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(連載小説)たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる<1章第5話>

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たこ焼き屋カピバラ、妖怪と戯れる
1章 弘子おばちゃんの憂鬱
第5話 お手紙の提案


「手紙?」

 数日後、またおやつの時間ごろに来てくれた弘子ひろこおばちゃんに、渚沙なぎさがお嫁さんにお手紙を書いてみたらどうかという話をすると、きょとんとして聞き返して来た。

「うん。それやったら落ち着いて、話も整理できるんちゃうんかなぁて思ったんよ」

 すると弘子おばちゃんは「わはは」とおかしそうに笑い飛ばす。

「私、手紙やなんて、そんな上品な柄ちゃうわ」

「でも弘子おばちゃんの年代やったら、お手紙にも馴染みがあるんちゃうやろかって思ったんやけど」

「そうやけどねぇ、そんな上等なもん、もうあんま書けへん様になったわ。年賀状ぐらいや。今は携帯でメールとかやろ。それも古いか? LINEっちゅうんか?」

「インスタのDMとかもね。でも弘子おばちゃん、普段お手紙とか書けへん人が書いたら、ぐっと来るっちゅうか、思いが伝わるっちゅうか説得力があるっちゅうか、そんな気ぃしません? こう、ギャップ萌え、みたいな」

 普段お手紙を書かないからこその効果があるのでは無いかと、渚沙は思うのだが。

「そうやなぁ〜」

 弘子おばちゃんは渋い表情で、難色を示している。駄目だろうか。葛の葉の案だったが、渚沙も良い手だと思ったのだが。

 渚沙は肩を落としてしまう。無理強いはできない。弘子おばちゃんが、そして次男くんご夫婦が良い着地点を見つけられたらと思うのだが。

 弘子おばちゃんはがっかりしてしまった渚沙を見たからか、「でもまぁ」と少し照れた様にそっぽを向いた。

「たまにゃあ、手紙も悪う無いかもな」

 それに、今度は渚沙が慌ててしまう。

「ごめん、弘子おばちゃん、無理せんで。私、おかしなこと言うてしもうた」

 すると弘子おばちゃんは、また「わはは」とおかしそうに笑った。

「何言うてんの。そんなん渚沙ちゃんが気にすることちゃうで。渚沙ちゃんは私ら家族のこと考えてくれたんやろ? まったくなぁ、紗江子さんの時から「さかなし」には心配掛けてしもうてなぁ」

 弘子おばちゃんは次には苦笑する。渚沙はお祖母ちゃんの代からよくここに遊びに来ていて、弘子おばちゃんのこともそのころから知っているが、ふたりの間であったこと全てを知っているわけでは無い。

 何かあったのだろうか。しかしそれは今は関係無い。今度聞く機会もあるだろうか。

「私、弘子おばちゃんが元気無いん嫌ですもん。弘子おばちゃんも息子さんもお嫁さんも、みんながみんなを思ってんのに、すれ違うてしもてる感じがするんよ。お嫁さんの思い込みが少し強いんやったら余計に、落ち着いて話とか聞いてもらえる環境が要るとちゃうんかなぁって」

「そうやなぁ。それやったら確かに手紙はええかもなぁ。私と息子が無理せんとて言うたかて、話し終わらんうちに大丈夫やて言われるんよ」

「それやったら、息子さんと一緒に書かはるんもええかもやね」

「そうやな。ちょっと話してみるわ。ありがとうなぁ、渚沙ちゃん」

「ううん、巧く行くとええね」

「そやね」

 弘子おばちゃんは肩の力が抜けた様に微笑んだ。

 ・

 「さかなし」閉店後、いつもの様に訪れた茨木童子と葛の葉。渚沙が弘子おばちゃんにお手紙をすすめたことについて話すと、葛の葉は興味無さそうに「ふぅん?」と気だるげに肘を付いて、日本酒のグラスを傾けた。

「葛の葉さんが言うてくれたやつですよ?」

「そうやったかしらねぇ〜」

「気になりません?」

「べぇつにぃ〜。見も知らん人間がどうなってもねぇ〜、わたくし知らんし〜」

 そうだった。葛の葉は妖怪だった。妖怪は人間とは在り方が違う。常識も違う。人間相手の様に話せても、寄り添うことは無いのだった。

「あ、でも渚沙ちゃんは別やでぇ。困ったことがあったら助けたるでぇ〜。一宿一飯の恩があるしねぇ〜」

 葛の葉はそう言って、ゆったりと魅惑的に笑った。渚沙はついどきっとしてしまう。美人の微笑は目の保養である。

「ありがとうございます」

 実際のところ一宿一飯どころか、もう何宿何飯なのか分からないぐらい、葛の葉たちはここでお酒を飲んでたこ焼きを食べているのだが。まぁ細かいことは言うまい。恩を感じてくれているだけでも御の字である。

「葛の葉は相変わらず人間には興味が無いのだカピな」

「そりゃあねぇ〜。おもしろい人間ならともかくねぇ〜。あ、童子丸はさすがに別やでぇ」

「しっかし、まぁ、その弘子ばばぁ? ってのも、渚沙みてぇな小娘の言うこと聞くなんざ、よっぽど困っとったんやろうなぁ」

 茨木童子の口の悪さに、渚沙は「ばばぁ言うな」と突っ込む。普段は砕けているとはいえ、茨木童子たち相手には丁寧語を使う渚沙だが、突っ込む時はほぼ脊髄反射なことも多いため、丁寧語は崩れてしまうのである。

「みんなが優しいからこんなことになってるんですよねぇ。ほんまにええ感じになってくれるとええんですけど」

「そんなもんかねぇ。お、たこ焼き、キムチ入っとるやん。渚沙、ようやった」

 どうでも良さげに言いながらたこ焼きを口に入れた茨木童子は、途端に嬉しそうに頬をほころばせた。

「朝買い物行った時に買うて来ました。竹ちゃんも食べる? キムチ入りたこ焼き」

「うむカピ。茨木、感謝するカピよ」

「何言うとんねん竹子たけこ、買うて来たんも金出しとんのも渚沙や無いかい」

「その渚沙の世話をしているのは竹子カピ」

「家事はお願いしとるけどな。助かってるわ。葛の葉さんはどうします? キムチ入りたこ焼き」

「口臭が気になるからやめとく〜」

 何とも美意識の高い妖怪である。綺麗を保つコツを聞いてみたいものだ。実現できそうには無いが。

「ほなキムチ入りたこ焼きの追加、焼いて来よか」

 渚沙は缶ビールを片手に立ち上がった。


がんばります!( ̄∇ ̄*)