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エスカレーターと合理的利他主義
コロナ禍のころ、フランスの思想家ジャック・アタリの「合理的利他主義」が注目された。合理的利他主義とは、利他主義が自分の利益になる合理的な選択である、という考え方だ。将来の世代といった他人のために行動すれば、長期的に見ると自分に利益をもたらす。他人にした親切は巡りめぐって自分に戻ってくる。いうなければ、「情けは人のためならず」である。
アタリ氏によれば、いまの資本主義社会では「自分さえ良ければ
下向きの自己啓発書とアナキズム
「下向きの自己啓発書」と僕が勝手に読んでいるジャンルがある。
一般的にビジネス書や自己啓発書は上を目指す人が読むものだ。日々の努力を欠かすことなく、さらなる上を目指そうと、優れた経営者の思考法やノウハウを学ぶ。偉人の人生を追体験し、己の心を奮い立たせて、仕事のやる気を高める。仕事や勉強を効率化するための本は、書店にたくさん並んでいる。
けれども、下向きの自己啓発書は真逆だ。がんばらなくて
下からのウォーク・キャピタリズム
二〇一九年の東京大学の入学式、社会学者の上野千鶴子さんが、受験競争を勝ち抜いた新入生たちを前にして、こんな祝辞を述べた。がんばったら報われると思えることこそ、あなたの恵まれた環境のおかげだった。だから、あなたたちの恵まれた環境と能力を、自分ひとりが勝ち抜くためだけに使うのではなく、恵まれない人々を助けるために使ってください、と。
この反響と反発を巻き起こした上野さんの祝辞を思い出したのは、ある新
これがほんまの犬死やなあ
むかし上岡龍太郎と笑福亭鶴瓶がやっていた『パペポTV』というテレビ番組があった。二人がフリートークをおこなう番組なのだが、そのなかで上岡さんが若手時代に見た、上方のお笑い芸人の話が面白かった。リアルタイムではなく再放送とかで見たと思う。もう一度観たいと思っていたが、なかなか見つからなかった。
上岡さんが亡くなられたとき、過去のインタビューがネットに再掲載されていたのだが、そのなかで同じ話をして
マガジンを定期購読されている方へのお詫び
マガジンを定期購読されている皆様へ
丸善京都店「逆張りくん」の本棚選書リスト
昨年、『「逆張り」の研究』(筑摩書房)の刊行記念として、丸善京都店でブックフェアを行いました。「逆張りくん」として影響を受けた本を20冊を選び、コメントをつけています。フェアは終了したのですが、そのままにしておくのは持ったないので、ここに載せておきます。よろしければ、ぜひ読んでみてください。
1 長濱一眞『近代のはずみ、ひずみ: 深田康算と中井正一』(航思社 2020年)
逆張りは差異化する
異世界転生しないホリエモン
ひろゆきは異世界転生する。しかし、ホリエモンは異世界転生しない。この点にふたりのキャラの違いがもっとも表れている。
たしかに両者には共通する感覚がある。どちらも集団の不合理なルールが大嫌いだ。
少し前、ホリエモンが「寿司職人が何年も修行するのはバカ」と発言して、炎上したことがあった。寿司屋で下積みする必要はない。専門学校で集中的に勉強したほうが効率良く技術を習得できる、と。こういう発言の背
自利利他を実現するバザール
(前回からの続き)
資本主義はさまざまな集団を解体していく。その最果てにあるのが、フリーエージェント社会である。
2001年に出版された『フリーエージェント社会の到来』という本がある(邦訳は2002年)。著者であるダニエル・ピンクは、クリントン政権下でスピーチライターを務めていたが、家族と過ごす時間を増やすためにフリーエージェントとして独立した。すでにアメリカ人の四人に一人がフリーエージ
集団に謎ルールが残り続ける理由
(前回からのつづき)
どの集団にも謎ルールが存在する。謎ルールとは、集団のほとんどのメンバーが嫌がっているにもかかわらず、なぜか存続しているルールのことだ。ぼくが勝手にそう呼んでいるだけなのだが。とはいえ、みなさんもこの理不尽な謎ルールに苦労した経験があるんじゃなかろうか。
たとえば、会社であればサービス残業、学校であれば下級生へのシゴキ……などなどだ。なんのメリットもない。意味もない。や
利己を利他に変える「見えざる手」
(前回からの続き)
アシュリー・バビットという退役軍人の女性が銃で撃たれて死亡した。2022年1月、トランプ大統領の支持者たちが選挙の不正を訴えて連邦議会議事堂に乱入したが、彼女はそのひとりだった。ドナルド・トランプが小児性愛者の人身売買ネットワークと戦っているという「Qアノン」と呼ばれる陰謀論を信じていた。死後、彼女は殉教者のように扱われた。議事堂前では献花がおこなわれ、彼女の誕生日にはト
金持ち編集者 貧乏編集者
ぼくが編集者として働き始めたころ、まったく異なるタイプの先輩の編集者がいた。ひとりは金持ち編集者、もうひとりは貧乏編集者と呼ぼう。
ぼくは左派系の集まりやイベントによく顔を出していた。そこで出会ったのが貧乏編集者だ。いわゆる人文書にはリベラルや左派的な考えを持つ人が多い。しかし、そのなかでも一目置かれているぐらいの硬派な編集者だった。
分厚くて難しいゴリゴリな本をかっこいいデザインで出版した
悪意は言葉の問題でもある
言葉は別の意味をほのめかすことができる。世界に悪意が満ちているように見えるのは、言葉そのものに原因がある。
京都の老舗のうどん屋さんで、ある文学研究者とごはんを食べたことがある。その研究者は東京出身で、京都に来たというだけでテンションが上がりまくっていた。店内には洛中洛外を描いた古い京都の地図が貼られていた。その研究者は指を指して、「このあたりに谷崎潤一郎が住んでいたんだよ!!!」とおおは
冬休みの日記①12/15、16
12/15(金)
今日から大阪に帰省する。
朝、出発の準備をしていると、同居人の女性が財布を取り出して、二万円を渡そうとしてくる。「なにこれ?」と聞くと「こづかいだ」というので、ちょっと笑ってしまった。
「ヒモみたいだ!」と感動しながらも、遠慮して受け取らず。新幹線に乗ったあたりで、やっぱり受け取っておくべきだったか、と悔やむ。
福岡のとらきつねさんのトークイベントのついでに帰省することにした。