取り入れる必要があるのか、という視点から再検討すべきものがあります。
 
不可抗力条項」はその1つです。なぜでしょう。融資契約(’Loan Agreement’)を例に考えてみましょう。
 
契約締結時に、「ひょっとしたら貸主が不可抗力で貸出できなくなるかもしれない」と、当事者のいずれかが心配することは、現実にはまずなさそうです。貸主について「不可抗力条項」はなくても気になりません。
 
一方、借主の義務である「金銭の送金」は、あらかじめ銀行に指示をしておけばできることで、返済日になってあわてることはないはずです。送金は世界中のどの国の銀行からでも出来ることです。
 
というわけで融資契約書には「不可抗力条項」は入りません(なお、融資契約書は、普通は貸主が作成する、ということも念頭においてください)。
 
ついでに言えば、「支払い義務に不可抗力なし」ということは、一般的にも言えることです。(☚これがポイント)
 
そこで売買契約でも、売主にしか「不可抗力条項」を適用しないものもあります。

(2)一般条項の検討基準―長さ、深さが取引に釣り合っていますか?

一般条項の中には構造がとても複雑なものがあります。複雑だから無用だというわけではありませんが、そもそも適用の可能性はあるのか、取引の実態と釣り合っているか、無いと法的リスクが高くなるのか、といったことも考える必要があるでしょう。
 
商品価格が10億円で、支払いが3年の延べ払い(分割払い)という契約なら、詳細な一般条項が盛り込まれていても不釣り合いではありません。しかし、10万円の商品を代金前払いで売買するとしたら、不可抗力条項ですら、あまりに長大で、複雑なものは必要ないでしょう。「分離可能性条項」や「権利の放棄条項」(それぞれの説明は第34話参照)などはなくても十分通用します。
 
一般条項とはいえ、取引の内容に応じているだろうかとか、適切な長さ、深さにも配慮すべきだということです。(☚これがポイント)

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