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現場と研修の乖離をいかにして埋めるか

多くの社内研修担当者が頭を悩ませることの一つに、「研修が現場の人間から評価されない」というものがある。

研修を開くのでこの人たちを数日間参加させてください、と声をかけると、大体の所属長からは「この忙しい時期になぜそんなことを言うのか」と渋い顔をされる。

で、参加してもらってアンケートをとると、「まあまあ良かった」という空気を読んだ回答がなされ、職場に帰っても研修前後で特に働きぶりに変化は見られない。

研修の間もどちらかというと「日々の殺伐とした仕事から距離を置いて息抜きできる」といった空気感が漂っていて、どことなく緊張感に欠ける。

開催者と参加者の人件費を考えるとバカにできないコストがかかっているはずなのだが、なぜこんなことになってしまうのだろうか。

私見だが、みんなが真剣に研修に取り組む最も簡単な方法は、参加者たちの所属の改善すべき点を挙げて、対策をみんなで考える研修にすることである。

締め切りに追われまくってなかなか中長期的な目線で考えられない場所から距離を置いて、思考のフレームワークなどを取り入れながら頭を柔らかくする。

この方法のメリットは研修の成果を職場に持ち帰ることができることだ。研修や海外留学で新しい視点を学んだ人間が、職場で知識を活かす場所が全然ないせいで転職してゆくという話を聞いたことがないだろうか。

学んだことを即実践できるならば、研修を役に立たないという人間はいなくなるはずである。

では、なぜそのような研修をしないのか。主催者である人事部に、各所属の改善点を提案するノウハウがないからだ。

自社の業務と人材開発の理論を掛け合わせたら、それ自体が貴重な育成ノウハウになるのに、人材開発の理論だけ掘り下げて「現場では使えないけど学びにはなった」というアンケート結果を報告する。

100種類のフレームワークを知っている研修担当と、自社の仕事を知り尽くしていて5種類のフレームワークを駆使しながら実際に問題解決してきた研修担当、どちらのほうが話を聞いてみたいだろうか。

研修担当者が情報収集に勤しむべきは社内の実態調査ではないだろうか。

抽象論ばかり振りかざしていてもしょうがないので、私の仕事に引きつけて考えてみよう。生命保険の事務は入口・中間・出口の3段階あり、それぞれで全く性質が異なる。

入口にあたる新契約は、現在販売中の商品の事務をしっかり対応することが使命である。変な話だが、売り止めになった商品のことは忘れてしまってもそこまで支障はない。

一方で中間・出口にあたる保全や保険金は様相が全く異なる。この領域は一度加入した保険が解約や減額、転換などを繰り返して形が変わった後の保障を相手に事務をしなくてはいけない。

もちろん過去に発売して契約が残っている商品も全て対応しなくてはならない。予想外の事象が起きやすく、バリエーションも無限大なので、深い専門性が求められる。

営業フロントと最も密な関係を持つのは新契約であり、顧客接点でもあるので進化圧がかかりやすい。イノベーションの最先端は大体新契約からである。

思想観の違いはデータの取り方にも表れていて、簡単に言うと新契約はどんどん過去データを捨ててゆき、保全や保険金は長期間データを保管する傾向がある。

3者の違いを簡単に述べたが、これらを一気通貫で考えた時に、さらなる進化を図るにはどうすればよいだろうか。

例えば、新契約が捨てているデータの中には、保全・保険金からすると宝の山と思われるデータが含まれるかもしれない。そこを掘り起こして連携できないか。

逆に、現在保全や保険金で取っているデータの中には、営業活動に使えるデータが救われているのではないか。それを保全や保険金領域だけに使うのは勿体無いのではないか。

シナジーをもたらすためのボトルネックは何なのか。データ形式の不揃いか、使っているシステムの使用の差異か、それとも人の先入観さえ取り除けばすぐにでも実行できるのか。

各自が自身の経験や知識を持ち寄りあってぶつけ合えば、それは研修を開催する部署にとっても蓄積に繋がるはずである。

ちなみに、イノーベーションを旗印に上げた研修であれば、競争の要素は絶対に取り入れるべきだと思う。

スプラトゥーンが任天堂の社内コンペで勝ち上がった末に生み出されたというのは有名な話だ。

ゲームの大枠が決まった後も「これってキャラはマリオたちにしとけばよくね?」という指摘があり、死ぬ気で考えた末にあのイカのキャラクターが生まれたという。

それはさながら社内で殺し合いをしているに近く、そんな過酷な状態で磨かれたからこそあれだけのビッグタイトルになったのだ。

こんなことを書くと「社内事情に偏ったノウハウでは汎用性がなくなってイノベーションに繋がらないのでは」という反論が飛んでくるかもしれない。

では、トヨタのカンバン方式は何なのだろうか。あれはトヨタ自動車の社内ノウハウが世界的な標準として昇華されている。

社内事情に偏ったノウハウだと感じるのであれば、それは普遍的な要素の抽出が足りていないだけだと思う。

大切なものは意外とすぐそばにあるのである。

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