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実写版アラジンの「アラビアンナイト」をイタリア語の歌詞で読んでみる:Notti d’oriente/Aladdin

吹き替え版ディズニー映画で育ち、英語版ディズニー楽曲で義務教育期を過ごし、イタリア語版ディズニー楽曲翻訳というものの存在に気付いた者なので、語学ブログをするならいつかはディズニー関連の記事も書きたいなぁと思っていたのですが、季節もよくなってアプリゲーム『ツイステッドワンダーランド』のジャミルくんPUガチャで完敗した心の傷が癒え始めたため、そろそろ「アラビアンナイト」に取りかかりたいと思います。

イタリア語版「アラビアンナイト」
「Notti d’oriente」を和訳してみる

 日本語版ではアニメ映画『アラジン』の冒頭を飾る曲「アラビアンナイト」に、英語版の「Arabian Nights(アラビアンナイツ)」をカタカナで踏襲したタイトルを付けているのですが、イタリア語版では「Notti d’oriente(ノッティドリエンテ)」となっていて、その意味するところは「オリエントの夜々」です。
 よくスパイシーな香水の香りなんかを「オリエンタルな」って表現したりしますが、イタリア語の「オリエンテ」もこれと同じです。ざっくり「東洋」くらいの意味で、ヨーロッパから見てすぐ東側にあるペルシャだとかトルコだとか、その向こうにあるインドだとかのイメージを指していることが多い語ですよね。イタリアはシルクロード交易の西側の国として、東洋の富をヨーロッパへもたらした港をいくつも持っていたので、オリエントと聴けば『アラジン』の冒頭で描かれるバザールで取引されているような品々と、それらがもたらす快楽や栄華が思い浮かぶのかも知れません。
 ちなみに中国や日本もヨーロッパからすると東側ですが、ここまでくると「Estremo Oriente(エストレーモオリエンテ)」となって、極東と表現されて区別されます。

 ではそろそろ歌詞の方に取りかかるのですが、せっかく実写映画という最新版があるので、そちらのバージョンを訳してみようと思います。

C’è una magica terra
Dove il tempo è sospeso
Carovane vanno su e giù

魔法の土地がある
そこでは時間も宙吊りで
キャラバンが行き交う
C’è un deserto immenso
Un calore intenso
Ehi è caotico, ma io ci vivo laggiù

広大な砂漠がある
激しい熱さ
まぁ混沌としてるけど、俺はそこで生きてる

 最高ですね、めっちゃ好き。
 英語版と日本語版では、どちらも「遠いところにある国」の描写から歌い起しているのですが、イタリア語版では「遠さ」の描写ではなく「Dove il tempo è sospeso(時間が宙吊りになっている場所)」という表現が入っています。このsospeso/a(ソスペーゾ/ソスペーザ)という形容詞は、いわゆる「宙に浮いている」状態を示すことばで、ぶら下げられているだとか、なにかが延期になっているだとか、ものごとが不確かに宙ぶらりんになっていることを示します。魔法の物語っぽいですね。
 あと「Un calore intenso(激しい熱さ)」っていうのも好きポイントのひとつです。男性名詞caloreは単に「」を表すことばでもあるんですが、熱狂だとか情熱だとかを示して使われることもあるので、ここから始まるのがアラジンとジャスミンのラブストーリーだと思えば、その狂おしく燃える若い心の熱さが思われて、最高です。

Brilla il sole da Sud
Soffia il vento da Nord
C’è un’intensa complicità

太陽は南から輝き
風は北から吹き付け
強い共犯関係がある
Stare fermo non potrà
Sul tappeto ora va
Nelle notti d’oriente andrà

留まることはできないだろう
今往く絨毯の上で
東洋の夜々のなかへ進むだろう

 ここのcomplicità(コンプリチタ)という語なんですが、これは共同で罪を犯した人達の間にある関係を指すことばなので、共犯関係という訳に間違いはないはずです。強烈な自然環境のなかに土と煉瓦で壁を作って生み出された人間の領域としての街の、後ろ暗くてミステリアスな巷の香りがしますね。

Tra le strade scoprirai
Favolosi bazar
E il profumo ti inebrierà

路のはざまで見つけることだろう
おとぎ話のようなバザールを
そして香りがきみを酔わせる
Troverai ciò che vuoi
Spezie, seta e poi
Cardamomo e taffetà

欲しいものを見つけられるよ
スパイス、絹、それから
カルダモンにタフタ織り

 ここね~!!!!!!!!!
 ここまではずっと私でもあなたでもない人の話をするために使う三人称で話を進めてきたんですが、ここから二人称、つまりアナタの話として歌い始めるんですよね~!!!!!!!!
 さっき絨毯に乗ってオリエントの夜々に入っちゃったので、もうアナタがおとぎ話のようなバザールのなかにいるんです。人称からそれが分かるんです。命の危険を冒してでも手に入れたいと冒険者まがいの勇敢な商人たちが憧れた品々が、無造作になんでも売られているバザールのなかに、あなたがいるということを前提にして、歌が進んでいくんですよね~!!!!!!!!!! 好き!!!!!!!!!

Quella musica che
Entra dentro di te
Non potresti scordarla mai

きみのなかに入り込む
この音楽を
もう忘れることはできないだろう
Prima o poi non saprai
Né chi sei né che fai
In quel sogno ti perderai

遅かれ早かれ分からなくなるさ
きみが誰なのかも、なにをしているのかも
この夢のなかで己を失うだろうからね

 ぐいぐい韻を踏んでくるのが気持ちいいですね。
 アルファベットの方の行の最後を見ていくと、上からche(ケ)とte(テ)、その下もずらっとmai(マイ)、saprai(サプライ)、fai(ファイ)、perderai(ペルデライ)とaiの音が揃っています。

Le notti d’oriente
Tra le spezie e i bazar
Son calde lo sai
Più calde che mai
Ti potranno incantar

東洋の夜々
スパイスとバザールのはざま
暑さは知っての通り
空前の暑さが
きみの心を奪うだろう

 ここからがサビですね。
 ちょっとイタリア語と日本語を対応させると、語順が前後しちゃうので不自然になってるんですが、ここのフレーズの基礎になっているのはLe notte ti ptranno incantare(夜々はきみを魔法にかけることができるであろう)で、そこに情報がいろいろ差し挿まれてる感じですかね。ことばの並びを日本語に寄せると「スパイスとバザールのはざまで、知っての通りに今までにないほどの暑さの東洋の夜々は、きみに魔法をかけることができるであろう」になるはずです。
 最後のincantar(インカンタール)は、魔法にかけるという意味の動詞で、そこから転じて幻惑するだとか、魅了するだとか、心を奪うだとか、相手をうっとりぼーっとした状態にすることを指しても使います。

Le notti d’oriente
Immerse nel blu
Ti sanno eccitare
Sedurre e stregare
Come vuoi tu

東洋の夜々
濃紺に沈んでいる
きみを唆し
魅惑して魔法にかけられる
きみの望む通りにね

 英語でブルーというと青色のことですが、イタリア語blu(ブルー)は紺色に当たります。青色はazzurro(アッズーロ)ですね。ちなみに水色はceleste(チェレステ)で、意味は水の色ならぬ空の色です。
 ここも日本語の語順に寄せて並べ直してみると「紺色のなかに沈んでいる東洋の夜々は、きみが望んでいるように、きみを唆し、魅了して、魔法にかけることを知っている」になります。

C’è un confine irreale
Tra il bene ed il male
Attento alla strada perché

存在しない境界がある
善と悪のあいだには
道に気を付けよ、なぜならば
Ce n’è una che va
Verso l’avidità
E la scelta dipende da te

熱望のほうへ向かう
女がひとりいる
選択はきみ次第だ

 待ってました、真打登場!
 ここで出てくるuna(ウナ)は「あるひとりの女性」くらいに思っていただくとニュアンスが掴みやすいと思います。数字のuno(1)と似ていることから、なにか「1」が関わっているのかも……と、ピンとくる方もいらっしゃりそうですね。

Soltanto uno può entrare qui
Colui che cela in sé il proprio valore
Il diamante allo stato grezzo

ここへ入ることができるのはただ一人
己の価値をそのなかに隠している者
ダイヤモンドの原石のみ

ここは砂のトラが語るセリフですね。
ちょっと古雅な印象の単語も使われています。
このね、ダイヤの原石っていう表現が幼心にめちゃくちゃ好きで、ツイステを始めたときにはジャミルくんの手を取りました。

Le notti d’oriente
Sono pura poesia
Di un mondo che
Ti attira a sé
Tra sabbia e magia

東洋の夜々
それらは純然たる詩
ある世界が
きみを惹きつける
砂と魔法のはざまに

 関係代名詞が入ると、やっぱり日本語とイタリア語の構造の違いが際立ってきますね。ここも入れ替えを行うと「東洋の夜々は、砂と魔法のあいだにきみを惹きつける世界についての純粋な詩だ」くらいの文章になります。
 よく英語の先生も「後ろから前に訳すんだよ!」って言いますよね。言うのかな。私は言われたんですけど、英語は最後まで得意になれませんでしたわ。

Le notti d’oriente
Con la luna nel blu
Non farti abbagliar
Potresti bruciar
Di passione anche tu

東洋の夜々
紺色のなかの月とともに
目を晦まされてはいけない
燃え尽きてしまうだろう
きみもまた情熱に

 ここは「紺色のなかの月とともにある東洋の夜」っていう言いっぱなしの名詞部分と、「目を晦まされてはならない」っていう禁止命令(non+動詞の不定詞)と、「きみも情熱で身を焦がしてしまうだろう」の3つのパーツに分かれていますね。

ありがとう、disneymusicitVEVO
ディズニーからイタリア語を味見できます

 好きだからという理由で英語の楽曲に親しんでいらっしゃる皆さまに、同じくらいの気軽さでイタリア語にも触れていただけるようになれば、同好の士が増えて人生のハッピー度が増すのではないだろうかという狙いから、こつこつnoteを更新しております。

 イタリア語もえぇやんと感じてくださったディズニー好きの皆さまにおすすめなのが、YouTubeのアカウントdisneymusicitVEVO(チャンネル登録者数 18.7万人)。
 あの曲もこの曲もイタリア語バージョンでお楽しみいただけます。

 ほかにもイタリア語の曲が充実していて嬉しいのはSpotify
 こちらでもディズニーの曲がイタリア語で楽しめます。

 イタリア語版の「ホールニューワールド」は「Il mondo è mio(イルモンドエミオ)」というタイトルで、意味は「世界は私のもの」です。

 多言語で音楽を聴くことができると、物語に広がりが生まれてめちゃくちゃグッとくることがあるので、もうイタリア語とか置いておいてもいいからオススメです。
 とくに「なんで英語なんて勉強してるのか分かんない」って思っている中高生さん、やっておいて損はないです。将来的になんのオタクになるか分かりませんし、沼ったジャンルによっては語学がバフになります。基礎だけ固めておきましょう。いつか未来の自分がその上に築城します。

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