古賀及子(こがちかこ)

「確かにどこかに実在した日々がこれです」 どうってことない日々を書くのが好きです。日中はデイリーポータルZ編集部ではたらいています。 日記エッセイ『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)

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    • シカクのひみつマガジン

      大阪のZINEセレクトショップ「シカク」のマガジン。業務日誌、ゲストの読み物、音声や動画、昔のメルマガや出版物からの蔵出し記事などを月4〜5本更新します。連載ごとのまとめは「ハッシュタグ」からどうぞ。いただいた購読費はお店の運営費にあてられます。

    • 『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』生の日記

      書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。

    • 日記 まばたきをする体

      webライター、編集の古賀及子の日記です。

    • 思い出のはなし

      古賀及子のnoteの中で思い出話のやつをまとめております。

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    古賀及子(こがちかこ)とは

    日記を書いています 2018年10月後半~2020年4月上旬は毎日更新、その後不定期更新で日記を書いています(はてなブログからnoteへ完全移行しました)。バックナンバーはすでに公開を終了しているものがほとんどです。過去の日記を収録した本が出ました。なにとぞ……! 最新日記の更新はTwitter(@eatmorecakes)でご案内しています。 Instagram(eatmorecakes)はストーリーを更新しがちです! ~日記のご好評回~ ~日記じゃない文章のご好評回

      • 8畳のパン

        朝ごはんはおおむね食パンと決まっていて、私と娘は8枚切りを1枚、息子は6枚切りを1枚食べておのおの今日の胃をはじめる。 おかずは冷蔵庫のぐあいによるけれど基本的には卵とハムかソーセージ、あとなんらかの野菜というフォーメーションが多い。 おかずがパンに合うものならパンに乗せたり挟んだり、あとはジャムやはちみつ、ピーナツバター、あとあんこもランダムに登場する。 娘はよく、パンを折る。間にハムやジャムを挟んで畳んでもがもが口に押し込む。 娘は朝起きるのがのんびりだから、登校

        • 現金は妄想を見せて人をまどわす

          子どもたちが学校へ出かけていった頃はまだ曇りだったのが、呼び鈴が鳴って宅配便ですと、玄関をあけたら大雨だ。 台風の影響で線状降水帯というのが発生しているらしく、東京の自宅のあたりも昼前からずいぶんの降りだった。 こんな日の配達になってしまって申し訳ない、重々お礼を言って受け取って中を開けば親戚から届いた芋と桃で、桃がもうだいぶやわらかく熟れていたから届けてもらえてとても助かった。 昼めがけ、オーブンで届いたばかりの芋を焼き、ちょうど昼休みに焼けて食べたらうまい。私は芋を

          • 現実だったらあんまりだ

            起き抜けに会うから、同居の者には夢の話をするだろう。 寝たり起きたりする瞬間に近くにいる人との間には、そうでない人とは違う種類のコミュニケーションがあって、そのひとつが夢だと思う。 意味がぜんぜんわかんないのだが(それが夢というものなのだけど)、両手それぞれで逆側の肘をつかんで腕をコの形にする、その腕のさまをでかい彫刻にしたものが、本邦の門のデザインの基本である、という夢を見たのだ。 (なんで門ってあんな気持ちの悪いデザインなのだろう)(もっとこう、普通でいいのに……)

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            たくさんの人がどこかに必ずいる

            天井の上で小さく足踏みする音がする。 おや、ねずみかな、また出たのかと、目をつぶったまま頭で起きて困ったが、うすく目を開けしっかり聞いて、音の絶え間なさとゆるやかで複数の強弱に、ねずみじゃないな、雨音だと分かった。 夜の雨は起きてしまえばもうやんで、ベランダのアボカドの鉢の土が湿り、水やりの手間がはぶけた。 いつもは時間差の朝食になる家の人々が、今日は惑星直列的にびたっと時間がかみあったらしく、台所の食卓にそろったら空間が狭かった。 子どもはふたりとも、もう私よりも大

            私でありあなたである可視化された唯一の姿

            外を歩いていると、私のような人がなぜいないのかといつも思う。 すぐに傘がおちょこになる人、ほどけた靴紐に引っかかってころびそうになっている人、晴れているのに蹴り上げた砂で服のすそが汚れている人。 ぜんぶ私だけの気がする。 雨が降ると自分以外の人たちはみな折り畳み傘をちゃんと持っていて次々に傘を開いていく、傘を持っていないのは自分だけのような、あの感じがずっとある。 きっとそれは私が私だからそう感じるのだとは分かっているのだ。誰にとっても自分は孤独だ。 唯一、リュック

            知らないどこかにあるはさみ

            喉からの音が低くうなって、あたりに暗く響いた。 お腹から出すような、大きな声を出さんとする意思の音ではなくて、やむを得ず自然としぼりあがるようにも聞こえおそろしい。 まだ部屋着で頭だってぼさぼさのまま廊下を歩いていたら、後ろからそんな不安な音がしたのだ。 おののいて振り返れば娘が両手を挙げてこちらへ向かってくるのであった。 「急いでるんだけど、どうやってお母さんにどいてもらったらいいかわかんなくて……」と、それでうなったらしい。 そんなことがあるのか……。道をあけ、

            体のどこかにいくばくかの当帰芍薬散

            寝る私を見てみたい。不在が疑われるほどに、寝床からいなくなるくらい気を失って寝てしまうから、いちど確かめておきたい。 さぞや安らかで、おそらくは貪欲なさまであろう。 現れて目覚め起き出した。 息子はもう出かけて居なかった。友達と喫茶店で待ち合わせてモーニングを食べてから図書館へ行くんだそうだ。 洗濯を干していると玄関前から物音がして、さては置き配だな。すすめられて先日注文した漢方系のサプリメントだ。 受け取って開封するとなつかしいにおいがして、これは私が小学生の頃飲

            椅子の上に立って拍手し

            朝食の、パンと目玉焼きの乗った銘々のお皿に、あちこちからいただいて少しずつ食べて残ったお菓子を乗せた。おせんべいとかクッキーとか。 ぼちぼちと子らが起きてそれぞれにそれぞれの支度をしている。私は洗濯を干してから台所の椅子に座って本を読んだ。70年代の前衛小説で、読みながらなんでか反射的に最近観たり読んだりした今の時代のコンテンツが思い出した。 それで急に、切なさがこれ以上安く売られるようなことになったらどうしようと不安になったのだ。 切なさの表層をすくったコンテンツによ

            現実のしわを取る:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  身に覚えなく早い時間に目があく。眠気はからだにまだ巻きついて身が起きてはこず、横になって軽く右へ左へころがってうとうと寝たり起きたりを繰り返し、結果的に普段起きる時間になった。起

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            無意識から目覚めるような同意:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  瓶ではなく紙カップのジャムのシリーズにいちごジャム、ママレード、ブルーベリージャムにならんでピーナツクリームがある。昨日ひらめいて買ってきた。買う習慣のないものはひらめきが降りて

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            布団に入らないで服を着てしばらく寝る:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  起き出し、洗濯機を回すべく子ども部屋の前を通ると暗がりのなかで息子がベッドの上に座っていた。国語辞典を片手にしている。 「『うたたね』ってなんだろうと思って調べてた、おはよう」

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            靴下をやぶす:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  家が荒れて会社を休んだ。ここしばらく忙しさを理由に片づけと掃除をさぼっており、部屋がどこも構わない状態になっている。  家というのは誰かが片づけようと面倒を見れば片付くもので、

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            扇風機の風にあおられ鰹節が飛ばなかった日:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  クーラーが、夜中めちゃくちゃに冷やしてくる。  設定温度を高くしても冷気の手をゆるめてくれない。寝ぼけながらいったん切って、すると暑くなるから作動させ、また冷えすぎてを繰り返し

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            これが雑なごはん:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

            書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  遊園地へ行く息子がやたらに早く出かける朝だ。朝食は不要だそうだから、見送りだけすべく出かける10分前に目覚ましをかけておいた。  起きると息子はもう準備万端で、時間に余裕がある

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            ミニストップのソフトクリームの形

            春が終わるような日差しが鋭い朝がきたから、おさげで度のつよい眼鏡をかけた美術部の先輩がオレンジジュースの瓶を手に「これ、キャップでフタができるからすごく便利だよ」と教えてくれたのを思い出した。 高校のころそんな気候の日があって、通学路を行く先輩が持っていたのはかつてあった「きりり」という名前のジュースだ。 まだ90年代が終わらないあの頃は、ペットボトルは2リットルとか大きなのしかなくて、小分けの飲料は缶かギリギリ瓶だった。 「きりり」には、350mlくらいの容量だろうか