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生命保険の全体マップを描いてみる

生命保険業界に関する記事も随分と貯まってきたので、ここで業界の全体観を示す記事でも書いてみようと思う。

キーワードは「ボーダレス化」「インフラ化」「原点回帰」である。

ボーダレス化

法改正により「金融仲介業」というジャンルが生まれ、本業の生命保険会社ほど厳しい規制を受けなくても、生命保険を販売する機会が得られるようになった。

すなわち、顧客と金融機関をマッチングさせる部分に特化することで、事実上自分たちの顧客に金融サービスを提供できるようになったということだ。

これは金融に興味のある業界からすると、初期投資費用をおさえることに繋がる。あわせて進むのが、仲介業者による金融機関の選別である。

規制ビジネスとして限られたプレイヤー間の競争となっていた生命保険業界が、金融仲介業者という「ビジネスパートナーかつ顧客」の存在によって環境が大きく変わることになった。

インフラ化

意向に従う必要も出てくると予想されるが、そのときにビジネスパートナーが望むものは「シームレスな顧客体験と世界観の提供」である。

自社の都合だけを考えるシステム設計は終わりを迎え、生命保険会社の名前が表に出ることは少なくなるだろう。

銀行窓販が盛り上がっていた時、私の祖母は「銀行の人に勧められたから貯蓄(元本保障)だと思った」といった誤解をしていたことがあった。

正確には銀行の人間が生命保険会社の人間を帯同して訪問していたのだが、一般人にはそんな区別がつくはずもない。そのため、「ここから先は生命保険の話」というのを明確に示すことが重要な訳だが、前述のとおりそのような状況も変わってゆくだろう。

電気・ガス・水道のように、生命保険会社も「存在を意識しないが、実はいつも側にいる」インフラのような存在になってゆくだろう。

原点回帰

「貯蓄性保険はダメだ」「節税のための保険なんてけしからん」というのが最近の潮流のようだ。

保険の本義は保障であり、そこを訴求してゆくのが重要である、という考えは金融庁のさまざまな通達からも示されている。

保障に向き合うとはどういうことか。保障性商品の周辺情報にアンテナを貼り、多角的に理解を深めてゆくことだと私は思っている。

すなわち、社会保障のカバーできる/できない範囲を調べること。保険からお金が支払われた後の人々の生活をできるだけ鮮明にイメージしておくこと。物価高など、生活面の変化一つ一つが生命保険に加入する人々の心理にどんな影響を及ぼすのかをリアルに想像しておくこと。

そんな積み重ねが分厚いストーリーとなって語りに説得感をもたらすのだ。アニメやドラマの脚本家は、作品内で明示されていない細部や設定を膨大に書き込んでいる。

世界観を作るとはそういう表に出ないところの作り込みをするということで、それが「なんとなく心動かされるなぁ」という感覚で相手に伝わるのだ。

おまけ

生命保険会社機関投資家としての側面がある。お預かりした保険料を運用してゆくのである。ホリエモンは「生命保険なんかいらねぇ」という論者だが、投資家としての生命保険会社についてはその影響力の強さを認めていた。

投資関連でいえばバブル時代に保険会社は大量の不動産を買っていた。銀座なんかは典型だが、一等地というのは一度握ってしまうと徹底的に維持することでひたすら利益がもたらされる。

俗にいう既得権というやつで、個人で持っていれば相続税で持っていかれることもあるが、法人の持ち物だと人の寿命をはるかに超えて引き継がれてゆく。

資産家が不動産を法人名義にする心理とは、財産所有の永続性を確保するためなんだなぁ、としみじみと思った。

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