見出し画像

読書記録:完璧な俺の青春ラブコメ 1.ぼっち少女の救い方 (ファンタジア文庫) 著 藍藤 唯

【地味な努力は見せないポリシー、完璧を超えた先にある青春】


【あらすじ】

成績・運動共にトップのイケメンが送る、ハイスペック青春ラブコメ!

『少女漫画から出てきたイケメン』『何をやらせても出来る男』

勉強・運動共にトップであり、全校生徒憧れのカリスマ的存在――そんな完璧な評価を維持する為、日々隠れて努力する高校生・五代涼真。
クラスメイトと良好な関係を築きながら、”完璧”である為に他人に深く干渉せずグループにも所属しない彼はしかし、とある理由から困っている人間を無視できない性格だった。

そんな涼真はある日、真面目過ぎたためにぼっちになったクラスメイト・木下みなみの本音を耳にする。

ポリシーを曲げてみなみを助けようとする涼真がこの青春で得るものとは――。

あらすじ要約

文武両道で、全生徒の憧れの的である涼真は、陰の努力の中で、真面目過ぎた故に孤独となったみなみを救う物語。


湖を泳ぐ白鳥は、優雅に泳いでいる様に見えるが、水面下では必死にバタ足をしている。
ハイスペックな能力を有する涼真はそんな信念の元で、級友達と完璧な関係を築いてきた。
誰かの問題に首を突っ込んで破滅した父を反面教師にして。
そんな彼が信念を曲げてまで救いたいと思えたみなみ。
彼女を孤独の淵から救う中で。

能ある鷹は爪を隠すを言うように。
ハイスペックというのは天然で保てるパターンは少なく。
その裏で様々な努力が行われる。
そして、ハイスペックと言えど、またまだ発展途上な若い年頃であるからこそ、成長の余地は残されている。

「少女漫画から出てきたイケメン」。
「何をやらせても出来る男」。
それが涼真に与えられた周囲の評価。
その評価に恥じない勉強、運動共にトップであり全校生徒の憧れを集める。
その評価を守る為、日々隠れて努力を重ねる。

何故、そこまで頑なに自分の中の理想を守ろうとするのか?
それは、忌まわしさすら覚える早逝した父親との因果にある。
クラスメイトとは良好な関係を築きながらも、一線越えないポリシーを守りながら。
そんな日々の中、彼は真面目過ぎて孤独になってしまった級友、みなみの憔悴を目にしてしまう。
己のポリシーを曲げてでも、彼女に関わる事を決める。

大嫌いなお人好しの父親のようにはなりたくはない。
だからこそ、他人に深入りはしない。
いつものように、立ち直らせたら離れる事を予め決めておく。
彼女に友人を作らせ、クラスに馴染ませるべく。
まずは、勉強を教えてもらうという名目で懐に入り込む。
自分のペースに巻き込む事で、彼女が自分自身を変える一助となっていく。

そんな日々は、完璧で在り続けた涼真にとっても好ましい物で。
いつの間にか、彼女自身のその実直さに惹かれていく。
その本心を期せずして知る事で、恋心を発芽させるみなみの想いの裏で、涼真は自分が現状に浮かれる事のないように自戒して、気を引き締める。

そして、みなみもまた、級友でありみなみにとっては恋敵となる少女であり、有名インスタグラマーの如月亜衣梨から自分の今の立ち位置を思い知らされる。
亜衣梨自身も同じように救われた者として、その最後に待っている結末を提示されて。
己の分を弁えさせられる。
そんな人知れず苦悩する彼女に、涼真の悪友である雑賀尚道も気にかけてアドバイスをくれる。


真面目すぎるが故にクラスで孤立しているみなみに寄り添って、彼女の魅力を引き出して、クラスに溶け込めるようになっていくように働きかける。
完璧超人による日陰者を人気者にする為のプロデュース。
その行動によって、涼真自身もまた不器用でも真っ直ぐなみなみに感化されて、自分の在り方を見つめ直していく。
ハイスペックすぎる涼真は、発する言葉がやりすぎなくらい過激な事がしばしばあったが。
そのぐらい、自分の中で揺るがぬ軸を持っている証左でもある。

その力は敢えて寄り添い、手を貸して本人に気付かせる為だけに使って。
みなみ自身が自らで、選択して、成長していく手助けをする黒子に徹する。
彼女の本来ある魅力を引き出すのが自分の仕事。
あくまでも、「手を貸す」スタンスで寄り添っていき、そんな彼の薫陶を受けて自分の本心に向き合い、変わっていくみなみ。

完璧であろうとする強迫観念は、自分に対して期待を持ちすぎて理想が高いのと、完璧でなければ、他人に愛される資格がないと無意識に思い込んでいるからだ。
しかし、常にスーパーマンのように理想を体現出来る者などいない。
誰にだって浮き沈みがあり、不器用に失敗してしまう事もある。

自分に甘すぎるのも考え物だが、ちょっとしたミスをいつまでもクヨクヨと引きずって自分を許せないのはもっと良くない。

涼真自身が影の努力家であるからこそ、みなみの真面目すぎるが故の苦悩も痛いほどに理解出来て。
困っている人に対して、損得勘定なく、手を差し伸べて行動出来る事。
それは、塗り固めた完璧な姿よりも、よっぽど素敵な事で。

涼真は血の滲む自己研鑽の末に、オーバースペックを手に入れたが、苦悩している者を見過ごす事が出来ず、数多の損な役回りをしてきた。
世渡り下手で、要領も良くない。
だからこそ、「完璧」を目指すのだが。
報われない努力をひたすら続けるのは、ある種の虚しさと寂しさが伴う。
しかし、真面目で自分に対して努力する事を惜しまないみなみが、恋を知って可愛いに磨きをかけていく姿を間近に見る事で。

やっと、待ち望んだ努力の報酬を手にする。
恋する乙女はいつか強き乙女となる。
それは、不器用ながらも自分にとっての芯があるからこそで、互いが模範となる良い関係を築くきっかけとなる。

だが、最後とばかりに涼真から届けられた母親との和解のチャンス。
それすらも押し付け、涼真からすれば終わった過去として受け入れる予定だった。
しかし、みなみはそれは嫌だと突き付けた。
自分の偽らざる本心を伝えて、あなたの傍に並べる自分になるからその時には、ちゃんと応えて欲しい、と告白を告げる。

それは、今まで困った人を救ってきた涼真の結末とは、違ったパターンで。
必要以上に他人に踏み込まないのが、過去から得た教訓だった。
その予想外の展開は、期せずして己の強迫観念に縛られていた涼真を、逆に救ってしまう。

自分に科した呪いとポリシー、それらを越えて芽生える新しい感情。
理想的でなくとも、自分自身を許してくれる存在に出会う事。

完璧な自分でなくとも愛される資格があると気付けたのだ。




この記事が参加している募集

読書感想文

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?