海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

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  • 『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』

    新刊(単著)『ディストピアSF論――人新生のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)の内容を紹介していきます。

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人類が地球外の文明を見つけられない理由ーーフェルミのパラドックスと6つの仮説

Big Thinkの動画Why haven’t we found aliens? (Brian Cox)を見た。 フェルミのパラドックスーー私たちの宇宙は広くて古いが、なぜ地球以外に文明は存在しないのか?ーーへの6つの仮説を概説している。 ①地球希少仮説:隕石や超新星爆発など危険な宇宙にあって、生命が細胞から文明に進化するのに十分に長い時間、安定してた地球はユニークであり、宇宙広しといえども、めったにない。 ②消滅した文明仮説:文明は勃興し、滅亡している。宇宙の時間規模

    • なくした日記と消えないSNS

      身辺雑記を書こうと思っても、何が身辺雑記かわからず、なかなか進まない。ふだんの書評やら評論やらと別に、もっとリラックスして、私個人の「人となり」がわかるようなーーそしてできれば何かメッセージがあるようなーー面白い読み物でも書ければ良いのだが。欲張りすぎか。だから書けないのか。昔はよく日記を書いていたな、何を書いていたかな、と思い返してみた。 たしかに、日記はよく書いていた。中学生のころにB5サイズのノートに、せっせと日記を書いていた。たぶん本や漫画の感想とか。書いた内容で覚

      • 見事に言語化されたなんとなくの経験知――北村紗衣『批評の教室』ちくま新書

        シェイクスピアを専門とし、武蔵大学で教鞭をとる筆者・北村紗衣による批評入門『批評の教室』。「教室」と題している通り、本書を読みながら3つのステップを踏めば批評をアウトプットできる作りになっている。 そもそも批評とは何だろう? 読者が、作品に触発され思考が動き、「感想」以上の作品分析を生み出したいという思いから発した言葉のことだ。価値づけも含まれてくる。一見、作品に対して自由に思うことを述べたものと思われるが、良い批評として成立するためには、いくつかの注意点がある。筆者は①精

        • 文学批評の6つの立場――小林真大『「感想文」から「文学批評」へ――高校・大学から始める批評入門』小鳥遊書房

          本書は6つの批評的立場を歴史にそって紹介し、そのうえで批評のもつ役割(可能性)を説く。 当たり前だが、歴史的な話なしに批評とは何かを語っても「車輪の再発明」的な展開になってしまう。本書が6つに分けた批評的立場は非常にクリアで、この分類がすべてではないにしろ、本書がターゲットとする高校生や大学生が文学批評を知るには十分なものだ。私自身が大学生の頃にこのような本があればよかったとに、と思う。学生時代に批評それ自体はけっこう読んだが、個別の批評を歴史的文脈に照らしながら体系として

        人類が地球外の文明を見つけられない理由ーーフェルミのパラドックスと6つの仮説

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        • 見事に言語化されたなんとなくの経験知――北村紗衣『批評の教室』ちくま新書

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        • SF評論本『ポストヒューマン宣言』紹介
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          思想は言葉で、言葉は運動し、運動は思想を形づくる――笛美『ぜんぶ運命だったんかい』亜紀書房

          筆者・笛美は2020年にTwitterでかなりバズったハッシュタグ「#検察庁法改正に抗議します」を作った人だ。この本は、広告代理店という男社会(会社)でバリバリ働きながら、このハッシュタグにたどり着いた経緯を語る。 広告代理店はうわさには聞いていたが、超がつくほど激しい職場で、かつ男社会(男性的な価値観で作られている)。そこでやっていくには、女性だろうと男性的な価値観を内面化しなければならない。自分がこれからたどるべきロールモデルが身近になく、仕事のここそこでどこかに違和感

          思想は言葉で、言葉は運動し、運動は思想を形づくる――笛美『ぜんぶ運命だったんかい』亜紀書房

          人間の認知に基づいた合理的な英語学習法ーー今井むつみ『英語独習法』岩波新書

          本書は人間の認知に基づいた合理的な英語学習法を紹介している。 そもそも人間の脳は特定のパターンで世界を認識している。ありのままに見ていることはなく、情報処理の負荷を減らし、なるべく効率よく意思決定できるように、進化の過程で独特な「歪み」を持っている。(詳しくはダニエル・カーネマンの『ファスト・アンド・スロー』参照) 言語を使う時にもこれはあてはまる。私たちは認知的な負荷があまりにもかかることは、無意識で避けてしまう。外国語の習得などその最たるものだ。筆者はスキーマという言

          人間の認知に基づいた合理的な英語学習法ーー今井むつみ『英語独習法』岩波新書

          一緒に未来を考えるメソッドーー宮本道人、難波優輝、大澤博隆『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』早川書房

          SFプロトタイピングで作られるプロトタイプ(試作品)にはガジェット、キャラクター、プロットの3つがあり、これらから未来を具体的に想像=創造することができる。 重要なのは独創的なSF的ガジェットを発明することよりも「他者と未来像を議論・共有する」ことにある。本書はSFプロトタイピングを、主に企業からの依頼を受けて実践してきた人たちが、いくつかの実践事例を紹介しながらその効用を説くものだ。ワークショップやってナンボである。そのアイディアがSF作品としてどう価値があるかよりも、具

          一緒に未来を考えるメソッドーー宮本道人、難波優輝、大澤博隆『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』早川書房

          嗚呼、憧れと焦りの日常系YouTubeーー青田麻未『「ふつうの暮らし」を美学する』(光文社新書)

          あまり美学系の本は読まないが、「日常美学」なる枠組みで「日常系vlog」についても分析していると知り、手にとって読んでみた。むちゃくちゃ面白い。そもそも「美学とは何か?」という話から入り、学問として定義された美学から、いかに日常や、日常にあふれる感覚的なもの・親しみ深いものが分けられて来たか(ありていにいえば、追い出されてきた)が説明される。その上で、「ふつうの(平凡な)」日常を、美的感覚を見出す機会と捉え直す機運が、現代美学にあると紹介される。という大きな見取り図を提示され

          嗚呼、憧れと焦りの日常系YouTubeーー青田麻未『「ふつうの暮らし」を美学する』(光文社新書)

          なぜ夫は妻が頼んだ買い物をこなすことができないのか

          ポリタスTVを見ていたら、津田大介と瀧波ユカリのラジオ回で、「夫が妻の頼んだ買い物をこなすことができない」と話題になっていた。駅前のスーパーで人参を3本買ってくるように頼んだものの、2本入りしかなかったので、買わずに帰ってきた的な(誰かの)エピソードが紹介されていた。スーパーに行って、依頼したものがなければ、電話でもLINEでもいいので依頼主たる妻に連絡をとって、判断を仰ぐか、「2本でもいけるやろ」と自己判断するか。連絡を取ったら「わざわざそんなことを聞かないでほしい」と言わ

          なぜ夫は妻が頼んだ買い物をこなすことができないのか

          来るべき人口減社会と人口調整ディストピア(『ディストピアSF論ーー人新世のユートピアを求めて』小鳥遊書房)

          2024年7月13日の日本経済新聞の広告欄に『ディストピアSF論』の広告が出ました! 日経! せっかくなので買って読んだところ、気になった記事は「老いる世界 人口減早まる/2080年代にピーク 103億人/中国は2100年に半減」というもの。今後、人類は地球規模の人口減社会になる、という話。私の本では「100年後には人口減」としたが、記事では約半世紀後。 人口論の原俊彦も言うように、人口動態の予測はそれなりに正確にでる。長期的なトレンド予測は可能なのだろう。22世紀になっ

          来るべき人口減社会と人口調整ディストピア(『ディストピアSF論ーー人新世のユートピアを求めて』小鳥遊書房)

          人間でない人間、人間である人間――上田早夕里『華竜の宮』(ハヤカワ文庫JA)

          日本SF大賞受賞作。短編「魚舟・獣舟」の世界を舞台にした上下巻ある長編小説。 ホットプルームの上昇による海面上昇。海面が260メートル上昇し、白亜紀(クリティシャス)規模の海の広さになることからリ・クリティシャスと呼ばれるこの地球規模の厄災は、人類文明への試練となった。滅亡の危機にさらされたところで人間同士が急に理解し合えるわけではなく、領土や覇権争いから、分子機械を戦争へ投入し、人間の制御を超えた殺戮の地平(水平線)がそこには出現した。少なくなった陸上と、建設された海上都

          人間でない人間、人間である人間――上田早夕里『華竜の宮』(ハヤカワ文庫JA)

          子供が生まれなくなった惑星で――新井素子『チグリスとユーフラテス』(集英社文庫)

          名前は知っていたが読んでいなかった作品。もっと早く読んでいればよかった、と思うほどに未読状態を後悔もしたが、こんなに面白い本があったのかと知れた喜びのほうが大きかかった。それぐらい傑作。本を読むことを趣味にしていると「これはっ!!」という作品に出会うことが結構むずかしい。名作・話題作はわりと読むし、自分の中での評価のハードルも上がってしまうので、出会いにくい&評価しにくい。のだが、新井素子『チグリスとユーフラテス』を(今さらながらに)知れたので、良かった。 舞台は人類の植民

          子供が生まれなくなった惑星で――新井素子『チグリスとユーフラテス』(集英社文庫)

          苦しみの解像度を上げる――ぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』

          非モテ=モテない人(主に男性)を指す。ただ非モテの定義は思った以上に難しい。モテる・モテないは客観的と言うよりも自分の主観的な判断であえるし、なによりモテる・モテないという「一番わかりやすいところ」に注目されている/しているだけで、問題はもっと根本にあることが多いからだ。非モテを自認する当事者たちが集まって、それぞれの非モテ体験を語り合い、時には研究発表もする非モテ研究会。会の活動報告や研究発表をまとめたのが本書である。 社会で支配的な異性愛の文脈に照らし合わしてみて、自分

          苦しみの解像度を上げる――ぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』

          友/敵を判別する困難――川合信幸『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(講談社現代新書)

          筆者はヒトとその他の動物を比べることで、ヒト(やその他の動物)の心の動き、進化の過程を探る比較認知学の研究者。ヒトに近い類人猿や、ヒトを対象としたさまざまな実験結果の紹介を通じ、サブタイトルにある「なぜ殺し、なぜ助け合うのか」という問いを考えている。 ともすれば筆者の筆致はふらふらして、とらえどころがないように思える。「ヒトはなぜ殺すのか? ・・・だからだ」「ヒトはなぜ助け合うのか? ・・・だからだ」と簡単な答えを求めている読者には、まどろっこしく映る。「メディアが暴力を助

          友/敵を判別する困難――川合信幸『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(講談社現代新書)

          語りたくない語りにくいことを丁寧に語る――杉田俊介『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か #MeTooに加われない男たち』(集英社新書)

          筆者の前著『非モテの品格』に続く男性論2冊目。フェミニズム、ジェンダー、クィア、メンズリブなどの理論書を参照し男性論、男性学、メンズリブの現在地点を照射しつつ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『トイストーリー4』『ジョーカー』などここ10年以内に話題になった映画を男性性という観点から批評もしている。理論&批評の書。 タイトルにもある「マジョリティ男性」と「まっとうさ」を、丁寧に語っていく。必要なのは根気強さだ。 「男女差別は今や過去のものとなり、本当のマイノリティ/

          語りたくない語りにくいことを丁寧に語る――杉田俊介『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か #MeTooに加われない男たち』(集英社新書)

          〈その場所〉で読みたい小説――燃え殻『これはただの夏』

          燃え殻は『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んで、好きになった。 その日は確か、大学時代の友人と品川で飲むことになっていた。私はちょうど飛行機で東京に戻ってきていて、家に帰るのではなく、そのまま約束の品川で降りた。とはいえ時間よりだいぶ早いので本屋をぷらぷらしていたら、ネットで話題になっていた『ボクたちは』を見つけた。酒を飲みながら読みたくなったので友人たちを待つ間、店に入って一人でビールを飲み始めた。読みながら、「これは品川ではない、渋谷だな…」と思ったのだった。本

          〈その場所〉で読みたい小説――燃え殻『これはただの夏』