書籍紹介_ゼロからトースターを作ってみた結果

ノンデザイナー向けプロダクトデザイン書籍~その2「ゼロからトースターを作ってみた結果」~

おすすめ書籍を書いていたら、ふともう一冊面白い書籍を思い出したので紹介してみたいと思います。

■ゼロからトースターを作ってみた結果

(画像はAmazonさんから引用 リンクはAmazonへ飛びます)

■DIYレベル100

題名から分かる通り、ほんとにゼロからトースターを作ってみたロイヤル・カレッジ・オブ・アートの大学院生の卒業制作ブログを書籍化した本です。元はハードカバー本だったのが文庫になったのがこれだったと記憶しています。
ちなみに、表紙の無残なるデロデロのブツが自作したトースターです。
なぜこんなにデロデロなのかというと、この作者何を思い立ったのか、
トースターを、石油や鉱石レベルの原料から作るぞ!という目標のもと、国をまたいでの原料採掘旅行にでかけ、工場が必要なレベルの加工を自作の道具で行ったためです。
うーん、控えめに言ってやりすぎ。外装筐体のプラスチックも、石油の精製を断念して、最終的にじゃがいもデンプンでバイオプラスチック精製を強行した結果です。


■軽快で愉快な文体と豊富な資料

この本も非常にカジュアルな文体で書かれており読みやすいです。
元がブログということもあってか、こっちに向かって友達が話しかけてくるような印象がなんとも気持ちいい。
写真も多く、何をやってきたかが伝わりやすいです。
この写真がまた面白くて、へっぽこ設計図が出てきたと思ったら、トンデモ鉄精錬装置が出てきたりとツッコミどころ満載です。お金の無い学生さんだからこそできる強行手段が笑いを誘います。


■教訓。僕らの身の回りのプロダクトって

さて、ただただ笑って愉快なだけで終わらないのがこの本の魅力。
この本の教訓は、生活空間を取り囲むプロダクトはとんでもないエネルギーをかけて生まれてきているのだと、改めて気付かされることです。
彼が七転八倒しながら歩んだ制作の流れは、僕達のご先祖様が実際に体験したイノベーションの歴史でもあります。
某100円ショップで売っているものでさえ、このイノベーション史の果てにたどり着いた価格であるということです。裏返せば、どんなに安くてチープなものでも、その全ては人類の技術史をまるっと包含したすごいモノなのです。
彼は本書にて市販のトースターを分解した結果「400種類以上の部品が詰まった道具が約500円で売ってるとか絶対おかしいだろ!(意訳)」と語っています。
ホントおかしいですよね。僕もそう思います。どんなに頑張っても僕は100均の洗濯ばさみのバネ一つひねり出せません。明らかに100円なんかじゃ収まらないエネルギーがそこにはかけられています。物理的にも心理的にも。


■消費と欲望について

彼は本書のクライマックスで、プロダクトには値段にならない多くのリスクが隠れていることを鋭く指摘します。
都度の材料精製による資源・環境リスクや、副産物の廃棄リスク、その最終責任がうやむやになっているという構造的リスク。それらリスクを前提に僕達の生活品の廉価を実現しているという矛盾。
特別それが欲しいわけではないけど、「みんな持ってるし、なんとなく」で物を買ってしまう僕達の「貧しさ」に切り込んできます。

僕達はあまりにも当たり前に身の回りにすごいテクノロジーが溢れてしまっていて、いろいろと麻痺している部分があるように感じます。
便利・安全はもちろん、保証もサービスも当たり前の現在で、それを怠った組織や人間を平気で罵れる気持ちが僕にはあります。これはどう考えても貧しいあり方です。
そこに至るまでの経緯や、関わった人間の努力を思えば、そうホイホイと文句を言ったり、上から目線にはならないものです。

もし本書を手にとって、身の回りの世界や人、モノ、サービスの背景を想像できるようになったら、多分世の中ちょっと幸せになると僕は信じています。

そんなおすすめの本でした。おやすみですー


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