来るべき人口減社会と人口調整ディストピア(『ディストピアSF論ーー人新世のユートピアを求めて』小鳥遊書房)

2024年7月13日の日本経済新聞の広告欄に『ディストピアSF論』の広告が出ました! 日経!

日経2024年7月13日

せっかくなので買って読んだところ、気になった記事は「老いる世界 人口減早まる/2080年代にピーク 103億人/中国は2100年に半減」というもの。今後、人類は地球規模の人口減社会になる、という話。私の本では「100年後には人口減」としたが、記事では約半世紀後。

人口論の原俊彦も言うように、人口動態の予測はそれなりに正確にでる。長期的なトレンド予測は可能なのだろう。22世紀になって人類が爆発的に増加することはない。人口が減ると、環境負荷も減るだろうが、社会のインフラ・システムを十分に支えられず、各所で様々な問題が生じるだろう。

『ディストピアSF論』で人口調整するディストピアを分析した。調整の動機は人口爆発・環境破壊対策が、星新一「生活維持省」藤子・F・不二雄「定年退食」、少子高齢化対策が、柿谷美雨『七十歳死亡法案、可決』、早川千絵『PLAN75』。山田宗樹『百年法』も高齢化のメタファーだろう。

『イキガミ』は「若者を対象にして命の大切さを理解させる」目的なので、高見広春『バトルロワイヤル』で子供たちに水平に分配された暴力を、国家がランダムに若者に振るっていると読みなおせる。人口増でも人口減でもなく若者の精神が人口調整の動機なのが特徴的だ。

いずれの人口調整ディストピアにおいても、生き残る《私たち》と死に行く《あいつら》の分割線を共同体内部にひかなければならない。そんなことはできるのか? できない。しかし、そうしないと共同体が存続できない時、《私たち》は《あいつら》を共同体からパージする。

星新一「生活維持省」や藤子・F・不二雄「定年退食」では、公平中立なコンピューターが《私たちーあいつら》の分割線を引くという。しかし、公平中立なコンピューターは、成田悠輔の無意識データ民主主義(『22世紀の民主主義』)が不可能である理由と同じ理由で、存在し得ない。


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