国際契約英文法ー契約書に副詞は出てきますか?
副詞の役割
副詞は名詞以外の言葉を修飾して、文章に「彩り」をそえる言葉です。では、権利・義務を明確に書き表すことを旨とする契約書というものに、副詞は使われるのでしょうか?
「基礎からわかる英文契約書」の第27回で検討したコンサルタント契約に、こんな趣旨の1文がありました。
The Consultant shall diligently provide Services to the Company.
コンサルタントは、会社に対して誠実に役務を提供しなければならない。
副詞 ‘diligently’ がないとどうなるでしょうか?
「誠実に」役務を提供することと、単に役務を提供することの間に差があれば、この副詞を入れることに意義があることになります。
では役務の内容が「経理業務」だとしましょう。副詞の有無によって、経理業務の内容や質にかわりがあるでしょうか?もし
The Consultant shall provide Services to the Company.
としか書いていないからといって、中途半端な仕事をしたとしたら、きっと契約違反になるでしょう。
つまり、法律の目で見ると、「誠実に」という言葉によって、どんな客観的基準が追加的に設定されたのか、よく分からないのです。(☚これがポイント)
「なるほど」と思うけれど
少なからぬ契約書の中に、このような一見「なるほど」と思われるものの、よく考えるとなくてもよい副詞、あまり役に立たない副詞が使われています。
The commencement of the installation of the System will take place on a date mutually agreed between the Parties.
システムの据え付けは、当事者が相互に合意した日に開始する。
‘mutually’ を外して読んでも、何も不自由はありません。
If the Parties cannot resolve the dispute amicably, then the Parties shall be entitled to resolve the same pursuant to clause 39.
当事者が紛争を友好的に解決できない場合は、39条(注:紛争解決方法として仲裁が指定されている条項)に従って紛争を解決する権利を有する。
紛争が発生しているのですから、そもそも当事者の間に「友好的」な雰囲気は期待できないのではないでしょうか?
副詞は必要ないのですか?
では契約文には副詞の果たす役割はないのでしょうか?そうでもありません。
文具卸商(’Seller’)と、文房具屋(’Shop’)の取引です。
① After receipt of an order from the Shop, the Seller shall deliver the Products.
② Promptly after receipt of an order from the Shop, the Seller shall deliver the Products.
③ Immediately after receipt of an order from the Shop, the Seller shall deliver the Products.
新学期が近づいた3月20日に文房具屋がノートを100冊注文しました。ノートは4月の12日に配送されました。文具卸商 は契約を守ったでしょうか?
①の「注文を受けたら出荷する」のもとでは、褒めたことではないにしても、契約違反になる遅滞とまではいえないでしょう。
②の「速やかに(promptly)」出荷する」では、契約違反といえるかどうかで、意見が分かれると思われます。
③の「直ちに(immediately)」出荷する」のもとでは、文具卸商は契約の履行を遅滞したと多くの人が考えるでしょう。
もちろん具体的な基準ではありませんが、①より②の方が迅速性が高く、③は最も早く処理することが、法的にも期待されるでしょう。
つまり副詞そのものにある程度具体的な意味があって、どう判断すべきかの方向性がわかる場合は、副詞に一定の働きはあるのです。(☚これがポイント)
意味ある副詞の例
そのような副詞で、よく見るものをあげておきましょう。
substantially(実質的に), expressly(明文で), exclusively(排他的に), equally(等しく), directly or indirectly(直接的、又は間接的に), unilaterally(一方的に), separately(別々に), validly(有効に), timely(適時に), currently(今現在は)
実際の使用頻度
現実には契約書の中には、そんなに多く副詞が使われているわけではありません。契約書の長短によりますが、1つの契約書の中にー何度使われているかは別としてー7~8種類以上も副詞が使われていたら、その契約書はとても色彩に富んでいるといえるでしょう。
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