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<喫茶ヘバナ>と「なら場」の話。〜タイル塗りワークショップに参加しました〜

2024年3月20日、水曜日。春分の日。八戸のまちは、今年最後(と、思いたい)のべちゃ雪。このあたりでは、春彼岸のあたりにひどいベチャ雪が降ることを「彼岸じゃらく」と呼んでいて、どんなに春らしい天気が続いてもそれが訪れるまではなんだかんだ油断がならないことをみんな知っている。

そんな彼岸じゃらくのまっただなかに向かったのは、春に移転オープン予定の<喫茶へバナ>のタイル塗りワークショップ。古びた床材を撤去する際に、捨ててしまうのではなくペイントして貼り直したらアップサイクルにもなるし可愛いのではないかというアイディアから生まれたイベントらしく、午後の部に参加するため私が訪れた頃にはもうすでに半分ほどが8色のカラフルなタイルで埋め尽くされていた。

午前の部のみなさんが頑張って半分終わらせてくれていた。

色の並びに規則性はなく、「同じ色が隣り合わないように」とだけルールを決めてそれぞれが場所を譲り合い、色を譲り合い、一枚いちまい色の濃さも向きも違うのに、不思議とまとまりのあるレトロ感の可愛らしいタイル。これのもう半分を私達で。少しだけ、緊張感に背筋が伸びる。(いつもは猫背がひどいのだ)

外は雪が降る中、午後の作業開始。

そもそも<喫茶ヘバナ>とは? という話だが、そちらはミノリさんの記事をぜひ読んでもらいたい。簡単にだけ説明させていただくと、今回作業をしているこの店舗で、33年間もの間、地域の人々に愛されてきた<せんべい喫茶>が閉店したことを受け、そのコミュニティを絶やしたくないという思いから生まれた、ミノリさんをはじめとした八戸市の若者が中心となって運営する喫茶店しかり、<せんべい喫茶>から引き継がれた地域コミュニティといったところだろうか。ワークショップで多くの人の手によってカラフルに塗られていく床材は、<せんべい喫茶>が営業していたときのものだという。

塗ったタイルを乾かしてくれるプロの背中。
プロの技、美しさにも乾き方にも違いが出ていた。

<喫茶ヘバナ>のことを考えると、思い出す言葉がある。哲学者の永井玲衣さんと三木那由他さんが「弱さの哲学」という特集で対談した際のことだ。

永井 「こそ場」は唯一無二で、こここそ私の存在がちゃんとアピールできる場であり、私はここにしかいられない。もちろんそれが大事な場合もあるんですけど、「なら場」というのはもう少し曖昧な、ここなら大丈夫だなとか、ここなら何か合っても誰かに言えたり、座り続けることができるなという場です。

『群像』第77巻第10号/講談社

コミュニティの形はたくさんあって、いきいきと輝けるコミュニティもあれば、リラックスを求めて生まれたコミュニティもある。永井さんが言う「こそ場」は唯一無二という場所で、それが見つけられたときの喜びはきっと計り知れないものだろう。しかし自分にとっての「なら場」はきっとひとつじゃなくてもいい。それどころか「なら場」をたくさん見つけることが少しだけ人生を楽に生きるコツなのではないだろうか。これが、彼女たちが「弱さ」について思考を深めるなかで、私がもらったヒントである。

タイルを塗りに来てくれた<せんべい喫茶><喫茶ヘバナ>の常連さん。

ついに私が行くことのないまま閉店してしまった<せんべい喫茶>は、お客さんのほとんどが常連さんで、かつ70代以上という少し閉鎖的な場でありながら、若者や民宿に泊まる県外の方をも受け入れるしなやかさがあり、懐かしく心地の良い場所だったと聞いている。

<喫茶ヘバナ>のミノリさん。最後のタイルを塗っている。

本日のタイル塗りワークショップではプロの力も借りながら、午前の部は親子連れや若者たち、午後の部には地域の方も来てくださり、多くの人々が思い思いにタイルを塗り、カラフルな床を完成させた。居場所を提供するだけではない。みんなで参画し、みんなで居場所をつくっていく。

<せんべい喫茶>から引き継がれ、また、新しくつくられていくコミュニティがすでに<喫茶ヘバナ>にはあった。

ペンキを踏んで足跡をつけてしまった。塗り直しはせず、このままで。(本当にいいのか!?)

ここからは、本当に私の主観だけの話になるが、先ほど話したみんなとは国籍も年齢も出身も性別も、なにもかも関係ない。ふらっと顔を出したら、誰かしらが知り合いで、そうじゃなかったら今日から知り合い。そんなふうにして仲間が増えていくが、あくまで一人ひとりが自由だ。<喫茶ヘバナ>を運営するメンバーにはそんなどっかりとした寛大さと、面白いくらいのゆるさや自由さがあると私は思っている。どうにか「なら場」を探そうといつももがいている弱い私にとって、そこはとにかく居心地が良いのだ。

私にとって「なら場」のひとつになりつつある<喫茶ヘバナ>は、八戸の、そして私以外の誰かにとっての「なら場」にもきっとなるのだろう。
そんな嬉しい予感に、春が待ち遠しい。


<喫茶ヘバナ>はオープンに向けてクラファンを実施中。
そのほか、不要家具等も募集中とのこと。よかったらチェックしてみてください。

▼喫茶ヘバナInstagram


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