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第34話 一般条項(5)ーその他

一般条項」の最終回です。契約の種類や、取引の複雑さ加減、契約書の長さなどによって、記載項目や数も随分かわりますが、ここではいろいろなものを紹介しておきましょう。

Amendments / Variations:修正/変更

契約書の修正等は、署名された書面によって行うこととします。

Confidentiality / Public Announcements / Publication:守秘義務/情報開示

情報の守秘義務です。加えて開示に関しての決まりが書かれていることもあります。

Consequential Damages:間接的損害・派生的損害

契約に違反したとしても、相手方は「風が吹けば桶屋が儲かる」的な損害までは請求できないとする条項です。「逸失利益(’lost profit’)」、「ビジネス機会の喪失(’loss of business opportunity’)」などの具体例を示すことも少なくありません。

Cumulative Remedies:重畳的・累積的救済方法

相手の契約違反に関して、権利者に複数の救済(権利)がありうるときに、その1つを行使したら残りは消滅する、ということにならない、ということを明記する条項です。たとえば「差止命令」を得たからといって、「契約解除権」がなくなるわけではない、といったことです。

Waiver:権利の放棄

いくら権利があっても、それを行使しないことが度々あったり、行使の時期に日常的に遅れたりしていると、そのうち契約で決めたとおり厳格にその権利を行使できなくなる、という法理の適用を排除しようとするものです。

(条項のタイトル)余談ですが ’Waiver’ とあっても、内容は「放棄しない」ということですので、’Non-Waiver’ とよぶこともあります。’Assignment’ もその例で、大抵は「譲渡してはいけない」と規定してありますから、’No Assignment’ と書いてもよいのです。

Severability / Separability / Invalid Provisions / Partial Invalidity / Severance:分離可能性

いろいろなタイトルがついていますが、要はある条項が違法とされても、その条項は切り離され、残りの部分は生き残る、あるいは無効性は残りの部分に影響を与えない、ということが書いてあります。

Notices:通知の方法

契約に従って通知をする方法、通知の効力発生時期などが書いてあります。

Entire Agreement / Whole Agreement:完全な契約

契約書に書かれたことがらは、当事者の合意事項のすべてであって、これ以外のものは認めないということを宣言します。「実はこんなことがあった」などと言われるのを防ぐためです。

Survival:債権・債務の存続

契約が解除されても、既に生じた債権や債務は存続することを確認するものです。

Copy:正本の数

契約書の正本を何部作るかを記してあります。

Counterparts:正本

当事者が各々のいる国で、バラバラに別の書面にサインしても、1つの契約が出来たことにする、ということに重点があります。部数を書いてあるだけのこともあります。

Headings / Captions:見出し

条項の見出しは読みやすさの便宜のために過ぎず、契約の内容には影響をあたえないと注記するものです。

Language / Governing Language:言語

契約書の正式言語は何語か(特に複数の言葉で作成されたとき)、契約に従ってなされるべき通知の言語などを定める条項です。

Third Party Beneficiaries / Third Party Rights:第三受益者

契約上の利益が、当事者以外の第三者にも及ぶかどうかについての定めです。大抵は否定的で、当事者でもないものに「契約上の利益を請求する権利がある」などと言わせないために入れます。

Taxes:税金の支払い義務

契約書作成、履行にかかわって課される税金は、各当事者が払うことを定めています。

Expenses / Costs:費用負担

この2つの言葉は会計的には異なる意味があるのですが、法律家はあまりこだわらず「かかったお金」という意味で使います。契約の締結、その履行に要した費用は各自負担するという取り決めです。

Attorney’s Fees:弁護士費用

契約上の権利の行使や、勝訴した当事者が判決を執行するに当たって発生した弁護士費用を請求することが出来る旨を定めています。

Schedules, Exhibits and other Agreements:付属書類

契約書に添付されている付表、そのほかの書類も契約の一部であることを、念のために確認する規定です。

Inconsistencies:矛盾の解釈

契約書本体の条文相互の間、契約書の本文と付表など、さらに契約書に言及された複数の書類の間に矛盾があったときに、どのような処理をするか、優先順位などを含めて述べた条項です。

Singular, Plural and Genders:単数・複数、男性・女性

単数で書かれた規定でも複数の場合に適用される、また男性形で書かれていても女性にも適用される(逆も同じ)といった規定です。

Right of Setoff:相殺の権利

契約のもとで生じた債権と債務を、相殺できるかどうかを定めたものです。

Relationship of Parties / Partnership, Joint Venture, Agency, Fiduciary or Employment between the Parties:当事者間の関係

一緒に取引や事業をするという契約を結んだからといって、税法上のパートナーシップを作ったことにはならない、合弁事業ではない、代理権をあたえるわけではない、また相手方をコンサルタントに任命したからといって、雇用契約になるわけではない、などといったことを確認のために書いておきます。お互いに独立した当事者同士の契約である(これを 'independent contractors' と表現します)という言い方もあります。

Further Assurances:さらなる約束

当事者は本契約を遂行するために書面が必要になったら、それを作成することに合意するという条項です。

なぜこんなにたくさん書くのでしょうか?

5回にわたって、一般条項のお話をしました。日本の契約書になれている方は、なぜこんなことをいちいち書くのだろうか、という疑問をお持ちになるかもしれません(もっとも最近は日本の契約書にも、英文契約書にある条項の翻訳としか思えないものが、結構たくさん出てきますが……)。

最大の理由は、英米法(特に英国法)には「契約法典がない」ということでしょう。「契約法」はあるのですが、判例の集積であって、少数の例外を除いて、日本の民法のように成文法としてまとめられていないのです。

日本法の下では何かの問題について、当事者間に特約がなければ、法の一般原則に戻ります。英米法の下では特約がなければ、判例を探すのですが、ぴったりの前例があるとは限りませんし、それらしき事件があったとしても、自分たちの事実にそのまま適用されるかどうかも分かりません。

だから、自分たちで自律的に規則を作っておくのが一番だ、というわけです。(☚これがポイント)


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