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生ドーナツはなぜ「おいしい」のか科学的に分析してみた
生ドーナツがおいしい。
口に入れる瞬間にとろける「ふわしゅわ食感」についついハマってしまう。
でも、普通のドーナツと生ドーナツは、一体なにが違うのか?
そのおいしさを科学的に分析してみたら、生ドーナツの未来が心配になってきた。
「生ドーナツ」はなぜおいしいのか?
生ドーナツの火付け役と言えば、生ドーナツ専門店「Iʼm donut ?」だ。
先日、もうさすがに流行りも落ち着いただろうと「Iʼm donut ?」の原宿店に足を運んだら、朝から大行列ができていた。
若者カップルや、外国人旅行者などの、明らかに原宿めいた人たちはもちろん、妙齢のマダムや紳士まで、あの「ふわしゅわ食感」に魅了されている。
生ドーナツは、まだまだ人気だ。
![](https://assets.st-note.com/img/1719872107004-0I4PSvaMSk.png?width=1200)
そもそも「生ドーナツ」とは、いったい何者なのか。
I'm donut?によると、「生ドーナツ」とはこういうものらしい。
数種類の小麦と丸ごと焼いたカボチャを練り込んで仕込んだ生地を長時間低音熟成発酵させて、高温で一気に揚げることで、モチモチとしていながら、口の中で”ふわしゅわ”と溶けるような新しい食感と出会った。
「生ドーナツ」は、よくある普通の「イーストドーナツ」とは別物だ。
口の中に入れると、すぐに溶けてなくなる。
よく夏祭りで出会う「わたあめの親戚」なんじゃないかと、疑ったこともあるが、どんなに怪しんでも、「生ドーナツ」のベースは粉。
言うほど不思議なモノじゃないから、ますます不思議だ。
***
大きな特徴は、フランスの大人気菓子パン「ブリオッシュ」の生地を採用していること。
特徴を整理すると、こんなかんじだ。
・ベースには、ブリオッシュ生地を使用
・つなぎには、オーブンで焼いた皮つきのカボチャを使用
・長時間低音熟成発酵をする
・高温で揚げる
![](https://assets.st-note.com/img/1719872468180-GAGV9IAFyb.png?width=1200)
「生ドーナツ」と「普通のドーナツ」の違い
「生ドーナツ」は、見た目は「イーストドーナツ」と変わらない。
イーストドーナツもふわふわしていておいしいが、口の中でとろけない。
生ドーナツ独特の「生感」は、ブリオッシュ生地に由来する。
***
ブリオッシュとは、フランス発祥の高級菓子パンのひとつ。
世界最大のイーストメーカー「ルサッフル社」によると、その配合バランスは以下のとおりだ。
【ブリオッシュ】
フランスパン専用粉(強力粉と中力粉の間の準強力粉)を100%とした場合の原料の割合は以下。
牛乳:40%
全卵:30%
バター:30%
砂糖:15%
塩:2%
イースト:1.5%
発酵種(任意で)
通常のイーストドーナツの配合バランスと、ちょっと比べてみてほしい。
【通常のイーストドーナツ】
強力粉と薄力粉を100%とした場合の原料の割合は以下。
牛乳:50%
砂糖:12.5%
卵黄:10%
バター:5%
塩:1.5%
イースト:0.5%
大きく異なるのは、バターとたまごの量だ。
特にバターは通常のイーストドーナツが5%のところ、生ドーナツは30%も入っている。
名古屋文理短期大学の論文(※1)によると、バターがたくさん入ったパンは、弾性率が高い。
弾性率とは、変形のしにくさを表す言葉で、指で大きく押しても変形せずに元に戻りやすいことをあらわす。
これが、生ドーナツの「ふわしゅわ食感」の源だ。
でも、誤解してはいけない。
世の中に出回る「生ドーナツ」すべてが、ブリオッシュ由来だというわけではないのだ。
「生ドーナツ」の「生」の意味には2種類ある
生ドーナツには、大きくわけて2種類ある。
➀専門店系(I'm donut?など)
→生っぽい「食感」が感じられるドーナツを「生」と呼んでいる
(ブリオッシュ生地を使用)
➁コンビニ系(ヤマザキパン、ファミリーマートなど)
→生クリームが入っているドーナツを「生」と呼んでいる
(生クリーム入りの生地を使用)
生ドーナツ専門店の「生ドーナツ」は、その多くがブリオッシュ生地を使っている。
一方、ヤマザキパンやファミリーマートなどの「生ドーナツ」は、真ん中に生クリームを入れたり、生地に生クリームを練り込んだものが多い。
多い…というだけで、ルールがないので、むずかしい。どの「生ドーナツ」もおいしいが、やっぱりちょっと違うので、好みは分かれる。
問題なのは、どちらも同じ名前で売られているということだ。
「バター〇%以上じゃないと『生』と記載してはダメ」「生クリーム〇%以上じゃないと『生』と記載してはダメ」などという、食品表示基準で決められた定義があるわけではない。
シンプルに言って、ややこしい。
***
実は「生」は、食品表示基準上少々やっかいな単語である。
例えば「しょうゆ」のパッケージには、安易に「生」と記載できない。
「生(なま)しょうゆ」と表示してもいいのは、火入れをしていないしょうゆだけだ。
食品表示基準には、以下のような、なかなかに理解が難しい長文で説明されている。
【しょうゆの表示禁止事項】
「生き」(「生引きびき」の用語を除く。以下この項において同じ。)、「生なま」又は「生引きびき」の用語。ただし、次に掲げる用語を除く。一 本醸造方式によるもの(セルラーゼ等の酵素によって醸造を促進したものを除く。)であって、規則別表第一に掲げる添加物を使用しないもののうち、食塩以外のものを添加していないものについての「生き」の用語
二 火入れを行わず、火入れの殺菌処理と同等な処理を行ったものについての「生なま」の用語
三 たまりしょうゆの本醸造方式によるものについての「生引きびき」の用語
このしょうゆの例と比べたら、ドーナツはだいぶ甘やかされている。
「生」が使い放題なのは、やっぱりすごい。
***
コンビニの「生ドーナツ」と言えば、ヤマザキパンの大人気商品「極生ドーナツ」だ。
「極生ドーナツ」は、そもそもバターを使っていない。中にたっぷり入った生クリームが主役で、生地は脇役。
「極生ドーナツ」を略さずに言えば、「極めて生クリームがたくさん入っているドーナツ」と言うことになる。
![](https://assets.st-note.com/img/1719874417781-RZI4eiXr3L.jpg)
名称:ドーナツ
原材料:
生クリーム入り牛乳クリーム(国内製造)、小麦粉、ショートニング、ミックス粉(小麦粉、砂糖、でん粉、マーガリン、パン酵母、油脂加工品、生クリーム、発酵種、ぶどう糖/グリシン、膨張剤、加工デンプン、乳化剤、糊料(増粘多糖類)、セルロース、酢酸Na、香料、リン酸塩(Na)、カゼインNa、イーストフード、酸味料、甘味料(ステビア)、酸化防止剤(VE)、カロテノイド色素、グリセリンエステル、VC(一部に乳成分・卵・小麦・大豆を含む)
ブリオッシュ生地を使ったバターの配合が多い「ブリオッシュ系生ドーナツ」も生クリームの配合が多い「生クリーム系生ドーナツ」も、両方「生ドーナツ」であることにちがいない。
さらに言えば、食品表示基準が変更されない限り、今後もまたぜんぜん違う「生ドーナツ」が生まれる可能性も、もちろんある。
「生ドーナツ」に未来はあるのか
「生」という言葉には、とても不思議な魅力がある。
だから食品によっては、「生」をつけて売ることが禁止されている。
前述した「しょうゆ」だけでなく、「トマト加工品」、「果実飲料」、「豆乳類」、「にんじんジュース」など。(※2)
「生」がついていたら、食品表示基準違反なので注意が必要だ。
実際、「生ドーナツ」は売れている。
ヤマザキパンのドーナツ事業の売上は前年比112.9%で好調だが、この理由は「生ドーナツ」の力が大きい。
ドーナツ (450億円、112.9%)
主力品に加え、新製品「生ドーナツ」等、順調。コンビニエンス向けも好調。
![](https://assets.st-note.com/img/1719874703191-nQsDhtawKa.png?width=1200)
「生ドーナツ」が売れれば売れるほど、「生」とは何を指しているのか、疑問に思う人も多くなるかもしれない。
「ブリオッシュ系生ドーナツ」が食べたい人は、「生クリーム系生ドーナツ」を買って、がっかりするかもしれないし、もちろんその逆もありえる。
状況から察するに、そろそろ「生ドーナツ」も規制が入ってもおかしくない。
やっぱり「生」は売れる。
個人的には、「生ドーナツ」の未来が心配だ。
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