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世界最古の物語「ギルガメッシュ叙事詩」

古代シュメールにおいて楔形文字で記された物語であり、その後の様々な説話の元になったと考えられています。原本(当時は粘土板)は既になく、おそらく紀元前3000年ころの成立ではと言われています。過去に読んだ本の中で、様々なジャンルの本がこの「ギルガメッシュ叙事詩」について言及していたので今回読んでみました。最古の物語なので何がオリジナルなのか判明しない面もあるのですが、私は矢島文夫先生が実際に翻訳もされたちくま学芸文庫版を読みました。

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あらすじ

古代ウルという都市の王であるギルガメッシュ(彼は2/3が神、1/3が人です)が、都市の外にいる獣のような自然人エンキドゥ(彼は動物たちと言葉を交わすので、野獣のような人とでもいうべきでしょうか)と戦いの後に熱い友情を交わします。その後、名誉のために杉を切って持ち帰る為に、二人で森へ冒険に出かけ、森の守り神フンババとの戦いに勝利してウルに凱旋します。しかし、杉の木を切った事とフンババを殺したことで神の呪いにかかり、エンキドゥは死んでしまいます。

ギルガメッシュはエンキドゥの死にショックを受け、死ぬという事に抗うように不死のアイテムを探す旅に出ます。そして苦労の後に不死となった神(元は人)に巡り合います。そこで彼が神の列席に加えられたいきさつである洪水神話の話を聞きます。最後にギルガメッシュは不死のアイテムである植物を得るのですが、帰る間に油断した隙に蛇に食べられてしまい、失意の中で都市に帰ってきます。

気づいたこと

オリジナルが完全な状態で残っているわけではないので、様々なバージョンがあるようですが、矢島先生は実際に翻訳もされており間違いのない内容と思います。この物語は様々な切り口での解釈が可能で、私が読んだ本でも異なる切り口がありました。

1つ目は、都市と自然という部分です。自然人であるエンキドゥは元々は獣の仲間だったのですが、ギルガメッシュが遣わした女性と関係を持つことで人間らしくなってていきます(反面、元の仲間である獣は彼から離れていきます)。私は古代の人こそ自然の中で暮らしていただろうと思ったのですが、この物語では都市生活の重要性が説かれています。エンキドゥは本来の”自然人”から人間らしくなり、都市に入ってギルガメッシュと無二の親友となります。この当時には都市こそが素晴らしいという概念があるように思いました。

2つ目は森の中に入り杉の木を切り倒す部分です。神の怒りによりエンキドゥは死んでしまうのですが、これは自然破壊への警句と考えられます。ギルガメッシュは自分の力を誇示するがあまり神の怒りを買った、という所でしょうか。実際にこの地方では山の木を伐採しすぎて森が無くなり、川の下流では土壌的に弱くなり、農業に大打撃があったことが歴史上知られています。この杉というものは恐らくレバノン杉であり、レバノンの国旗にも書かれている程に有名な杉ではありますが、伐採されすぎてほとんど今は残っていないそうです。

他にも”死”という事に抗い、不死のアイテムを探すギルガメッシュは旅の途中で酒場の女主人と会います。女主人は”死”は神が人に割り振られたもので、どこまで彷徨っても不死などは無いでしょう、それよりも今の生を楽しみなさい、と忠告します。彼は2/3が神でありながらも人間同様に死は免れないとされており、この部分の文章は哲学的でもあります。そして後々の物語の元になったと思われる、最も有名な洪水神話があります(アトラハシースの神話としても知られています)。苦労して不死のアイテムである植物を手に入れながらも、都に帰る寸前で失ってしまい、失意のうちに帰還する所で物語は終わります。単なる英雄譚でない部分も興味深いです。

古の物語には今の私たちがよく目にする物語の原型があるのかもしれません。物語は時代によって話のままに、あるいは構造は同じくストーリーを少しづつ変えながら(例えばチャンドラーの”長いお別れ”から、村上春樹の”羊をめぐる冒険”のように)受け継がれていくものだという事を感じました。

読んでいただきありがとうございました。





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