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劇団ノーミーツに見るリモート演劇の可能性

役者がいて、スタッフがいて、観客がいて、その全員がひとつの時間、ひとつの空間を共有して初めて成立するエンタメ…演劇

「三密回避!ソーシャルディスタンス!」が唱えられるコロナ禍において、最も成立困難な娯楽と言って過言でないだろう。

そんな中、緊急事態宣言発令からたった2日で発足し、コロナ禍においても演劇興行が成立することを証明した、withコロナ時代のパイオニア的劇団がいる。

その名も、「劇団ノーミーツ」

「No Meet」と「No 密」を掛けたと思しき、ネーミングからコロナ対応への意気込みが満ち溢れた劇団。

これまで、YouTubeやTwitterを通して、リモートあるあるのショートムービーを公開していた彼らだったが、ついにこの土日、初めての長編作品完全リモートで制作し、ZOOMを通したライブ配信で公演に至った。

新型コロナウィルス流行に伴うあらゆる劇団の公演中止に、演劇ファンとして非常に歯がゆい思いをしていた私は、演劇界に貢献しながら未来感のある演劇手法に触れられるなんて一石二鳥!と光の速さでチケットをポチったわけである。

そんな私が感じた劇団ノーミーツ初の長編作品「門外不出モラトリアム」のココが凄い!

❶「おうち時間」のポジとネガを描いたストーリー

まず、「門外不出モラトリアム」のストーリーについてだが、劇団のHPには次のようにある。

みんなが家から出なくなって4年。
入学からフルリモートのキャンパスライフを送った私は、実感の湧かない卒業を間近に控えていた。
もし、もう一度、家から出られなくなったあの日からやり直せたら、あのささやかな恋も、実ったのだろうか。あいつがいなくなることも、なかったのだろうか。
たとえバーチャルでも、これが私たちの青春。だから、何度でも繰り返す。
何年この時代に生きることになっても。この部屋から、未来を変える。
収束しない事態と、収束する運命に逆らう物語。 (公演HPより)

これだけだと「?」という感じだと思うので、ものすごく簡単に説明するとこんな感じ。

入学からフルリモートの大学生活を送った女子大生メグルは卒業を目前に、一度も会ったことのないクラスメイトのしょーいちに告白するが、しょーいちはリモート生活がもたらしたあるわだかまりを心に抱えておりメグルの思いに応えられない。落ち込んだメグルはタイムリープして自らのキャンパスライフをやり直す。
リモートなりの最適解を目指して。(文:わたし)

タイムリープを折り込んだ脚本自体もちろん面白いのだが、もしこのままリモート生活が続いたら、みんなおうち時間を工夫で楽しくしまくってこうなるよね!というのが詰め込まれていて、そこがかなり見応えがある。

・リモートクラブ(DJがいる。みんな背景でパリピ感を演出)
・バーチャルスイカ割り(?)
・バーチャルナイトプール(インスタで流行っているらしい)
など。


現時点での私たちの感覚では「いやいや」となるようなことも、数年間「おうち時間を工夫で楽しく」した結果なので笑い飛ばせないものがある。

一方でこんな声も上がる。
「リアルの代わりのものでごまかし続けるなんておかしい」

今、私たちはみんなが等しくかけられた制限下でいかに人生を楽しむかの勝負をしている。よりクリエイティブティのある者が、より人生を楽しんでいるように見える。
わたし自身、日々新しいオンライン〇〇に挑戦しているし、劇団ノーミーツ自体が尋常でないクリエイティブティを発揮してリモート演劇を実施している。
そんな私たちの必死の足掻きに一石投じるこのセリフ(=ノーミーツの自己批判なのではないかとすら感じる)はかなりしんどいが、間違いなく真実である。

「おうち時間を工夫で楽しく」のポジもネガも描き出し、作品として昇華させたストーリーは今の時勢にぴったりで胸を打つものであった。

❷リアルタイム性

そもそも、普通に考えてリモートで新作を作った事自体がすごいのだが、コロナ禍で娯楽に飢えた私たちに新作をもたらすという神対応をした団体は実は「ノーミーツ」だけではない。

最も早く動き出したのは2018年に日本中を笑いの渦に落とし込んだ「カメラを止めるな」のメンバー。
3月末の時点で社会が「新作」のエンタメに飢えることを予期していた彼らは、なんと緊急事態宣言発令後たった6日の4月13日に「カメラを止めるな!リモート大作戦!」と題した約20分間のショートムービーをYouTubeで無料公開し、「リモートでも映像作品は作れるんだ!コロナに負けるな!」と日本のエンタメファンに大きな希望をもたらした。

この「リモートで新作を作り、社会に届ける」という使命感は、小回りのきく劇団のみならず、NHKにも伝播した。
NHKは緊急事態宣言から1ヶ月がたったGWに3日掛けて「今だから、新作ドラマ作ってみました」と題してリモート制作のドラマを3本打ち出した。
また、つい4日前、「リモートドラマ Living」の制作を発表したばかりである。

このように、リモートで新作を作ること自体は不可能ではないという認識は広まりつつあり、すでにあらゆる団体が着手している挑戦である。

そんな中で、劇団ノーミーツが他と一線を画すのは「リアルタイム」、その1点である。

他のリモート映画・リモートドラマの試みが、各自がリモートで撮影した映像を一箇所にまとめて編集し、パッケージ化して公開しているのに対し、「門外不出モラトリアム」は私たちが視聴しているまさにその時、画面の向こう側で役者が演技し、スタッフがカメラをスイッチングしている。
編集一切なし、正真正銘の生物(ナマモノ)なのだ。

導入でもすでに述べたとおり、演劇というものは役者がいて、スタッフがいて、観客がいて、その全員がひとつの時間、ひとつの空間を共有して初めて成立するエンタメである。その特性により、演劇作品はリアルタイムでしか起こり得ない化学反応を持って1公演ごとにその姿を変化させる。
その化学反応の要因は予想外のハプニングであったり、観客の反応であったりする。

それと全く同じことが「門外不出モラトリアム」ではオンライン上で起きていたのだ。

リモートで新作発表も大概だが、リモートかつライブで新作発表なんて奇想天外にもほどがある。当然ながらアクシデントだって起こる。
私が見た回では、仲良し5人組が集まってひそひそ話している時に、無関係のキャストが誤ってトークルームに入ってしまうというアクシデントが起きたが、その時の役者陣のアドリブには、これこそ演劇の醍醐味!という素晴らしさがあった。

さらに「門外不出モラトリアム」はライブ作品を提供するだけでなく、観客がリアルタイムでコメントできるチャットルームを併設しているのだが、あるシーンで観客が大喜利し、それに対してキャストがコメントを入れていくという非常に面白い演出があった。まさにライブでしかあり得ない、役者と観客との化学反応である。

観客との化学反応に関しては、生の演劇よりもオンライン上のチャットの方がはるかに進んでいる。生の演劇では観客の声を拾えたとしてせいぜい数人。そもそもライブで観客側からできる反応は限られている。大抵は拍手程度しかできない。
それが、オンラインのチャットルームでなら、同時に視聴している観客600人が一斉に文章で意見を表明する。
いくつかの意見はリアルタイムで作品に影響をもたらし、また膨大なチャットの履歴は劇団へ貴重なフィードバックとして大切に保管されるだろう。
ZOOM演劇を通して、観客との演劇共創の進化形を見たと感じた。
この共創のあり方に関しては、Afterコロナの世界でも演劇界に残るだろうし、残すためにどうすべきか今のうちから考えるべきだと思う。

❸演劇興行として成立している

これ、全然いやらしい話とかではなく、本当に重要な点だと思う。
マネタイズできるかどうか。

今、演劇に限らず、あらゆるエンタメ業界のビジネスが停止している。
あえて嫌な言い方をするが、俳優にもスタッフにも仕事がない

上にあげた「カメラを止めるな」のリモート映画も無料公開(広告なし)だし、NHKはそもそも公共放送なのでスポンサーがつかない。
いずれも作品そのものの力でマネタイズするものではなく、あくまで娯楽不足に疲弊した社会への善行として実施されている

ミュージカル界の大きな動きとしては、【Shows at Home】民衆の歌 / Do You Hear The People Sing ? と題して著名ミュージカル俳優がリモートで大作ミュージカル『レ・ミゼラブル』の民衆の歌を歌った動画がYouTube上で無料公開され大きな話題を呼んだ。そして、こちらもカメ止め同様広告はぶら下がっていない。完全なる善行でありサービスだ。

コロナ禍で平常通りの仕事はできない。
しかし、彼らには制限された「オンライン」「リモート」という環境であっても、人々にコンテンツを提供し、感動を与える力があり、本来なら対価をもらってしかるべきなのだ。
彼らには仕事がない。社会に提供できる素晴らしいコンテンツがありながらマネタイズできていない。すべきでないという社会の空気感すら感じる。

そんな中、劇団ノーミーツの「門外不出モラトリアム」はチケットを買ってくれたお客さんにだけZOOMのURLをクローズドで連絡するという手法を取っており、完全な「演劇興行」なのである。

そして実際どうなったか。
全4回の公演のうち、私が見た初演では600人弱もの同時視聴者がいた!

チケット代 ×   600人 ×   4回 = (気になる人はチケット代を調べてね)

ビジネスとして大成功である!!

「みんなが苦しい時なんだからみんな身銭を削って…」という日本の古い美学もオンライン化の波に乗ってアップデートしてはどうか?
みんなが苦しい時だからこそ、世の中に元気を与えられる「アイデア」そのものの価値が上がる。
価値あるクリエイティビティの結晶に然るべきお金を支払うことで停滞した経済を回すことは社会善なのだという風に。

劇団ノーミーツの「門外不出モラトリアム」はそのパイオニア的な存在だ。彼らは
 ・コロナ禍でも
 ・リモートでも
 ・役者もスタッフも一度も会ったことがなくても
 ・劇場がPCの画面になっても
その作品に対価を払いたいと思う演劇ファンが大勢いること
善行ではなく、ビジネスとしての演劇興行が成立することを証明したのだ!

「門外不出モラトリアム」

5/24(日) 15:00〜 / 21:00〜 

まだチケットあるそうですよ〜!!!
https://nomeets2024.online

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