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編集のプロはどんな本を選ぶ?大人の読書感想文。|エディマート座談会『5人の本』

こんにちは!エディマートのありまです。
 
先日、入社2年目の織茂(おりも)による新企画『エディマートお茶会』がスタートしましたね!
皆さん、読んでいただけましたでしょうか?

▼『エディマートお茶会』の記事はこちらから!

 さて、もうすぐ夏休み!という今月は第二弾!エディマート座談会『5人の本』をお届けします♪
 
今回は、『編集のプロはどんな本を選ぶ?大人の読書感想文。』というテーマで、大人の読書感想文におすすめしたい本について先輩方にお話しいただきました。

 ファシリテーターを務めたのは、入社一年目のありまです。エディマートには大学4年時にアルバイト入社。学生時代の一番好きな課題が読書感想文でした!

 それでは、編プロ社員のイチオシに触れる座談会『5人の本』、スタートです。 

▼前回の記事はこちらから!

『編集のプロはどんな本を選ぶ?大人の読書感想文。』で集まった5冊の本は…

――今回セレクトいただいた本の紹介をお願いします!

きとう:僕が持ってきたのは『一流の死に方(講談社/井上裕之)』。発行されたのは2014年だけど、僕が買ったのは超最近。著者の井上さんは、歯科医院の理事長をしている方で、若いころにコピーライティングの勉強をされていたのだとか。
 
帯に「54人の最期から学ぶ一流の生き方」と書いてあるように、54人の人物の最期に関するエピソードや言葉などが一冊にまとめられているというのが本の内容。
 
54人のなかにはスティーブ・ジョブズや吉田松陰、ダイアナ妃、ジョンレノンといった名だたる人物もいれば、著者の知人や身近な人といった一般人もいて、「情熱」「使命」「勇気」「共感」「貢献」「好奇心」「品格」というキーワードをもとに章立てがされているのがポイントかな。

みずの:私が選んだのは『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話(タバブックス/ヤマザキOKコンピュータ)』
 
著者は投資家・文筆家のヤマザキOKコンピュータさん。バンドで活動しながらライブハウスで働いた経験などをもとに、パンクの視点からお金について発信している方です。
 
タイトルの通り、これはお金の価値や投資について書かれている本。投資って聞くと、「どうやってお金を増やすか!」みたいなイメージを持たれるかもしれませんが、そんなギラギラした内容ではなく(笑)。「お金に対する価値観を見直してみませんか?」という提案をしてくれている一冊です。

ほった『ノルウェイの森(講談社/村上春樹)』は、皆さん知っていますよね?1987年に発行された村上春樹5作目の小説で、巷では「100パーセントの恋愛小説」「中でも直喩を用いた表現は、日本文学に新たな風を吹き込んだ」なんて紹介がされています。
 
上下巻に分かれていて、主な登場人物は主人公のワタナベとその親友であるキズキ、そしてキズキの彼女である直子です。3人は高校時代によく一緒に遊んでいたのだけれど、ある日突然キズキが自殺をしてしまう。その後しばらく疎遠だったワタナベと直子は東京で再会し、付き合うことになるのだが…というのが物語の流れです。
 
村上春樹の作品の特徴かもしれませんが、ストーリーが重要というよりは登場人物たちの心境や言葉、空気感が独特で、好きな人はとことんハマると思いますね。

すざき:私が選んだ『ペンギン・ハイウェイ(KADOKAWA/森見登美彦)』は、少年がひと夏を過ごすSFファンタジーで、アニメ映画化もされた作品です。
 
主人公は小学校4年生の男の子、アオヤマ君。彼が住んでいる郊外の街に、突然ペンギンが現れるところからお話が始まるんです。登場人物に、アオヤマ君があこがれる歯科医院のお姉さんがいるのですが、どうやらそのお姉さんがペンギン出現の謎に関わっているらしい!ということが分かり、アオヤマ君がその謎を研究していくという物語です。
 
面白いのは、「ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである」という最初の一文。確かに利口な子なのですが、読み始めからクスっと笑えちゃいます(笑)。

もりなが:私が紹介するのは『キッチン(新潮社/吉本ばなな)』です。物語は、早くに両親を亡くした主人公が、ずっと一緒に暮らしていたおばあちゃんも亡くなったことで突然独りぼっちになってしまった、というところから始まります。
 
一人になった主人公は、おばあちゃんがよく通っていたお花屋さんで働く男の子とその家族との同居をスタート。この男の子の家庭が少し複雑なのですが、彼らと過ごすことで悲しみの中にいた主人公が少しずつ前に進んでいくんです。
 
血のつながらない人たちが一緒に生活をすることで成り立つ家庭も、ひとつの家族の在り方だよね、というのを投げかけてくれています。何回読み返しても、「私がこの世で一番好きな場所は台所だと思う」という冒頭の一文が印象的ですね。

――学生時代に、夏休みの課題として読書感想文を書いた経験があるかと思うのですが、感想文を書くのは得意(好き)でしたか?それとも苦手(嫌い)でしたか?

きとう:僕は苦痛だった。本は好きで読むけれど、なぜ感想を書かなければいけないのか毎回疑問に思っていたよ。あとがきや帯に書かれていることを集めて、パズルのように組み合わせながら書いていた記憶があるね。当時から編集者気質だったのかな(笑)。
 
みずの:私は学生時代から文章を書くことが好きだったので、特に苦手意識はなく、好きでした。ただ、感想文のために提示される課題図書って大体小説ですよね。私は昔から小説を読み切るのが苦手で、エッセイやショートショートのような短編を題材にすることが多かったです。
 
ほった:僕は好きでも嫌いでもなくて、得意でした。あらすじを参考にストーリーを書いて、最後に少し感想を付け足すという方法で進めれば、原稿用紙3枚なんてすぐに埋められる!と思っていたし、実際にそれで提出していたんです…。図書館に通って、あらすじがより詳しく書かれた本を探していましたね(笑)。
 
すざき:私は読書感想文、好きでした!感想文だけじゃなくて、読書感想画も好きでしたね。どんな風に書いていたのかは思い出せないですけど褒められた記憶があって、ただ楽しんで取り組める宿題だったかな。
 
もりなが:感想文を書くのは得意な方だったと思います。小学校中学年くらいまでは、思いをうまく言葉にできないもどかしさを感じる苦痛な課題だったのですが、高学年の頃に学校代表に選ばれて表彰されたことをきっかけに「あれ、これ面白いかも」とやりがいを感じるようになったんです。その後、大学の文学部に進むくらい国語も文章を書くことも好きになりました(笑)。
 
ありま:ありがとうございます。好きだった・得意だったという方が多いですね!苦手な人には嬉しい読書感想文の攻略法も聞けたところで、選んでいただいた一冊の魅力を聞いてみましょう!

『編集のプロはどんな本を選ぶ?大人の読書感想文。』に選んだ理由は?

「一流の死に方(講談社/井上裕之)」

きとう:文章を読む側の視点で考えてみると、個人の価値観が現れている読書感想文って面白いと思うんだよね。なかでも死生観について述べられた本の感想には、読んだその人の考え方がはっきり現れるだろうという意味で、この本をセレクト。今までとこれからの生き方に考えを巡らせた僕ならではの感想文が書けるんじゃないかな。

実際に54人のエピソードを読んで分かったのは、何か素晴らしいものを残して死ぬ人は、死の直前までめちゃくちゃ自分らしく生きていたということ。死に向き合うことは、どう生きるかを改めて考え直すことなんだと再認識できてすごくよかった。
 
ただ、家でこの本を見た息子に「父さん大丈夫?」って聞かれて、家族がざわついてしまった(笑)。
 
すざき:確かに、このタイトルはざわつきますよ(笑)。
 
ほった:付箋めっちゃ貼ってありますしね(笑)。

ありま:感想文で取り上げたい、特に印象的なエピソードはありますか?
 
きとう:「使命」をキーワードにまとめられた第2章のエピソードかな。「使命を軸に据える生き方であれば、『この人生を歩んできてよかったな』と満足感をもって世を去ることができます」という言葉があるのだけど、うつ病で苦しんだある看護師さんが著者のアドバイスを受けて、苦痛の原因であった仕事における自分の使命を探し出し、その後はいきいきと前向きになったのだとか。
 
結局、自分がなぜこの世に生を受けて、何のために生きているかなんて、僕自身もだけど、分からないんだよね。けれども、「なぜ」「何のために」を自分で決めることで、残りの人生を満足に生きられると提言してくれている。
 
じゃあ、編集という仕事に携わる僕の使命って何だろう?というのは、悩みながら考えているところ。

「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話(タバブックス/ヤマザキOKコンピュータ)」

みずの:小説を読んで感想文を書くのが苦手という考えは大人になった今も変わっていません。小説ではない、自分に何かしらの影響を与えてくれた本を題材にしたいなと思って、この本を選びました。

「その本を読んで自分の考えがどう変わったか」とか「自分の行動に何か変化が起こったか」といった視点なら、物語じゃなくても感想文が書けると思って。
 
本の中では、主にお金の話がされています。私は結構お金に無頓着で、「貯金・投資をしよう!」と意気込んで自分から積極的に動くタイプではなかったのですが…ある日、この本に「このままではあなたのお金はなくなる」と警鐘を鳴らされて(笑)。自分は何にお金を使いたいと思っているのか、ちゃんと考えてみるきっかけになったんです。

特に自分の考え方に変化をもたらしたのは、「あらゆる買い物に意志を乗せる」という見出しで始まるお話。例えば、全く同じ商品を買うにしても、コンビニで買うのと地元の慣れ親しんだ商店で買うのでは「買う」という行為に伴う気持ちが違いますよね。
 
「この商店が好きだから」「ここの味が好きだから」といった自分の意志で商品を選ぶことで、その買い物が自分にとって意味のある行為だと自覚できる。ささいなことですけど、大きな学びだったんですよ。そんな自分の中の大きな発見・気づきを感想文としてまとめてみるのもいいのかなって。
 
ありま:確かに小説ではなくても、学びや気づきをもとに素敵な感想文を書けそうですね!
 
みずの:誰かの実体験をもとに書かれていることが多いエッセイやハウツー本の内容は、現実的に想像しやすくて、自分の共感につながりやすいのかもしれない!

「ノルウェイの森(講談社/村上春樹)」

ほった:自分が一番向き合ってきた本って何だろう?って考えた結果、選んだのが『ノルウェイの森』。小学生のときに出会ったものの、当時の自分には到底難しくて読み進められず。中学生になってようやく上下巻を読み切ったとき、初めて小説って面白いと思えました。
 
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」というのが、この小説の大きなテーマ。というのも、物語の中で主人公の周りの人の多くが自殺をしてしまうのですが、主人公だけは生きることを選ぶんですね。なぜ彼の周りの人々は「死」を選び、なぜ彼だけ「生」を選んだのかが明確に書かれていないところが、この本の面白いところ。
 
「どうして?」の部分が書かれていないので、読者それぞれの解釈が生まれますよね。僕自身、何回読んでも分かったような分からないような不思議な感覚を味わって、想像が膨らむんです。読書感想文って、ほかでもない自分の感じ方を文章にするものだから、人によって捉え方が変わる本で書くと面白そうだなって思いました。

この物語は、ワタナベ君が死んでしまった直子を忘れないように書き始めた文章という設定なのですが、冒頭で彼は「僕がまだ若く、その記憶がずっと鮮明だったころ、僕は直子について書いてみようと試みたことが何度かある。でもそのときは一行たりとも書くことができなかった」と言っています。

そして、そのすぐ後に「でも今はわかる。(中略)そして直子に対する記憶が僕の中で薄らいでいけばいくほど、僕はより深く彼女を理解できるようになったと思う。」と綴られているんですよ。
 
読書感想文って大抵、それを書くために本を選び、読み切ったらすぐに感想を考えますよね。でもそれって必ずしも正解じゃないなって、ワタナベ君の言葉に触れて気づきました。年を重ねると、自身の考え方にも周囲の環境にも変化が生まれる。ある程度記憶が風化されてから、感情を思い出すように書く文章っていうのも価値があるし、より感慨深いものができあがるんじゃないかなって。
 
ありま:実際に感想文を書くとしたら、冒頭一文目はどんな言葉で書き始めますか?
 
ほった:え、難しいこと聞くね。うーん、「僕は否定する」とか?意味深な一行でグッと読者を引き付けようかな(笑)。

「ペンギン・ハイウェイ(KADOKAWA/森見登美彦)」

すざき:今回この本を選んだポイントのひとつは、夏休みの読書におすすめしたいという点。読書感想文=夏休みというイメージですが、実は私、大人になっても夏休みがすごく好きなんです。
 
ありま:夏休み、ないですよね…?
 
すざき:うん(笑)。大人になると夏休みがない。だからこそ、もう味わえない夏休みにどうしようもなく惹かれる気持ちがあって、夏は特に、小説に限らずアニメや映画を通してノスタルジーを感じられるような物語に触れたいって思うんです。
 
『ペンギン・ハイウェイ』の、少年が冒険や淡い恋を経験しながらひと夏を過ごし、成長していくというストーリーはまさにノスタルジーを感じる!

すざき:読書感想文を書くときって本をしっかり読み込みますよね。それって、図らずも物語の理解を深めるきっかけになる。その点で、ちょっと不思議な物語『ペンギン・ハイウェイ』は、読めば読むほど面白さを理解できて、感想文を書くこと自体を楽しめるんじゃないかなと思います。
 
もりなが:特に好きなシーンや印象深かった言葉はありますか?
 
すざき:「ぼくらはだれも死なないんじゃないかな」という言葉。アオヤマ君のクラスメイト、ウチダ君が自分の研究について話すシーンがユニークで好きでした。

人は死んだらどうなるんだろうとか、この道はどこにつながってるんだろうとか、子どもの頃に感じた恐怖や高揚感がよみがえるシーンが物語の中にはたくさん散りばめられているんです。

大人になって忘れてしまっていた感情に再び出会わせてくれるのは魅力的ですね。今、感想文を書くなら、最大限子どもの頃の心に返って読み直せるこの本だ!って思ったんです。

「キッチン(新潮社/吉本ばなな)」

もりなが:初めて読んだのは大学生のとき。当時は、家族をなくした主人公が突如始まった同居生活を通してゆっくり立ち直っていくという穏やかなストーリーに、特に大きな感動も共感もなかったんです。
 
ですが、最近読み返してみたら、同居人である同世代の男の子のお母さん(実はお父さんですが…)の言葉がすごく心に染みたんです。10代の頃は何も感じなかったのに、今になって「ああ、そういうことか」って理解できたエピソードや言葉があって、そんな自分の感じ方の変化を感想文にしてみたいと思いました。
 
特に影響を受けたのは、「本当にひとり立ちしたい人は、なにかを育てるといいのよね。子供とかさ、鉢植えとかね。そうすると、自分の限界がわかるのよ。そこからがはじまりなのよ」という言葉。昨年から一人暮らしを始めたのですが、実家にあった小さい木を持って家を出たんです。独り立ちしたい!と思って(笑)。
 
ありま:もしかして、以前お話しされていたパキラですか?
 
もりなが:そうそう!朝礼で「いま育てている植物、育てたい植物」について雑談したよね。
 
きとう:いい朝礼だね。楽しそう(笑)。

もりなが:サボテンすら枯らしてしまうほど植物を育てるのが苦手でしたが、この機会にひとつ小さなことを頑張って続けようと決意して、パキラは今でも枯れずに成長しています。
 
10代の頃はさらっと読み流していた、何かを育てるといいというお話が今の自分にすごく響いて、何回も読み返すほどお気に入りのページになりました。大人になった今だからこそ、登場人物の温かみを強く感じ、理解できる言葉がたくさんあるのでおすすめです!

今回の学びと特に気になる一冊は…

学生時代を振り返りつつ、今だからこそ書ける大人の読書感想文についてお話いただいた今回の座談会。
 
どうしたら本と自分の考えをより魅力的に表現できるか、皆さんが真剣に考えて選書してくださったことが伝わってきて、感想文ってこんなに深かったんだ!?と驚いています。
 
文章を書くということは、自分であれ他人であれ、誰かの思いを伝えること。

皆さんのお話を文章に書き起こしながら、
”書く”お仕事をさせていただいている以上は、どんなときも何かを伝えたい人の思いに真摯に向き合わないと!と背筋が伸びる思いでした。
 
今回私が特に気になった一冊は、「キッチン」です。作中の言葉で生活に変化が現れるって、すごく素敵だな~と思いました!
 
皆さん、心惹かれた本はありましたか?
今年の夏は、少し子どもの頃の心に返って大人の読書感想文を書いてみてはいかがでしょうか。

取材・執筆:有馬虹奈

写真:スタジオアッシュ(太田昌宏)

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