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父母の記録

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父母の覚悟を見届けた。記録しておかなければ。
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#幸せな老後

記憶を失っていく、それでいい

記憶を失っていく、それでいい

≪失っていく過程≫

施設に何年もいることになった母は自宅に帰りたがった。父は「帰ってどうするだ」といさめていたが、父だって帰りたかった。母は「おじゃんぼん(葬式の方言)で帰れる」と言って諦めていった。その後、父に言われたのか帰りたいと言わなくなったのが却って哀れであった。
遠方で働いていた私は医師を辞めて帰ることも考えたが、地元にいた兄が亡くなったばかりであり、兄の妻もがんで入退院を繰り返してい

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「幸せな老後」は考えないほうがいい

「幸せな老後」は考えないほうがいい

「幸せな老後」なんて考えないほうがいい。どうあれば幸せかなんて思い始めるのが不幸の始まりだ。紙に書きだすなんて最低だ。足りないものがたくさん見つかるし、10年後生きているかもわからない。「生きている、たぶん」程度。
カチャーセンターに毎日行けば、2000万円の貯金があれば、孫がかわいければ、幸せというわけはない。
カルチャーセンターで自信作が最低評価だったり、買ってきた卵が全滅だったり、孫はよりつ

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「幸せな老後」はうさんくさい

「幸せな老後」はうさんくさい

父母が介護施設に入ることを決定づけた出来事があった。母はベッドに寝ていたが、夜間トイレまで歩いていくことが困難となり、寝室にポータブルトイレを置いていた。朝その処理をするのが父の役割になっていた。
ある夜、母はベッドと壁の隙間にはまり込んでしまった。私の夢を見て、ねぼけて、子供の私に布団をかけようとしたという。私は、こたつでも、廊下でも、畑でも、どこでもすぐ寝てしまう子供であった。
母ははまり込ん

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