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書評・レビュー(最新)

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2024年7月の記事一覧

タコから考える知性――池田譲『タコの知性 その感覚と思考』(朝日新書)

イカの研究者であり、最近はタコも研究している琉球大学の池田譲によるタコ研究の最新動向を紹…

海老原豊
3か月前
5

ここに人間はいません――藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う。』(幻冬舎文庫)

小説の体にはなっているが、実質的にナンパのマニュアル本。橘玲『裏道を行け! ディストピア…

海老原豊
3か月前
7

つながりっぱなしの世界に切ないセカイはあるのか?――北出栞『「世界の終わり」を紡…

画期的なセカイ系論。この本の出版により、セカイ系という概念は歴史化されたと言えるのではな…

海老原豊
3か月前
3

私たちの脳がスマホになる――アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(新潮新書)

思っていたよりまともな(まじめな)本であった。「〇〇脳」という言葉には、つい警戒してしま…

海老原豊
3か月前
6

文学批評の6つの立場――小林真大『「感想文」から「文学批評」へ――高校・大学から…

本書は6つの批評的立場を歴史にそって紹介し、そのうえで批評のもつ役割(可能性)を説く。 …

海老原豊
3か月前
10

思想は言葉で、言葉は運動し、運動は思想を形づくる――笛美『ぜんぶ運命だったんかい…

筆者・笛美は2020年にTwitterでかなりバズったハッシュタグ「#検察庁法改正に抗議します」を作…

海老原豊
3か月前
3

嗚呼、憧れと焦りの日常系YouTubeーー青田麻未『「ふつうの暮らし」を美学する』(光文社新書)

あまり美学系の本は読まないが、「日常美学」なる枠組みで「日常系vlog」についても分析していると知り、手にとって読んでみた。むちゃくちゃ面白い。そもそも「美学とは何か?」という話から入り、学問として定義された美学から、いかに日常や、日常にあふれる感覚的なもの・親しみ深いものが分けられて来たか(ありていにいえば、追い出されてきた)が説明される。その上で、「ふつうの(平凡な)」日常を、美的感覚を見出す機会と捉え直す機運が、現代美学にあると紹介される。という大きな見取り図を提示され

人間でない人間、人間である人間――上田早夕里『華竜の宮』(ハヤカワ文庫JA)

日本SF大賞受賞作。短編「魚舟・獣舟」の世界を舞台にした上下巻ある長編小説。 ホットプルー…

海老原豊
3か月前
1

子供が生まれなくなった惑星で――新井素子『チグリスとユーフラテス』(集英社文庫)

名前は知っていたが読んでいなかった作品。もっと早く読んでいればよかった、と思うほどに未読…

海老原豊
3か月前
2

苦しみの解像度を上げる――ぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます 苦悩する…

非モテ=モテない人(主に男性)を指す。ただ非モテの定義は思った以上に難しい。モテる・モテ…

海老原豊
3か月前
6

語りたくない語りにくいことを丁寧に語る――杉田俊介『マジョリティ男性にとってまっ…

筆者の前著『非モテの品格』に続く男性論2冊目。フェミニズム、ジェンダー、クィア、メンズリ…

海老原豊
3か月前
15

依存症モデルのヒトは創造性を失いつつあるのか?ーー藤田直哉『現代ネット政治=文化…

本書は、筆者がここ10年くらいで各種媒体(論壇誌、研究会、新聞など)で発表してきたネット、…

海老原豊
3か月前
6

市場主義が拡大していく現代社会ーーマイケル・サンデル『それをお金で買いますか』早…

『これからの「正義」の話をしよう』で一時期話題になったマイケル・サンデルが市場主義の道徳…

海老原豊
4か月前
5

2種類のポストヒューマン――間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』早川書房

語り手(名前が明かされることはない)は、ひらがなを多用したクセのある文章で、自分の「かぞく史」を語る。母は、自分の誕生とひきかえに命を落とし、父は認知症になり死ぬ。年の離れた兄ひとりと姉ふたり。語り手は「融合手術」を受けたことで不老不死となり、ひとりまたひとりと自分の前から消えていく家族について話す。といっても、「家族との心温まる話」があるわけではない。語り手が融合手術を受けようと思ったのは「自殺装置」を使って自殺しようとしたところ、医者に止められたからだ。「語り手」は父親か